「無料の壁」と戦う英メディア:「NSK経営リポート」より+ニューズ社の黒字
まず、日経の関連記事を見ていただきたい。
米ニューズの10~12月、最終黒字に 映画「アバター」など寄与http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20100203ATGM0301703022010.html
引用: 「米メディア大手ニューズ・コーポレーションが2日発表した2009年10~12月期の売上高は前年同期比10%増の87億ドル(約7800億円)だった。SF映画「アバター」のヒットなど映画をはじめとする主力部門の多くで業績が改善。前年同期に赤字だった最終損益は2億5400万ドルの黒字に転換した。ルパート・マードック会長は「コンテンツはデジタル時代の『皇帝』だ」と話し、業績回復に自信を示した。(引用終わり)
米出版・新聞大手5社、ネット配信で提携
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20091209AT2M0900A09122009.html
引用: 米ニューズ・コーポレーションや米タイムワーナー(TW)傘下のタイムなど5社は(2009年12月)8日、インターネット上のコンテンツ配信事業で提携したと発表した。雑誌や新聞、コミックを電子書籍端末などで手軽に読める配信サイトや技術などの標準をつくる。策定した標準は公開し、賛同者を集める。電子書籍端末市場で独走する米ネット小売り最大手アマゾン・ドット・コムなどへの巻き返し策といえ、メディア大手とIT(情報技術)企業の主導権争いが激しくなりそうだ。提携した5社はほかにハーストとコンデナスト、メレディス。5社の購読者数は合計で1億4460万人となり、雑誌・出版業界の大手が大同団結する。 (引用終わり)。
ガーディアンの同トピックの記事を見ると、マードックは、「無料化を捨てるメディアは忘れられてしまう」とした、ガーディアンのラスブリジャー編集長の講演(私自身はこれに感動したが)に言及し、「まあ、BS(ブルシット)だな」と述べている。
ニューズ社の記事
http://www.guardian.co.uk/media/2010/feb/03/murdoch-news-corp-increases-profit
ラスブリジャー氏の講演のテキスト
http://www.guardian.co.uk/media/2010/jan/25/cudlipp-lecture-alan-rusbridger
話は非常にスピーディーに進んでいるが、英国の事情に関して、日本新聞協会の経営幹部向け季刊誌「NSKリポート」3号に書いた。(アマゾンジャパンの幹部のインタビュー、新聞デザインを一新することで部数を伸ばした、ポーランド人のデザイナー、ジャチック・ウツコ氏**の紹介もある。)以下はその原稿である。情報は1月上旬時点でのものを基にしているのをご了解願いたい。
「無料の壁」と戦う英メディア
ー新聞各社、サイト有料化への動き
英国の新聞業界で、今最もホットな話題と言えば、ウェブサイト上のニュースを有料制にするかどうかだ。米メディア大手ニューズ社のルパート・マードック会長が昨年、傘下にある新聞のウェブサイトに今年中に課金制を導入すると宣言し、アーカイブも含め無料でのニュース提供を慣行としてきた英新聞界に衝撃が走った。同社傘下となる英新聞は国内で発行部数が最大のサン紙や高級紙タイムズを含み、合計の発行部数は約800万部に上る。業界内の他紙の動向に影響を及ぼすのは必至で、もし同氏が成功すれば、広告のみに頼らない新たなビジネス・モデルができることになる。
デジタル・コンテンツからいかに収入をあげるかは新聞・雑誌業界のみならず、見逃した番組をオンデマンドで再視聴できるサービスの拡充に力を入れる放送業界にとっても課題となっている。
ここでは英国の新聞業界を中心にサイトの有料化への背景と最近の動きに注目する(放送業界については『新聞研究』昨年12月号のBBCに関する拙稿参照)。
ー主戦場はネット
まず、英新聞業界の現況を概観したい。日米両国同様に、英新聞界でも長年にわたり、読者の新聞離れや読者及び広告主のネットへの移動が起きている。英新聞雑誌部数公査機構(ABC)によると、全国紙11紙の11月の部数は前月比でほぼ全紙が下落し、特に下落が激しかったのは高級紙ガーディアンで14.83%の減。昨年6月から11月の半年間では前年同期比でインディペンデントが14.07%減となった。地方紙88紙の発行部数は昨年上半期で同8%減少し、主要都市を拠点とする地方紙では10%減少した。2008年秋以降の景気後退による広告収入の減少も大きな負担となっている。調査会社エンダース・アナリシスは、最悪の場合、今後5年間で国内の約1300の新聞の「半分が廃刊に追い込まれる可能性がある」と大胆な予測を出している。英国の新聞販売店の団体NFRNによれば、宅配率は25%で、残りの読者は当日、新聞販売スタンドから買っている。「毎日が勝負」のリスキーな状態で新聞を売っていることになろう。
大きな伸びを示しているのはウェブサイトの月間ユニークユーザー数だ。ABCによれば、11月のトップはガーディアンで、約3580万人(前年同月比37%増)、これに続くのがメール・オンライン(約3130万人、50%増)とテレグラフ(約3080万人、34%増)。各紙は自社サイトの拡充にここ数年力を入れている。「ネットか紙か」という議論は消滅しており、「ネットで何をやるか」を巡って激しい競争を繰り広げている。
英国の多くの新聞サイト、特に主要新聞のサイトは、過去記事も含めて無料でニュースを提供してきた(購読制をとる経済紙のフィナンシャル・タイムズ=FT=を除く)。「ニュースは無料」とする風潮を作り上げる数々の要因があって、すべてを無料としなければ競争に負けると考えた。例えば無料で読めるグーグルニュースの人気や、年間34億ポンド(約5110億円)のテレビ・ライセンス料(日本のNHKの受信料に相当)を資金源に動画も豊富なニュースサイトを無料で提供するBBC、好景気時代の広告収入の増加を背景に創刊された無料新聞(メトロ、ロンドンペーパー、ロンドンライトなど、後者の2紙は昨年末廃刊)など。しかし、07年までの2年間、自社サイトに購読制を採用した米ニューヨーク・タイムズ紙が再度、課金制導入を計画しているとするうわさが流れ、マードック氏が傘下のサイトの有料化計画を発表すると、課金制は英新聞経営陣にとって大きな関心事となった。
ニューズ社傘下の日曜紙サンデー・タイムズは、これまで平日紙のタイムズとサイトを共有してきたが、今年中に独自のサイトを立ち上げ、有料制にする予定だ。一本の記事ごとに料金を支払う「マイクロペイメント」制よりも、24時間、タイムズの記事が自由に読める「一日パス」の採用などを考慮中だ。
昨年11月末には、286の地方紙を発行するジョンストン・プレス社傘下の新聞6紙が、ウェブサイトの有料購読制の試験提供を始めた。試験期間の3か月間、サイト記事の閲覧に利用者は5ポンドを支払う。
サイトの有料化に反対してきたのはガーディアン、日曜紙オブザーバーに加え地方紙を発行するガーディアン・ニューズ&メディア社である。ティム・ブルックス取締役は同社にはオンラインニュースに課金する意思は「全くない」と筆者に語った。理由は「ガーディアンのニュースのリーチと影響力を保つ」ためだ。BBCを含め無料のニュースサイトへの読者の移動が脅威だという。
しかし、アクセス数の増大を最優先にし、コンテンツをネット上でほぼ無制限に提供するというこれまでの各紙の戦略は今後も長期間維持できるだろうか?
米コロンビア・ジャーナリズム・レビュー電子版(11月5日)は、ニュースの制作のように人手がかかる構造を維持し、オンラインからの収入では経費がカバーできないなら、「核となる読者に焦点を絞るべきであって、無料ニュースの配信で、全く何の収入ももたらさない読者を名目的にたくさん増やす」のは意味がないと指摘した。
12月中旬、無料派のガーディアン社が携帯電話アイフォーン用のニュース閲読アプリを有料(2.39ポンド)で販売した。ライバル紙はいずれも無料で同様のアプリを提供する。ガーディアンは無料で閲読できるこれまでのアプリも同時に提供しているが、新アプリの開発担当者は将来的に携帯電話で提供するコンテンツの一部を有料化する可能性を示唆しており、今年は有料・無料の戦いの場が携帯電話アプリに移動することになる。(つづく)
**ウツコ氏のユーチューブでのスピーチは隠れたヒットになっているようだ。ご参考(日本語翻訳入り)
デザインは新聞を救えるか?
http://www.ted.com/index.php/talks/lang/jpn/jacek_utko_asks_can_design_save_the_newspaper.html