小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

「GALAC」2月号掲載で元娼婦のブロガーの話

 放送批評懇談会が出している月刊誌「GALAC」の2月号に、元娼婦だった女性が書いている「Belle de Jour」というブログについて原稿を出した。ニフティ―の雑誌サイトに掲載されているので、ご関心のある方はご覧いただきたい。

「GALAC」2月号掲載で元娼婦のブロガーの話_c0016826_18574036.jpg海外メディア最新事情:元娼婦のブロガーの正体発覚 「よくやった!」と評価は上々だが
http://news.nifty.com/cs/magazine/detail/galac-20100119-01/1.htm

 この女性は、学生時代、学費と生活費の工面のためにエスコートサービスに登録し、高級コールガールとして働いた経験をブログに匿名(ブログ名とその匿名がBelle de Jour)で書いた。長年、このブロガーの正体がわからないままだったが、昨年末、本人からサンデータイムズ紙に連絡があり、ブルック・マグナンティーさんという女性であることが分かった(右写真、サンデータイムズ紙より)。

 インタビューが記事になって英国中があっと驚いたのは、「男性が書いているのでは」などという憶測を解消し、美しい女性究者だったことだ。こんな賢い女性が・・・・というわけである。

 私自身が驚いたのは、娼婦になって学費を稼ぎ、博士号を取って今は研究職にいる女性を「えらい!」とする論調が結構出たことだ。

 ブログを何冊かの本にもしているので、早速買って読んでみた。最初の本を読んだところ、途中で、段々読むのがつらくなってきた。クライアントとの性にかかわる描写があったからではない。人間関係の描写の場面で、「つらいなあ・・・」と。

 この女性にはボーイフレンドがいて(現在もいるが、この時とは別の人)、多額のお金を比較的短時間で稼げるようになった彼女は、誕生日で彼氏と出かけた後、自宅まで戻るのにタクシーを使って帰りたいという。「近いし、もったいないから歩こう」と彼氏がいうのを、聞き入れず、確か運転手に20ポンド札かを渡すー。ボーイフレンドは一人で歩き出す。この場面の描写が非常にリアルで、何だか彼氏がかわいそうになってしまった。

 タクシーで自宅まで帰るかどうか自体が問題ではなく、お金の使い方の変化、彼氏との人間関係という「リアルな」部分への影響、ボーイフレンド(ストリッパーレベルの仕事だと思っていたようだ)の気持ちの踏みにじり方は何だか痛々しいものを感じた。

 彼女の正体が発覚した頃、BBCのラジオで「モラル・メーズ」という番組があり、この番組は様々な倫理上の問題に関して、パネリストやゲストが議論する。この中で、コールガールになることも、1つの自己表現あるいは「生き方の1つ」であるとする考えがあって、また、「娼婦=いけないことをした人」と言わないように(女性差別になるから、つまり生きる上で、どうしてもそうしないといけない人もいるなど)という了解があったように思う。右派の論客でメラニー・フィリップスという人がいるのだが、「私たちは、女性が性を売ることも批判できないようになった」=フェミニズムの行き過ぎ・・・というような趣旨のことを(録音したわけではないので、記憶のみ)言っていた。それにしても、学費工面のために娼婦になるとはずいぶん突飛な感じがどうしてもしてしまうー。という私の考えは、ここ英国では保守的すぎるのだ(実際、私は保守派だと自覚はしているけれども)。

 この女性は一体どんな感じでしゃべるんだろう?と思われる方は、以下のサイトから、スカイテレビによるインタビュー動画が見れる。英語のみだが、雰囲気をつかみたい方のご参考までに。

http://www.lovereading.co.uk/blog/?p=1181
by polimediauk | 2010-01-19 19:00 | ネット業界