小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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デンマーク風刺画事件―今も続く憎しみの余波

 2006年初頭に広まった、「デンマーク諷刺画事件」(デンマークの新聞ユランズ・ポステン紙がイスラム教預言者ムハンマドに関わる12枚の風刺画を掲載したことがきっかけ)の余波は、まだ続いているーそんなことを思わせる事件が、1日、起きた。風刺画を作成した漫画家の自宅に、斧で武装した男が押しいったのだ(注:日にちは2日でなく1日でした!)。

 男はソマリア人で、地元警察によると、イスラム系武装組織に関与している。過激イスラムグループの「アル・シャバブ」が攻撃をたたえるコメントを、AFP通信に出している。

 このソマリア人男性(28歳)が攻撃しようとしたのは、漫画家クルト・ベスタゴー氏(74歳)。1日、デンマークの西部オーフス(先のユランズ・ポステンの編集室がある)に住むベスタゴー氏の自宅に、斧とナイフを手にして押し入ろうとした。ブロークンな英語で、ベスタゴー氏を殺したいと叫んだという。自宅にいた同氏が警察に連絡すると、男はかけつけた警察官らを斧で攻撃しようとしたという。ひざと肩部分(後の英紙報道ではひざと手の部分)を警察官に撃たれた。

 デンマークの法律による制限で、この男の名前は公表されていないが、現在、殺人未遂容疑となっている(本人は容疑を否定)。

 ベスタゴー氏は、12枚の風刺画の中で、ターバンをかぶった人物(多くの人がムハンマドと同一視)を描いた。ターバンの先には爆弾がつながっており、複数の風刺画の中でもっとも論争を呼んだ1枚を作成した。

 ユランズ・ポステン紙は、2005年、国内でイスラム教に関わる言論の自由が狭まっている状態を問題視し、議論を始めるためにムハンマドに関わる風刺画12枚の掲載を計画した。同年9月末、掲載された直後は特に大きな議論が国内で起きたわけではなかったようだ。しかし、デンマーク国内のイスラム教徒たちの数人に聞くと、それほど信心深い人ではなくても、傷ついた、あるいは侮辱に感じたようだ。特に、このターバン+爆弾の風刺画はまるで預言者ムハンマドをテロリストと同一視しているかに見えて、頭に来た人が多いようだ。

 その後、年が明けたあたりから、他の欧州の新聞がこれを再掲載し、世界中で大きな論争が起きた。一部のイスラム諸国ではデンマークの国旗を焼いたり、抗議デモやデンマーク大使館への攻撃が起きた(ただし、一部は政府によるやらせであったという話もある)。

 2006年初頭と07年、デンマークで取材をした。風刺画掲載の発想のきっかけを作ったともいえる、児童作家カーレ・ブルートゲン氏のインタビューも含め、事件の経緯やいくつかの取材を前にこのブログに出してあるので、ご関心のある方はご覧頂きたい。(ブルイトゲン氏のインタビューはhttp://ukmedia.exblog.jp/6495291/ )


風刺画事件 2月のまとめ (大体の概要)
http://ukmedia.exblog.jp/3599239/

デンマーク風刺画 揺れるデンマーク1-8
(2006年取材分)
http://ukmedia.exblog.jp/6444769/

風刺画事件後のデンマーク1-6
(2007年取材分)
http://ukmedia.exblog.jp/8162405/

ユランズ・ポステンの説明(英語)

http://jp.dk/udland/article1292543.ece
by polimediauk | 2010-01-03 06:51 | 欧州表現の自由