小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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イラク戦争の意義ー3

「公的利益」にかなえば情報の公開も?

 2003年3月開戦のイラク戦争が、果たして国際法から見て、合法だったのかどうか?解釈は、英国内の弁護士たちの間でも、少なくとも2つに分かれている。(国際法自体の意義を問う人もいる。)圧倒的に「違法」とする声が多いが。

 ブレア首相に司法アドバイスをしたゴールドスミス法務長官は、かねてから、「新たな国連安保理決議がなければ、イラクへの武力行使は違法だ」としていたが、開戦直前になって、「新たな決議なしでも合法」とした。これが、開戦への事実上のお墨付きとなった。

 法務長官の突然の心変わりの謎を解明するには、「違法かもしれない」という、ためらいがちのアドバイスが書かれていたと言われている、「2003年3月7日付の、ブレア首相への書簡」が鍵となるとみられている。

 この書簡の公開願いを、今年1月から実施された情報公開法に沿って、各メディアは要求してきたが、これまでのところ、他の多くの例外事項同様、公開されていない。

 しかし、昨年来の執拗なメディアの追及、特に先週からのチャンネル4によるスクープ(元外務省の法律顧問が、辞職願いの手紙の中で、法務長官の心変わりを明記していた)の後、緊急に国会審議が開かれ、政府側がこの点に関して野党議員などからも追及されるという流れとなった。

 メディアによる権力の監視という観点から見ると、1つの理想的な流れとなって事態が進展した。

 25日(先週の金曜日)、BBCのラジオ番組に、情報公開法の運用度をチェックする「情報長官」(インフォメーション・コミッショナー)のリチャード・トーマス氏が出演。既に、この「3月7日の書簡」を公開するかどうか、調査を開始した、と述べた。

 いつまでに公開するか、そもそも公開するのかどうかは、「答えられない」としたが、これまで「非公開」としてきた書簡に関して調査を開始したというのは、前進だ。

 情報公開法は中央及び地方政府・自治体が持つ公的情報に関して、一般市民などが公開を要求できる、というもの。リクエストは書面で行う。最長で20日以内に、行政は返答する。既に情報公開法があるアメリカや日本と比べると、英国の情報公開法の施行は非常に遅かった。

 国家機密に関する情報など、例外として非公開になる場合もある。(例外が多すぎる、と批判されている。)しかし、「公的利益にかなう」と見なされれば、後に公開される可能性がある。

 法務長官の書簡の公開が、果たして「公的利益にかなう」と判断されるのかどうか?もし公開されないとしたら、それなりの理由がないといけないことになった。

 市民が参加する討論番組などを見ると、国民の間では、「公開するべきだ」という意見が多い。しかし、政治家や法律家の一部には、公開しないほうがいい、という声もある。これまで、法務長官が時の首相に法的なアドバイスをするとき、内容は一切秘密とされてきた。今回イラク戦争に関してそのアドバイスの簡略したもの(A4で1枚)が発表されたが、これは異例中の異例で、通常は国家機密扱いになるのだった。

 もし法務長官の首相に対する法的アドバイスが、常に国民に一般公開されることになったら、長官は秘密のアドバイス、首相だけに言っておきたいこと、首相のみが知るべきだと思うことなどなどを、伝えることができなくなる。このシステムを守ることは非常に重要だ、というのが、「書簡を公開しない」方を支持する人々の意見だ。

 BBCの政治記者アンドリュー・マー氏は、「書簡の行方を追っても、何も出ないと思う。例え公開されたとしても、何故法務長官が自説を変えたのかを説明することはできない。法務長官自身が、説明しない限り」と述べている。

 「何故?」これを証明するのは、非常に難しい。また、「絶対に言わないぞ」とある人が心に決めた場合、「民主主義のために真実を」と言われても、簡単にはいかないだろう。

 ゴールドスミス法務長官の心変わりの理由は、何としても開戦をしたいブレア政権とブッシュ政権の圧力があったからだというのが、もっぱらの推測だ。

 所詮、ゴールドスミス氏は政府のために働いているのだから、首相が彼に言って欲しいことを言っただけだ、それだけだ、と書いたのは、タイムズ紙のコラムニスト、サイモン・ジェンキンス氏だった。

 
by polimediauk | 2005-03-29 07:00 | 政治とメディア