権力に挑戦する英メディアー朝日「Journalism」4月上旬発売号で
英語と日本語訳の意味合い・ニュアンスが違う、というのは、「journalist・ジャーナリスト」という言葉のニュアンスの違いにも似ているかもしれない。
今はそう名乗る人は増えてきたけれども、「ジャーナリスト」という日本語には何か一定の色がついているように思うし(なんだかすごいルポみたいなことをしている人、とか)、例えばテック・ウェイブというブログメディアをやっている湯川さん(元時事通信)は「自分はジャーナリストではない」「このブログはジャーナリズム・ブログではない」という趣旨のことを最近よく書かれているようだ。
英語では、というか、少なくとも英国ではjournalistの意味は広く、あまり気負いがない言葉かもしれない。第一義的には、どこかのニュース媒体(テレビ、ラジオ、新聞など)に勤めて記者職をやっている人、あるいはフリーで書いている人などを指すことが多いが、では何をやっている人なのかというと、こうした媒体に書く人である上に、最も核になる部分としては「日々の(=時事的な)出来事をつづる人」があるように思う。日記のことを「journal」と呼ぶ位であるし。現実には、「自分はjournalist」といえば、そうなってしまう。
自称・他称のjournalistたちとは、例えば、新聞、雑誌などに記事を書いている人もいれば、ニュースキャスターみたいな人、タレント(でも何かを書いたりリポートしたりもする)、その他もろもろの人たち。「え?」と思うこともあるが、それが英国の現実である。
いずれにせよ、調査報道の話に戻るけれど、この言葉を定義しようとして日英ウィキペディアを見たら、日本語では発表報道に対する独自の取材、あるいは「調査」という言葉そのままに深く調査するという解釈のようであるのに対し、英語では犯罪や汚職などをinvestigate(捜査する)意味合いが出ていた。他にもネットで調べると、investigative journalism, investigative reportingの定義自体には、いろいろあるようでもあった。また、調査報道を実際にやっている英国の記者に聞くと、コツコツとやる日々の記者活動も、広い意味では「調査報道・investigative journalism」と言われたので、日本語訳は決して間違ってはいない。ただし、逆に日本語からそのまま英訳して、例えばresearch reportingとやったとすると、これはずいぶんinvestigative reportingとはかけ離れてしまう感じがする。
つまるところ、日本語の「調査報道」と「investigative reporting」とは、どうも報道の姿勢が違う感じがするのである(大胆に言えば、考え方や目的が違うのではないか)。
オックスフォード英語辞典では、investigative journalism/reporting の狙いとするところは、調査という方法論では日本の訳語そのままなのだが「違法行為、誤審などを調査し、これを暴くジャーナリズム」とあった。要点は、「暴く」こと。権力を持つ相手・情報を出したがらない相手から、公表すれば都合の悪い情報を明るみに出すこと。これは、「調査」という言葉が与えるニュアンス、つまり、何かをコツコツ調べて、真実を明るみに出す、という行為よりももっと能動的だ。その対象は、何かを隠しているような権力者であり、メディアが暴露するような悪いことしている人物・企業体・政府組織である。
また、よく日本語で「権力を監視する」という言葉が使われる。これは私だけなのかもしれないが、「監視」のニュアンスとして、どうだろう、「じっと見ている」感じが出ないだろうか?(言葉尻だけとらえているというご批判があるかもしれないが。)
英国の新聞・テレビの報道(すべてではないが)を見ていると、「監視」でなく、「権力に挑戦」とでもいう表現がぴったりする感じがする。つまり、メディア側は最初から、権力側を敵とみなし、これを論破・打破・やっつけようとしている。
なので、少々オーバーに表現して、権力側(政府なり大企業なり)を怒らせたり、訴えられたりしても、それ自体ではビビらない。社内に弁護士チームを雇っているので、「待ってました」とばかりに、応戦していく・・・。そんな感じが、どうもあるのである。リスクの考え方、報道姿勢、権力に対する考え方が日英メディアでは違う感じがする。
・・・ということを、ガーディアン紙を例にとって「Journalism」誌に書いてみた。書いているうちに、あまりにもいろいろな考え方・姿勢が違うので、もしかしたら、まったく意味が通じないかもしれないなあと何度か思った。
ガーディアンの話は英メディアのジャーナリズムの理想形という部分もあるので、これが全体を表しているわけではない。ベテラン記者のインタビューも入っている。どこかで雑誌を手にしていただければ幸いである。