小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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NYタイムズ「メーター制」課金について考える

 ニューヨークタイムズがいよいよ、あと「数週間後」に自社ウェブサイトに課金制を取り入れることにした、という報道が出た。(「ビジネスインサイダー」サイトなど)

http://www.businessinsider.com/new-york-times-will-have-a-paywall-announcement-in-weeks-2010-1?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+typepad%2Falleyinsider%2Fsilicon_alley_insider+%28Silicon+Alley+Insider%29&utm_content=Google+Reader

 これによると、月額定期購読制ではなく、無料記事と有料記事を組み合わせる、「メーター制」(使用量のメーターによってお金を払うー水道のメーターのイメージ)をとる。原則購読制のウオールストリートジャーナル型ではなく、同じくメーター制をとるフィナンシャルタイムズ型になった、と。FTの場合、無登録で無料で読めるのは月2本。名前をサイト上で登録すればこれに追加で8本読める。それ以上(都合11本目からは)有料購読を勧められる。

 ウェブサイトの課金制の英国での状況に関しては、メディア幹部向けの出版物「NSK経営レポート」の最新号にも書いたのだが、新聞社がやるニュースサイトを有料閲読にするか無料にするかの問題を論じる時、気をつけねばならないのは、たとえば米国、あるいは英国と日本の状況の違いだろう。

 ・・・ということをこれまでにもブログでちょこちょこ書いたが、見出しだけ拾うと、「有料か無料か」の一元的な見方がネットで多く出ているようなので、改めて、自分の考えを整理するためにも書いておきたい。

 ①日本の新聞サイトと英国の新聞サイトを比較すると、一見やや気づきにくいが、私から見て大きな違いがあると思う。それは、英国の新聞サイトは、FTを除き、原則すべての記事が閲読無料である。現在のニュース記事だけでなく、過去記事、論説記事など。また、BBCのニュースサイトという巨大な無料サイトが存在している。さらにグーグルニュースも含めたもろもろの英語の無料ニュースサイトがある。もちろん、たくさんのおもしろいブログもある(この点は米英日もほかの国も同様)。

 そこで、英新聞社サイト(たとえばタイムズ)が課金制や有料制について語る時、これは「無料セールを10年以上、惜しげなくやってきた」「巨大無料ニュースサイトBBCとの競争を継続してやってきた」上での、「これでは続かない」「有料にできないか」ということである。(日本の新聞サイトの場合、すべてをサイト上に載せていない感じがするのだが、どうだろう?特に国際ニュースを探すと、あまりにも情報が薄いので驚く。紙の新聞にはもっとたくさん載っているはずである。)

 ②有料あるいは課金制問題は、決して「白か黒か」の単純な二者択一の議論ではない。課金制にしたら、すべて記事がシャットアウトされる、というのではないのである。「プレミアムコンテンツ」として、一部を有料にする・・・というのは、どう考えても、一つのやり方としてアリであろうし、実際、そうしているサイトは既に多数あると思う。

 ③お金の取り方の考えの変化:今年、日本でも英国でも電子ブックがブームになりそうだ。アイチューンズももちろん既に定着しているし、未来は予想できないけれど、ネット上のデジタルコンテンツにお金を払う…というやり方はすでに現実化しているし、これは加速するのではないか?NYTの「メーター制」(もしそうなるとすれば)への見方も、後数か月で、ガラリと変わるかもしれない。

 ④現実を見る:実際のところ、私たちはすでにネット上のニュース閲読に随分お金をかけているー。そんな感じがする。

 ⑤「すべてが無料でなくなった時、NYTは読者を失うかもしれない+自分は読まなくなるだろう」=そういうリスクはある。しかし、「お金を払わず無料で読むだけの読者はいらない」とする経営者もいるだろう。FTなんかはそうである。FTを購読できるぐらいの余裕がある人を対象にしているようだ。

 …そして…いや、これ以上は私も分からないのである(もちろん、お金を余計に払いたくないのはやまやまである。)
by polimediauk | 2010-01-18 19:38 | 新聞業界