小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

英ガーディアンがアイフォーンで有料アプリ発売―有料・無料のまやかし

 ガーディアンが、今朝、アイフォーン用の新しいアプリの提供を開始した。

http://www.guardian.co.uk/media/pda/2009/dec/14/guardian-iphone-app

 驚いたことに、有料だった。2・39ポンド(約345円)。金額だけ見ると高くないように見えるが(今時、英国で2-3ポンドで買えるものといったら、サンドイッチぐらいだろうか)、アイフォーンでニュースのアプリのリストを見ると、大体1ポンド以下。中東の衛星放送アルジャジーラ英語でも1・79ポンド。2・39ポンドは破格に高い金額と言える。

 このニュースを知ったのは、ツイッターで、ガーディアン編集長(アラン・ラスブリジャー氏)が「新しいアプリが出た」とつぶやいたからだ。その後で、同紙のデジタル担当のエミリー・ベル氏や毎週「メディアトーク」という番組を作っている同じくガーディアンのメディア記者、マット・ウェルズ氏も「すごい!是非使ってみて」とつぶやいていた。

 アイフォーンのアップ・ストアに行って、該当するアプリを探した。無料ではないことを知った時、私は裏切られたような思いがした。それは、ガーディアンはラスブリジャー編集長にしてもベル氏にしても、「ニュースは無料で行く。有料化を主張するマードックの考えには大反対だ」と常々、言ってきたからだ。また、テレグラフなどのほかの英大手紙のアイフォーン用アプリは無料なのだ。

 つまるところ、「ニュースは無料(民主主義の観点から、またインターネットはそういうものだから)」というガーディアンのスタンスを、取り下げないままに、実は有料の分野に堂々と踏み込んだ、という感じがしたのだ。マードックの動きを大批判しておきながら、である。

 ガーディアンはネットを通じて無料でニュースを配信することを捨てたわけではない。今でも、PCや携帯サイトから無料で記事のアーカイブや動画も含め、視聴・閲読できる。しかし、有料の道も同時に準備しているのだろう。

 新聞サイト、あるいはニュースサイトの有料化・課金制に関しては諸説あるが、見逃してはならないのは、「有料か、無料か」つまりは黒か白かの2者択一の選択ではない点だ。0かあるいは100、ではない。例えば、英インディペンデント紙はサイトの記事を印刷の際、一定の枚数以上では課金する仕組みをとっているし、タイムズはクロスワードパズルが一部有料となっていると聞いた。

 昔、インディペンデントは論説記事を有料にしていたが、今はそれはやっていないようだ。しかし、アーカイブなどの一部を有料、というのは「ニュースは無料」という看板を続けながらも導入が可能だろう。

 テレグラフの統括編集長ウイル・ルイス氏が、少し前の「メディア・ガーディアン」(ガーディアンの特集頁)インタビューで、「有料か無料かの議論は、ちょっと嘘くさい」と発言していたが、まさにそんな感じである。

 フィナンシャル・タイムズのウェブサイトでは、読み手が名前を登録しない場合、月に無料で読めるのは2本だけになる。名前を登録すれば、追加で8本、合計10本が無料で読める。これ以上は有料購読をしないと読めない。経済紙という専門領域を扱う新聞だからこんなことができる、という人もいるが、他の一般紙では、特別の価値のあるコンテンツ、例えばスポーツ、特定のコラムニストのアーカイブ記事などを有料にするのはおおいにありうるだろう。最初から、「一般紙のサイトの有料化は無理」という論理はあまりにも大雑把過ぎる。

 来年は、英大手メディア(主に新聞)のサイトでは、「知らないうちに有料化」の部分と無料で読める部分が混在したものが増えるのだろう。今はアレルギーがある(ニュースの)「有料化」が、何の抵抗もなく受け入れられるようになるかもしれない。
by polimediauk | 2009-12-15 02:56 | 新聞業界