「新聞研究」12月号よりー「1人勝ち」BBCのメディア戦略の行方 ①
グーグルの本を書いた、ジェフ・ジャービス米教授が「グーグル、よくやった!」という視点から書いている。グーグルは中国検索市場の30%を占めていたようだ。
「グーグルがやるべきこと」
http://www.buzzmachine.com/2010/01/12/what-google-should-do/
話は変わる。BBCについて、である。
「新聞研究」12月号に、BBCの状況に関して書いた。この時よりも事態はさらに変化しているのだが、とりあえず、前段として以下にその原稿を掲載する。英放送業界の概要のような話になっているので、お時間のある方はお目通しいただきたい。言葉を若干変更・補足した部分がある。
岐路に立つ「一人勝ち」体制
BBC、メディア戦略の行方
「自分が見たい時に見たい番組を見れるーしかも無料で」。ほんの2年ほど前までは、多くの人にとって夢物語でしかなかったことが、今や英国では現実のものになった。テレビの前に座って、リモコンを片手に見逃した番組を探すだけでいい。もちろん、視聴途中で巻き戻したり、早送りあるいは繰り返して見ても良い。何度見ても無料であるため、金銭に関わる気苦労をせずに視聴を選択できるー。こんな視聴スタイルを英国民にとって当たり前のことにしてくれたのは、英BBCの番組再視聴・オンデマンドサービス「iPlayer(アイプレイヤー)」である。
BBCの無料ニュースサイトは速報性に優れ、動画が豊富な上に関連記事に飛べるハイパーリンクが多いため、ミニ百科事典としても使える。昨今はニュース・サイトへの課金制導入議論が英米両国でかまびすしいが、BBCのサイトが将来有料化されるという話は聞かない。
テレビ受信機を設置した人に課されるテレビ・ライセンス料(日本のNHKのテレビ受信料に相当)を活動の主な収入源とするBBCのおかげで、英国に住む人は(ライセンス料の支払いという義務は伴うとしても)、オンデマンド放送やリッチなニュース情報取得の恩恵を生活基盤の1つとして享受できる。BBCは英国のデジタル戦略の主導的な役割を担っているといえよう。
国民にとっては便利なBBCだが、民放他局や同じくニュースを扱う新聞社からすると大きな脅威となる。BBCと他のメディア媒体は資金力や人材資源の面で以前から大きな開きがあったが、近年、2つの大きな動きによって、その差が開きつつある。1つはメディア環境の大きな構造的な変化で、例えばネットの普及、多チャンネル化、読者や広告主の新聞離れなど。2つ目の要因として、不景気による広告収入の激減が拍車をかける。多チャンネル化で各テレビ局の視聴率は分散化される上に、広告収入の減少で厳しい経営を迫られる民放は戦略見直しを迫られている。特に縮小の対象となっているのが、経費が関わる割には広告が集まりにくい地方ニュースの制作だ。
2009年6月、政府は将来のデジタル政策に関する白書『デジタル・ブリテン』を発表し、BBCが独占してきたライセンス料収入を事実上他局と共有する案(注:他局の地方ニュース制作にライセンス料の一部を使う)を提言した。BBCにとっては活動の土台を脅かしかねない提言で、BBCの活動を監督する「BBCトラスト」(NHKの経営委員会に相当)は「絶対に受け入れられない」と猛反対した。
しかし、いかにBBC支持者が多い英国といえども、放送業界をBBCが独占するべきと考える人はほとんどいない。もしそうなれば、民主主義社会の基本となる多様な視点の提供も困難になる。2012年、英国のテレビは完全デジタル化する。多チャンネルが既に当たり前となった。BBCは国民から税金のように徴収するライセンス料によってではなく、視聴契約料(サブスクリプション)によって運営されるべき、とする声もあがっている。BBCを中心にした公共放送制度の枠組み自体に疑問符がつく時代となった。
放送業自体が大きな転換期にある中、次世代のテレビ界でもトップの座を維持しようとするBBCのデジタル戦略と、これを巡る業界内の動きに注目してみる。(続く)
(***日本新聞協会発行「新聞研究」2009年12月号掲載記事を転載。引用などのご利用の際は出典を明記のこと。)