「1人勝ち」BBCのメディア戦略の行方④
(最後です。)
―新聞社サイトにニュースを提供
「1人勝ち」とされる批判を防ぐためか、BBCはライバルメディアとの協力体制を何度か発表している。2009年3月にはイングランドとウェールズ地方でITVと地方ニュース制作で協力するという合意書を出した。人材や機材を共有する合意だが、実施予定は2010年から。放送評論家スティーブン・ヒューレット氏は「限りなく実現が未定の事業計画」と評する。
7月にはテレグラフ紙、ガーディアン紙、インディペンデント紙、デーリー・メール紙のウェブサイトに英国の政治、ビジネス、健康、科学・技術に関する動画を提供すると発表した。ITVに向けてニュースを制作する会社ITNはテレグラフに既にニュース動画を提供している。ITN担当者はヒューレット氏の同月のラジオ番組「メディア・ショー」で「こちらには何の連絡もせず、発表があった」「民業圧迫だ」と不満を述べた。BBCの活動が民業を圧迫せず、「公的価値があるかどうか」を判断するBBCトラストは「問題なし」としてこの提携を承認していた。「十分な調査が行われなかったのではないか」とBBCのライバル他局から不信感が高まった。
無料のアイプレイヤーから収入を上げることを望んだBBCは、ITVやチャンネル4にBBCの商業部門を組ませ、複合オンデマンドサービス(通称「カンガルー計画」)の開始を試みたが、英競争委員会が2009年2月、「競争を疎外する」という理由でこれを停止させた。現在はITV,ファイブ、BTと組んで、フリービューなどを通じてオンデマンドサービスを提供する「カンバス計画」を推進中である。その一方で、アイプレイヤーのサービスを技術面でチャンネル4やITVと共有する案は、BBCトラストが「公的価値という点で認められない」と却下した。ライバル他局から「自己の保身ばかり考えている」と批判を浴びる羽目になった。
2010年春までに行われる予定の総選挙では、野党保守党が勝つ見込みが高いと言われている。複数の世論調査で保守党の支持率が与党労働党を最大で20ポイントほど上回っているからだ。デビッド・キャメロン保守党党首は政権取得後、ライセンス料の値上げを凍結するとしている。ライセンス料制度自体の崩壊も含め、BBCにとっては厳しい時代となるかもしれない。(この項終わり)(「新聞研究」2009年12月号掲載記事を転載。引用などご利用の際は出典を明記のこと。)