小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

来年は携帯のアプリで競争かー常に「モノを売る相手」ではさみしい

 今年もあと残るところ、2週間を切った。来年の英新聞業界の話題はやはり、現行では無料のサイト上でのニュース閲読を有料化するかどうかになりそうだ。

 今や、ウェブサイト上のニュースの話から発展して、携帯のアプリ(アプリ自体のインストールは無料)での競争が激化しつつある。先日、ガーディアンが有料アプリを出したばかり。ガーディアンのウェブサイトのQ&Aを見ると、携帯の「プレミアム」コンテツは有料化もアリとしているので、やはり、課金に向けて一歩踏み出したのだろう。

 マードック・プレスが来年からウェブサイトに課金すると宣言し、最初は衝撃だったが、今や、どんどん導入するところが出てきている。200以上の地方紙を発行するジョンストン・プレスが先月末から試験的に開始したし、他にもマイナーな新聞が開始している。マイナーな新聞だと、逆にやりやすいというのも、おもしろい。つまり、新聞販売店に行ってその新聞が見つからない場合、がっかりするが、紙の新聞代と同じ金額を払えば、その新聞がウェブ上で全部読めるので、「がっかりしない」という(これを書いた記事が今見つからないので、また後で)。

 おもしろいのは、今は無料でサイト上で読める一般紙の記事が、もし有料になったら、どうするか?と聞かれて、「読むのを止める・他の無料サイトに行く」と答える人がいたり、「お金を払って読む」と答える人がいたりすることだ。その割合が、ばらばらなのだ、誰が調査をするかによって。これは必ずしも意図的に調査を操作しているわけではなく、つまりは聞き方によって、答えがばらばらで、結局のところ、読者がどんな反応を示すかは「何だか良く分らない」ようなのだ。

 ・・・ということを、ガーディアンの記事(12月15日付)も書いていた。「誰がコンテンツにお金を払うだろう?」(http://www.guardian.co.uk/media/pda/2009/dec/15/digital-media-newspapers-studies-who-would-pay-for-content

 私の見方は、既に私たちはニュース情報を得るためにずい分とお金を払っていると思う。本当に無料というのは実は少ない感じがする。一旦、好景気下の広告収入が消えてしまったら、利用者が多額のお金を払って不足分をカバーせざるを得なくなったな、という感じ。

 新聞サイトのニュースアプリでどきっとすることがある。今、非常に便利になっていて、フェースブックとか、ツイッターとかにニュースサイトの画面からつぶやきを飛ばせるのだけれど、何だか「全ての情報が相手=新聞社側=につかまれている」ようで、心落ち着かない。PCのウェブサイトでもフェースブックやツイッターにつながることができるとしても、携帯だとまた一味違う。PCよりも携帯は個人にぐっと近い。位置情報も取得されてしまう。その人(どこに住んでいるか)に合わせたニュースが入るようになっているからだ。

 逆に言うと、新聞社側から言えば、広告を出したり、何かを売るには格好の相手(=あなた)を捕まえたことになる。

 検索大手のグーグルが、独自の携帯電話を出すことの恐ろしさはここにあるのだろう。何から何まで、民間企業一社が独占してしまうことになるのだから。英メディア界で危機感は大きいと思う。

 テレグラフの携帯アプリ(無料)は、何かトピックを見つけたら、すぐりポートを送れる機能がついている。もちろん、ツイッターとも連携している。便利ではあるが、いやいや、テレグラフのお膳立てにすっかり乗るわけにも行かないぞ、と思うわけである。

 英国にいると、(米国のようには)新聞に対して高い期待を持たないようになる。それでも、常に「モノを販売するための相手」として、新聞社がこちらを扱うというのは、いやだし、つまらないし、さみしいと思う。

 便利だが、何だかいやな時代になってきた。便利さはいいように思えるけれど、実際、プライバシーを売り渡すのと引き換えになるのだから。
by polimediauk | 2009-12-19 08:39 | 新聞業界