小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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マードックと「ニュースは無料」の神話

 ルパート・マードックが自社サイトのニュースに関して、「グーグルのクローリングをブロックしたい」とテレビのインタビューで語り、「さすがのマードックにも焼きが回ったか」とがっかりした人(笑った人も?)多かったようだ。「そんなバカなことをしたら、アクセスが減少する」「1人だけ抜けて、一体どうするというのか?」「ネットの世界が分っていない」など。

 しかし、同氏は意外と本気らしい。フィナンシャルタイムズが22日報道したところによれば、今度は新しい検索エンジンBINGをプッシュしたいマイクロソフトとニュースの配信を巡って協議中らしい。マイクロソフトはマードックのニュース社のみならず、他の媒体とも協議をしているようだ。

http://www.ft.com/cms/s/0/a243c8b2-d79b-11de-b578-00144feabdc0.html

 つまるところ、BINGがニュース社の記事を集めて出す代わりに、一定の使用料をニュース社側に払う仕組みを想定しているようだ。

 FT記者ブロガーは、ーつの可能性としては悪くないのではないか、と書いている。広告主にとって、購読料を払う読者は、通常の通りすがりの読者よりも、そのバックグラウンドが分る意味では魅力があるはずだ。したがって、それほど奇妙なアイデアとは言えないのではないか、と。

http://blogs.ft.com/gapperblog/2009/11/murdoch-tries-to-swap-google-links-for-microsoft-cash/

 グーグルからはずれてもそれほど失うものは多くはない、とした記事もツイッターで見た。

 英国の新聞サイトはアクセス・固定ユーザー数で競っているが、アクセスが多いのが利益の増大に十分に結びついていないようだ。そこで「別の道」を探す・・・というのは一理あるのかもしれない。

 いずれにしろ、ニュースの課金に関しては神話が多い感じがする。

 英新聞サイトが「敵」(かつ味方?)とするグーグルニュース(世界中から記事を拾ってくる)は、一昔前(ツイッターの前)だと、有用だったのだろうが、今はどうなのだろう?おそらく、数字的にはまだまだ巨大だとは思うが、段々、その重要度が相対的に及び実質的に低くなっているのではないか?

 広い意味で考えると、ニュースの読み手としての自分はどこかでお金を払っている。BBCはテレビライセンス料だし、アイフォーンで読める「無料」記事も毎月アイフォーンの契約料を払っている。ネットも毎月ケーブルサービス料金を払っている。テレビライセンス料の支払いが必要でなく、継続投資も全く必要ないのは、ラジオのニュースぐらいだ(ラジオを買うという意味での初期投資がかかるが)。

 そこで私が考える「神話」とは

 ①「ニュースは無料だ」-。無料で読める大手新聞サイトの制作費は購読料(自分が出すかあるいは誰かが買っている)+広告収入で、そしてBBCのテレビライセンス料(自分が払う)でまかなわれている。ネット上での利用は確かにタダかもしれないが、誰かがあるいは自分が先に払っていることを忘れている。

 ②「ニュースは無料神話―その2」。実際のところ、みんな必要なサイトは購読料を払って読んでいるのではないか?ー例えば自分だったらFTやエコノミスト。お金でニュースを買っている。

 ③「ウオールストリートジャーナルやFTなど、経済の専門紙だから人は有料購読をしている」も神話ではなかろうか。1つのブランドになっている及び、読みたい独自の内容があるから、購読しているだけである。本当に経済のことのみを読みたいなら、もっと高い経済情報を有料で買っているか、それこそグーグルや他の方法で経済記事のみを集める。FTが何を言っているか、WSJがどう見ているかが知りたいわけである。

 ④「一般ニュースの場合、有料化してしまったら、読者は他にーー無料のニュースが読めるところにーー移動してしまう」は必ずしも当たっていないのではないか。例えばタイムズ、インディペンデント、ガーディアンなどそれぞれ独特の視点があるので、原則として代わりはない。

 ⑤そして、もしその「無料ニュースに移動する」先の1つがグーグルニュースだとしたら、本当にそうかな?と思う。一体どれくらい役に立つのかな、と。つまり、どんなトピックがニュースになっているかを知りたい場合、今は他にもいろいろな方法がある。例えばツイッターである。グーグルニュースは必ずしも良質な記事ばかりを集めていないように自分には思える。

・・・というわけで、BINGがどんなことをするのかなと自分は興味シンシンである。

 (追加)
 後で待てよ・・・と思ったことなのだが、実際、自分はこれまでにネット上でずい分と無料で情報を得てきた。ブログを2004年に始めたのも、時事通信の湯川さんのブログを読んで、「これからはこうなるのだ!」「無料の時代だ」と感激したからだった。ウキペディアも今ではかなりの市民権を得たと思うし、他の人のブログを読んだり、無料検索エンジングーグル、ヤフーを使ってずい分と欲しい資料や会いたい人、感動する言葉や事実に出会えた。

 長年、思う存分、無料で(ネットにつながっている状態までこぎつけたとして)情報を得てきた後で、ふと気づいたら、ここにきて、何だかずい分と有料サービスが増えてきた感じがしている。

 ニュースをアグリゲートするサービスも、アクセス数の高いランキングよりも自分にとって重要な順位で見たいというか、やや深い編集の手が入ったものを見たい感じがする。編集長の目が入ったものを読んでみたい。グーグルニュースと言う一つのやり方が、何だか古めかしくも思える昨今だ・・・というわけである。

by polimediauk | 2009-11-25 22:00 | 新聞業界