小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

英編集者会議(下)「新聞協会報」より

 ニュースの有料・無料の話がこちらではもちきりになっている。ルパート・マードックが一言発言をするたびに、「議論」が始まってしまう。

 グーグル・ニュースが、有料新聞サイトに載る記事へのアクセスに一定の制限をつけることにした、というのが最新のニュースの1つだ。これはマードック・ニューズ社とマイクロソフト・ビングとの交渉(グーグル・ニュースに拾われないようにする話)とにいささかでも関係しているのだろう。

グーグルがニュースに閲覧制限を設ける話
http://www.ft.com/cms/s/0/b9fb1a2a-dec9-11de-adff-00144feab49a.html

 前回の英編集者会議の(下)の原稿を新聞協会報12月1号に書き、以下にそれに若干追加したものを出そうと思うのだが、1つ、この原稿の中の「最後のセッション」には、グーグルニュースのUK代表の人が出ていた。他の新聞の編集者から、「タダでニュースを新聞から取ってくるなんてずるい」という話が出た。この編集会議の出席者は新聞社、特に地方新聞社の人が多いので、「そうだ、そうだ!」という雰囲気があったと思う。

 そこで、グーグルのUK代表の人が結構責められる雰囲気になった。このとき、「何故、グーグルはそもそもニューサイトを作るのか?」と聞かれた。

 私自身、実は最近これが気になっていた。というのも、このUK代表の人が言うように「読者が便利なように作っているだけ」で、「ほとんど利益は出ていない」と言ったからだ。「利益拡大のためにやっているわけではない」と。「なぜやっているのか」と聞かれて、一瞬、答えに詰まる場面があった。

 そうか・・・と私は思った。「それほど大事というわけでないなら、ほかの検索サービスに先を越されるか、このサービスを他の会社が担当するとか、そういうことにしてしまってもいいのではないか」「ニュース媒体と、協力してよりよいプラットフォームを作る、という作業を率先してやってもいいのではないか」とも思ったのだった。何でもかんでも自分でやらなくても良いのではないか、と。その後で、マードックとビングの交渉の話が出て、何となく、自然なつながりに聞こえたのだった。

 また、原稿の中に出てくる、タイムズ編集長のスピーチ(課金について)は、プレスガゼット誌のウェブサイトから読める。

http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=6&storycode=44656


 英編集者会議(下)課金の行方は?


 11月15日から3日間、英南部スタンステッドで開かれた英ソサエティー・オブ・エディターズ(編集者会議)の年次大会では、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「ツイッター」など新たなインターネットサービスを使って読者を引き込む方法や、今年になって議論が沸騰しているサイトの課金の是非が注目を集めた。ロンドンの地方紙とも言えるイブニング・スタンダードの無料化の影響も話題となった。

 英ウェールズ地方で複数の新聞を発行するNWNメディアのマーティン・ライト氏は2日目のセッションで、140文字で短いつぶやきを共有するツイッターをいかにサイトで利用するかを報告した。巨額の投資が財政的に許されない中で導入できたのは「無料だったからだ」と述べた。

 当初はウェブサイト上にブログパーツとして載せ、その後、つぶやきをSNSの「フェースブック」にも同時に載るようにしたところ、サイトへのアクセスが急増したという。現在は速報を伝えると同時にニュースのネタを拾うための情報収集手段としてツイッターを使用。「読者のコメントに対応でき、サイトの双方向性が増した」と語った。

 遺体が発見された時、ツイッターで情報を募ったところ、間もなく身元が判明。翌日のトップ記事となり「投資額がゼロでスクープ記事を作れた」。ツイッター情報の信ぴょう性は利用者に電話番号を尋ね、編集部が確認しているという。

 最終日のセッションでは、高級紙タイムズのジェームズ・ハーディング編集長が2020年の業界図を聞かれ、「ニュースは無料とする文化を打破したい」と述べた。「質の高いジャーナリズム」を今後も維持するため、来春からサイトに課金制を導入する予定だ。

 1本の記事ごとに課金するマイクロペイメント制は「ゴシップ記事が増える可能性が高い」ので採用せず、「24時間、サイトを読めるなどの購読料制」を導入する方針。「サイトの有料化は生死を賭けた戦いの一手段だ」と述べた。

 有料化とは逆の方向に向かったのが、発行部数が毎年約10%減少していた夕刊紙ロンドン・イブニング・スタンダード。無料夕刊紙のロンドンペーパーとロンドンライトに押される形で、1部50ペンス(約80円)だったのを無料にした。ロンドンペーパー、ロンドンライト両紙が広告市場の悪化で廃刊となったため、スタンダード紙は無料夕刊紙市場を独占している。

 ハーディング氏と同席したセッションの中でスタンダード紙のジョーディー・グレーグ編集長は「無料紙化は唯一の生き残り策だった」と振り返った。駅構内や小売店内のスタンドなどで新聞を配布する形になり、発行部数を約3倍の60万部近くに引き上げた。
 
 同氏は「無料紙といえば質が低いと見なされたが、質があるのに無料である点が読者や広告主に好評だ」という。「28歳以下の若者は定期的に新聞を読む習慣がない。有料ではさらに足が遠のく。無料のスタンダード紙でまず、新聞を読む習慣をつけてほしい」。有料か無料かの議論は年が明けてもしばらく続きそうだ。
by polimediauk | 2009-12-03 07:17 | 新聞業界