小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

BNP党首のBBC出演で大騒ぎ

 極右で白人主義の英国国民党(British National Party, BNP)の党首が、昨晩、BBCのクエスチョン・タイムと言う番組に出演し、昨日から今日にかけて、メディアが大騒ぎとなっている。この番組は政治家や著名人がパネラーとして出演し、会場にいる聴衆から質疑応答を受ける、というもの。普段はあまり話しかけることができない大物政治家などに直接声をかけることができる。一般市民が何を考えているのかを測ることができる番組でもある。これにパネリストとして出られたら、とりあえずは一流と言うか、ある程度功績が認められたことにもなる。

 この番組にBNPのニック・グリフィン党首が出る見込みとなった時、BBCは批判の矢面にたった。「あんな人種差別主義者を出演させるなんて」と。BBC側は、政党として合法な団体であることや、実際に国民がこの政党に投票し、6月の欧州議会選挙では2議席を獲得している(党首もその一つを得た)ということを指摘し、「いつかは呼ばないわけにはいかない」とした。

 私自身、何故これほどまでに反感・出演に対する反対の声があるのかなとやや不思議だった。「言論の自由」をよく話題にするメディアらしくないな、と。私の察するところ、人種差別主義的言動(白人しか党員になることを認めていないなどー近いうちにこの部分を変えるそうだが)が特に反感を呼んでいるようだ。人種差別をしないように、という社会全体としての意識は私の想像をはるかに超えるほど強い。

 実際の番組を見ていたら、パネリストたち及び司会者がグリフィン氏に対し、怒り+叫ぶように問いただす場面が続いた。司会者は普通中立であるべきなのだろうが、少なくとも番組の前半では反BNPという態度があらわだった。「グリフィン氏=悪者=みんなでやっつけよう」という感じ。会場全体が左派に傾いているようで、目に余る感じがあった。一種のリンチにも見えた。それもこれも、やはり人種差別やBNPが主唱していることを憎むという感情が強いからだろう。それにしても・・・という感じではあった。

 グリフィン党首は最後のコメントで、出演できたのは「左に傾いたBBCが、バランスの取れたメディアであることを証明しようとして、出演させざるを得なくなった」というような論評をしていた。やっぱりなあという感じである。
 
 そして、私が唯一おもしろい質問だと思ったのは、参加者の1人が、「BNPに国民が投票したのは、他の大手政党が移民問題に関して失敗したからではないか?」と聞いた時だ。保守党の代表者のパネリストがこれに基本的に賛同したが、ストロー司法相はしどろもどろの答え。注意深く他のパネリスト(主に政治家たち)の声を聞いていると、あまりよい答えになっていない。ほとんどが「移民の流入を抑える」などの話に。

 移民の流入を抑える話を政治家が言うと、ほとんどの場合、つじつまの合わない話になる。つまり、英国は欧州連合の一員であるから、原則としては流入を抑えることができない。2004年、EUが東方拡大した時、流入を限定することが可能だったのだが(雇用などでモラトリアム期間を設定するなど)、それをしなかった。EU以外の人の流入を抑える・・・というと、まさに有色人種の人の流入を抑えるようなことになってしまう可能性がある。保守党パネリストは「最も才能のある、頭のいい人だけが入れるようにしたい」と言っていたが、他の国から「才能ある、頭のいい人」をどんどん集めてしまったら、他の国が困ってしまうのではないか?(困ることはないだろうけど、それでいいんだろうか?)それほど才能がない国民は、ますますジリ貧になるのではー?などと思ってしまう。

 どことなくバイアスがかかったBBCの番組報告

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/8321683.stm

http://en.wikipedia.org/wiki/British_National_Party
by polimediauk | 2009-10-23 19:25 | 政治とメディア