小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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人気司会者ジョナサン・ロスがBBCを去ることに


 人気司会者で高額所得者のジョナサン・ロスが、13年間働いてきたBBCを、契約が切れる今年の夏で去ることになった。ロスは発表した声明文の中で、契約を更新しない理由は「金銭ではない」としている。

http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/8445628.stm
http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/8445987.stm

 ロスはBBCが契約するスターの中でも大物の一人で、金曜日の夜のBBCテレビのチャット・ショー(著名人を招くトーク番組)、BBCラジオ2の番組、それにテレビの映画批評番組などをやっている。

 ロスは人を食ったジョーク(あるいは性に絡んだジョーク)でゲストをいじめる・笑わせるのが得意で、思わず相手の本音を引き出すのがうまい。芸歴は長く、今年7月までの3年間の契約料は1800万ポンドといわれる。年間では600万ポンド計算になるが、この金額は大物タレントの中でもトップクラスとされている。

 ロスの高額報酬にはかねてから批判が高まっていたが、いわゆる「サックスゲート」事件が批判の火の粉をロス自身に向けた。この事件については前にも書いたが、2008年秋、ロスはコメディアンのラッセル・ブランドと共にあるラジオ番組に出演。この時、ブランドをけしかけて、アンドリュー・サックスという往年の喜劇俳優の家に電話をかけさせた。サックスが不在であったので、「ブランドはあなたの孫娘と寝た」というメッセージを残した。留守電メッセージは数度に渡り、ブランドとともに電話口でジョークを言い合い、笑いあった。いわゆるいたずら電話だったのだが、これが放送され、しばらくして、大きな問題となった。

 ブランドとロスはサックスに謝罪し、ブランドは自分がホストとなっていた番組を降りた。ロスには数ヶ月の謹慎処分が下った。ロスはBBCから一時、全く姿を消した。いたずら電話のメッセージが入った放送を承諾した、ラジオの担当者はBBCを辞任した。

 いたずら電話そのものよりも、これを「笑いの先端を行く」として放送したプロデューサーなどの責任が大であると、私自身は受けとめていた。後に、この番組の制作にはブランドの事務所の人間が大きく関わっていたことが分った(ブランドが好き勝手に放送できる状態だった)。

 BBCは受信料支払い者の多くから大きな批判を浴びた。「何故放送を許したのか」「何故こんな悪質なジョークを言うロスに、高額報酬を払っているのか」など。

 謹慎がとけて、ジョナサン・ロスは金曜夜のトーク番組の司会に戻ってきた。開口一番、ロスは留守電での行為を謝罪した。しおらしい一面を見せた。

 その後のロスのトークショーは何だか今までとは違っており、おそらく、謹慎前は傲慢でもあった(何でも言える、できるという面が強かったのではないか)だろうが、切れ味の良いジョークを連発していたロスが、なにやら遠慮しているかにも見えた。女性のゲストには下劣な質問をするため、これを避けるためか、当初の数週間はゲストが男性ばかりだった。

 そして、今日、ロスがBBCの契約更新をしないことが発表された。ある意味、やっぱりである。「自分にとっても、BBCにとっても、次に進むときが来た」とは本人の弁である。

 ロスの高額報酬は常に国民の批判の対象になってきたのだが、BBCの経営陣は「こういうレベルを維持しないと、他の局に移ってしまう」というような説明をして、弁護してきた。本当にそうなのかな?と思う。

 一つの時代が終わったなと思う。

 つまり、国民の批判をよそに高額報酬を支払う、えげつないジョークでも人気のある人を重要視する、視聴率をあげることを最重要視する・・・といった、ここ何年かのBBCのやり方はもう通用しなくなった。「時代は変わった」ということを、ロス自身が、契約不更新を通してBBCに伝えたように思う。より小さなBBC,受信料が廃止され、購読料(サブスクリプション)で運営されるBBC・・・そんな大きな次の流れに向かうための、一つのステップだったように思う。
 
by polimediauk | 2010-01-08 02:56 | 放送業界