英紙サンと政治報道:「新聞協会報」から
http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=44561
9月末にサン紙が与党支持を撤回したが、ブラウン氏はこれに言及して、「サンは政党になろうとしている」と述べた。サンが野党の保守党にその支持をくらがえしたことは「大きな間違いだ」と続けた。
「ルパート(マードック)を個人的に悪く思っているわけじゃない。いつも私には非常に友好的にしてくれている」、しかしサンは・・・というわけである。
マードックはもうブラウン氏にさよならを言ったのかもしれないーサンを保守党支持にすることで。サンの編集長は常に否定するのだけれど、マードックがサンの最終的な編集長であることはマードック自身が認めている。
英国の新聞は支持政党を結構表に出す。そんな状況をサンの例を見ながら、新聞協会報(10月27日付)に書いた。以下はそれに補足したものである。
英大衆紙「サン」が与党支持を撤回
新聞は総選挙にどこまで影響を及ぼせるか?
英国で最大の発行部数を持つ大衆紙サンが、9月30日付の紙面でブラウン労働党政権への支持を撤回し、野党保守党にくら替えする方針を打ち出した。来年6月までに実施予定の総選挙で、サン紙の支持を失った労働党はより厳しい戦いを強いられそうだ。英国の新聞はそれぞれの支持政党を明確にする。サン紙の支持政党は選挙結果を先読みする指標となってきた。しかし、有権者への影響は思っているほどには大きくないという見方もある。
サン紙は発行部数が300万部を超える。ライバルとなる大衆紙デーリー・メールの部数は約220万部、高級紙4紙(テレグラフ、タイムズ、ガーディアン、インディペンデント)の合計部数は200万部ほどで、サン紙の部数規模は突出している。
サン紙はメディア王ルパート・マードック氏傘下のニューズ・インターナショナル社が発行。英国には同氏傘下の新聞としてサン、タイムズ(約60万部)、日曜紙ではサンデー・タイムズ(約110万部)とニューズ・オブ・ザ・ワールド(約300万部)があり、合計部数は約800万部となる。これらの「マードック・プレス」がどの政党を支持するかが世論の動向に影響を及ぼす構図がある。
中でも特に大きな影響力を持つとされるのがサン紙だ。1979年、サッチャー保守党政権誕生直前に、これまでの労働党支持を変更し、「保守党に投票しよう」と呼びかけた。92年の総選挙では、世論調査で保守党の支持率を超えていた野党労働党に投票すれば悲劇的な結果をもたらすと予測した紙面を投票日当日に発行。保守党が勝利すると、「勝ったのはサンだ」と投票日から2日後の紙面で宣言した。
97年3月には「サンはブレアを支持する」と1面で表明。5月、ブレア党首率いる労働党が圧勝し、サンは政権誕生の立役者としての地位を喧伝(けんでん)した。
2005年の総選挙では、投票日前日にブレア氏の男性としての魅力を妻が語る記事を掲載し、投票日当日はブレア氏とブラウン財務相(当時)をサッカー選手に見立てた写真を1面に出し、労働党に投票しようと呼びかけた。
メディア操作に関する複数の著作を持つニック・ジョーンズ氏は、サン紙の「プロパガンダ」報道は「民主主義社会にとってよくない」と嘆く。
今回、サン紙の支持政党くら替えが判明したのは、早版が出た9月29日夜。同日午後にはブラウン首相が労働党の年次大会で「勝利に前進を」とするスピーチを行っていた。サン紙は翌日付の1面で「労働党は自らを失った(Labour's lost it)」と題する社説を掲載した。
新聞が世論を決めているのか、あるいは世論が新聞の論調を決めるのかに関しては、政治学者の間でも諸説がある。10月4日付のガーディアン紙で、ストラスクライド大のジョン・カーティス教授は「サン紙が世論を決めているのではなく、世論の動きを反映した論調を掲載しているだけだ」と述べた。インターネットの普及などメディアの多様化で、1紙の影響は少ないとする見方もある。
(補足)一方、コラムニストのピーター・ウィルビー氏は毎日のように特定の視点を持った報道に触れていれば、「何らかの影響が及ぶのは自然」であり、連日、ある政党にとって否定的な報道が出れば党内の「士気に影響する」と見る。ブレア元首相の元側近アラステア・キャンベル氏はメディアが多様化したので、「1つの新聞が支持政党を変えたからといってあまり大きな影響はない」(9月30日付)としている。(これをそのまま信じる必要はない。むしろ、衝撃を少なくするための嘘の発言である可能性もある。サンの今回の報道に労働党員らはかなり衝撃を受けたという報道がある。)
私自身の判断は、サンはムード作りがうまい感じがする。実態は違っても「そうかな」と人に思わせてしまう。典型的なプロパガンダだろう。「サンが世論を作っている」と思わせるプロパガンダという意味でも。
それにしても、もうブラウン政権はだめかもしれないと思う。アフガンで英兵が続々と亡くなっているのに「後戻りはできない」というようなことを言っている。まじめな人なのだろうが、言葉が心に響かない。アフガン派兵と国内のイスラム・テロ発生を防ぐという2つのことは、どうしてもうまくつながらないのだ。それに、アフガンを西欧型の民主国家にするのに、一体何年かかると思っているのだろう(30年?)。国家再建というのは2-3年ではできないだろう。といっても、2001年からもう8年になるのだが。何せ結果がなかなか出にくいのだ。うろうろしているうちに、選挙で負けそうだ。