小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

「ブログがBBCを変えた」ジャーナリスト学校のマーシュの発言

 数日前の話になるが、BBCジャーナリズム学校(BBC College of Journalism)のトップ、ケビン・マーシュが、BBCのジャーナリズムを変えた大きな要素として局内のスタッフによるブログを挙げた。

 ロンドンで14日開催された「ジャーナリズム・リワイヤード」という会議での発言による。「プレスガゼット」より。

http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=44903&c=1

 ラジオ、テレビ、ネットと幅広い媒体で情報を伝達するBBCは、2008年8月、報道部門を「マルチメディア・ニューズルーム」として一つにまとめた。局内のベテラン記者や編集者はBBCのサイト上でブログを書く。記者たちはスクープを出す時でも、自分の名前がついたブログを使うようになったという。BBCの夜の10時のテレビ・ニュースは、NHKの夜のニュースのような重要な役目を持つのだが、記者たちはこのためにスクープを抑える・・ということをしなくなった。

 BBCニュースの人気ブロガーといえば、政治記者のニック・ロビンソン(Nick Robinson)や経済記者のロバート・ペストン(Robert Peston)がいる。

 2007年9月、ペストンは大手住宅金融ノーザン・ロックの経営危機を、自分のブログ上でスクープ報道している。
 
 マーシュによれば、大手メディア企業だからと言ってそれだけでダメと考えるのは早い。BBCのジャーナリストたちはマイクロソフトのメッセンジャー機能を使って情報を交換・収集する方法やデータの探し方、使い方、ビデオの利用など、さまざまなスキルを学んでいるという。(ただし「もちろんマルチメディアのスキルだけではストーリーは作れず、あくまで最善の方法で報道するための手段」、と付け加えるのも忘れない。)
 
 BBCがソーシャル・メディア、マルチメディアに力を入れるのはいいのだが、BBCという大きな傘の中でやる、というのはどうかなと個人的には思う。スピンオフというか、まったく別の企業・構造にしてしまったらどうだろう。どんなに素晴らしい技術・考え、それに例えばおいしい食べ物でも、常に「頼りになる父親」から、口元まで運ばれるという構図を想像してみてほしい。自分で選んで自分でスプーンを口に運びたい、と思うのが自然ではないか。「父抜き」で情報を利用したいと思う。ソーシャルメディア(+ニューメディア?)とBBCはどうも最終的には相いれない感じがする。

 …本題から外れたが、自局のジャーナリストにブログを書かせ、ブログでテレビやラジオより先にスクープを出せる、というのは本当にすごいと思う。昔は、ラジオのニュースを読むのに、アナウンサーはタキシードを着ていたらしいので、随分変わったなと思うし(フォーマルからインフォーマル)、記者個人の声が直接出る・直接視聴者と結びつける仕組みを作っているのは、「中抜き」(途中のもろもろの編集過程をすっ飛ばす)でもある。ある意味では自己否定(制作・編集過程を無視し、記者個人をミニ・メディア化している)ともいえるかもしれない。
by polimediauk | 2010-01-20 21:10 | 放送業界