小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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EU大統領とブレア元首相:「英国ニュースダイジェスト」より

 一体、ブレア元首相は「EU大統領」になるのか、ならないのかー?全ては19日にブリュッセルで開催される、初代の欧州理事会常任議長(EU大統領)を選ぶための臨時首脳会議で決まる。もうあと数日である。

 欧州連合(EU)の新基本条約「リスボン条約」をチェコが批准したのは今月3日。欧州は新たな統合の時代に入ったともいえる。来月発行予定の新条約下では「EU大統領」とも呼ばれる欧州理事会常任議長の職が新設されるが、ブレア元英首相が有力候補の1人として名前があがった。政府がブレア氏を推す一方で、国民の中からは反対の声も出た。この話をブレア元首相に焦点をあてて、「英国ニュースダイジェスト」(11月12日号)にまとめてみた。以下はそれに若干足したものである。

―EU大統領の仕事とは?

 詳細はまだ未定のようだが、BBCニュースが報じていたところによれば:

―全加盟27カ国が選ぶ
―就任期間は2年半
―再選は一度限りのみ可能
―年間給与は24万7000ポンド(約3660万円)
―欧州連合(EU)のサミット会議の議長役に
―EU理事会の仕事を前進させる
―欧州内の結束と合意を促進する
―世界の舞台で欧州連合を代表する

―これまでの話

 2007年6月、10年以上に渡る首相の職を辞したトニー・ブレア元英首相。現役時代に比べるとメディアに登場する頻度はすっかり減ってしまったが、アイルランドが2回目の国民投票でリスボン条約(詳細は関連キーワード参照)を批准した先月あたりから、再度の脚光を浴びだした。

 リスボン条約は既存の欧州連合(EU)基本条約を修正する条約で、欧州理事会の常任議長の新設を定めている(現在は6ヶ月ごとに交代する)。いわば「EU大統領」ともいうべきこの職に、ブレア氏が最適だという声が出てきたのである。現在56歳でまだまだリタイアする年齢ではなく、かつ知名度は欧州に限らず世界的に高い。中東特使であることを除けば公的な要職に就いているわけではないので、身体があいているーそんな点が候補枠の射程内に入ったのだろう。リスボン条約の発効には全加盟国で条約が批准される必要があったが、アイルランドの批准で、残すところは後チェコ一国のみとなった上に、当初、サルコジ仏大統領がブレア支持の姿勢を見せたことで、一気に「ブレア=新大統領」への現実感が高まった。

―英政府も支援

 しかし、国民の意見は賛成派と反対派とで大きく分かれた。反対派は「ブレア氏は欧州よりも米国に近い政治家」「ブッシュ前大統領に協力し、イラク戦争を開始したのは許せない」「首相時代、欧州連合のために何もしなかった」「欧州の悪いイメージを世界に広げてしまう」など。賛成派は「知名度が抜群」「英国の政治家が欧州を代表することは英国にとっても良い」「北アイルランド和平の実現など交渉力に優れている」など。

 特にブレア支持の旗振り役となったのがミリバンド外相だ。欧州は「強い声」を持った指導者が必要だとして、ブレア氏は最適だと表明した。ブラウン首相もブレア氏は「素晴らしい候補者」であり、政府としてもブレア氏のEU大統領就任を支持する姿勢を示した。ミリバンド氏自身が新設予定の「EU外務大臣」に就任するのではないかという噂まで出た(本人は11月上旬、記者会見できっぱりと否定。)

―独仏の支持は得られず

 ところが、一時はブレア支持派とされたサルコジ仏大統領が(候補者は)「ユーロ圏の国がいい」(英国は自国通貨ポンドを維持)と発言しだし、ドイツとフランスはともに英国以外の国から候補者を出すことに合意したと伝えられると、ブレア有力説はいつのまにか急に勢いをなくした。

 ブレア氏自身は直接には候補者となる意欲を示していない。ただし、ブレア氏に近い、マンデルソン企業相はBBCの取材に対し、「ブレア氏はやってみたいと思っているそうだ」と声を代弁した。また、9日付タイムズによれば、ブレア氏は欧州各国の指導者たちに電話し、支持を求めたという。

 チェコ大統領の条約批准署名の後、リスボン条約は12月発効予定となった。外交問題に詳しいBBCの記者マーク・アーバン氏のブログによれば、「大国同士の密室の会議で物事が決まる」という状況は、新基本条約が発効後も変わらないようだ。果たしてブレア氏の返り咲きが可能なのかどうか、目を離せない。

―候補者と噂される人物のプロフィール
(10月末時点での一部の候補者。他にも最有力と言われるのがファンロンパイ・ベルギー首相やメアリー・ロビンソン元アイルランド大統領など。)

ブレア元英首相
 1997年5月―2007年6月まで英国の首相56歳。立候補したわけではないが、ミリバンド外相が最適の人物と賞賛。首相退任後は、中東特使、コンサルティング業務を扱う「トニー・ブレア・アソシエーツ」代表、「トニー・ブレア・フェイス」財団代表、ベンチャー支援の「ウインドラッシュ・ベンチャーズ」、JPモルガン銀行やチューリッヒ・フィナンシャル社の顧問、講演、米イエール大学のフェローなど、忙しい日々を送っている。

ジャン=クロード・ユンケル
 ルクセンブルクの首相兼財務相」。出馬を表明している。55歳。ユーロ圏の大蔵大臣・財務大臣で構成される「ユーログループ」の議長で、「ミスター・ユーロ」と呼ばれる。保守中道系のユンケル氏をサルコジ仏大統領は支持する見込みだが、「欧州連邦」の形成を危険視するブラウン英首相は反対すると言われている。

ヤンペーター・バルケネンデ
 オランダ首相。53歳。小説「ハリー・ポッター」シリーズの主人公ハリー・ポッターに顔が似ていると言われる。ベルギーの元外相が「ハリー・ポッターにお堅いブルジョアの知恵を混ぜた人物」と評され、外交問題にまで発展したことも。2002年から首相となり、オランダの国際的地位を高めた政治家と評価される一方で、国内の人気は低迷気味。

ウォルフガング・シュッセル
 オーストリアの元首相。64歳。1999年、極右のオーストリア自由党と連立を組んだことで大きな批判を浴び、欧州連合内でオーストリアは無視された状態にもなった。しかし、自由党の弱体化と内部分裂をもたらした人物として後に高く評価されるようになった。ドイツの支持が得られるのではという噂が。

ヴァイラ・ビケフレイベルガ
 ラトビアの元大統領。71歳。同国初の女性大統領(2000年―2007年)だった。イラクやアフガニスタンの派兵を支持し、ラトビアの「鉄の女」とも言われる。リスボン条約発効後にEU大統領に立候補をすると表明している。同国ばかりか隣国リトアニアからも欧州連合大統領就任への支持が出ると見られている。

ジョン・ブルトン
 元アイルランドの首相(1994年ー1997年)で現在は駐米欧州大使。62歳。北アイルランド和平に尽力した。ワシントンで欧州連合の「顔」になっている点や保守中道「欧州人民党グループ」のバイス・プレジデントだった点からも最有力候補の1人。

―関連キーワード

Lisbon Treaty: リスボン条約。既存の欧州連合(EU)基本条約を修正する条約で、12月発効予定。全加盟国による批准が必要とされていたが、2005年、フランスとドイツが国民投票で条約批准を否決し、一時、危機状態に。両国は後、それぞれの国会で批准した。アイルランドは今年10月の第2回目の国民投票で批准した。チェコのクラウス大統領が批准署名を見送り、発効までの最後の障害となったが、11月3日、同国の憲法裁判所が条約を合憲としたことで、署名に至った。条約は欧州理事会常任議長(EU大統領)職の新設を定めている。

ー欧州連合加盟27カ国とは

国名(加盟年*)
ルクセンブルグ(1958年)
ベルギー(1958年)
フランス(1958年)
ドイツ(1958年)
イタリア(1958年)
オランダ(1958年)
デンマーク(1973年)
アイルランド(1973年)
英国(1973年)
ギリシャ(1981年)
ポルトガル(1986年)
スペイン(1986年)
フィンランド(1995年)
オーストリア(1995年)
スェーデン(1995年)
ハンガリー(2004年)
リトアニア(2004年)
ラトビア(2004年)
マルタ(2004年)
エストニア(2004年)
キプロス(2004年)
チェコ(2004年)
ポーランド(2004年)
スロバキア(2004年)
スロベニア(2004年)
ブルガリア(2007年)
ルーマニア(2007年)

ー欧州連合(EU)の歴史

1951年:フランス、西ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグの6カ国が欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)設立条約(パリ条約)に調印。
1952年:ECSC設立
1957年:同6カ国が欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体を設立するローマ条約に調印
1958年:EEC、欧州原子力共同体発足
1967年:ECSC、EEC、欧州原子力共同体の執行部が統合し、欧州共同体(EC)発足
1992年:欧州連合条約(マーストリヒト条約)調印
1993年:欧州連合(EU)の発足。
1999年:単一通貨ユーロの段階的導入
2001年:EU拡大に向けてのニース条約調印
2002年:ユーロ通貨発行
2004年5月:中・東欧の10カ国が新規加盟。
同年10月:加盟国が欧州憲法条約に調印
2005年:フランスとオランダが国民投票で憲法条約批准を否決
07年1月:ルーマニアとブルガリアが新規加盟し、全加盟国は27カ国に
同年12月:リスボン条約を調印
2008年:アイルランドが国民投票でリスボン条約批准を否決
2009年10月:アイルランドが2回目の国民投票でリスボン条約批准賛成
同年11月:チェコのクラウス大統領がリスボン条約の批准書類に署名
同年12月:リスボン条約発効予定
by polimediauk | 2009-11-13 23:13 | 政治とメディア