小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

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英総選挙 2回目のテレビ討論 最後は政策で決まる?

 22日夜、英3大党首によるテレビ討論の第2回目があった。午後8時から約1時間半。放送局は衛星テレビのスカイで、BBC24という別の衛星放送チャンネルもスカイからのフィードをもらって放送した。衛星放送が自宅で見れない人は、地上波のBBC2というチャンネルが夜遅く再放送した。BBCラジオ4というチャンネルがラジオで放送したものの、地上波のテレビチャンネルでライブでは見れないことになり、このこと自体に当初、議論が沸いた。(私も由々しき事態だと思った。せっかくテレビ視聴料を払っているのに、同時に見れないのはおかしい。)

 さて、第2回目は一体どんな感じだったのか?既に大体の概要は日本の新聞サイトにも出ているが、構成は、最初の30分は外交問題で、あらかじめ決めておいた会場の参加者から質問を受けて与党労働党、野党保守党、第2野党自由民主党の各党首が答え、その後は外交以外の問題も取り上げた。

 先週(15日)行われた初めての3党首によるテレビ討論では、自民党のニック・クレッグ氏が会場の参加者やテレビの前の視聴者の一人一人に語りかけるようなスタイルで多くの人を魅了し、「誰が議論に勝ったと思うか」という直後の調査でダントツ1位になった。 今回の討論の焦点は、これを他の2党の党首が「いかに切り返すか?」にあった。

 第1回目のテレビ討論がきっかけで、総選挙の雰囲気はガラッと変わっていた。

 それまでは労働党と保守党の二つの党の一騎打ちと考えられていたけれども、急に自民党が支持を伸ばし、具体的には保守党の支持率を減少させてしまったのだ。自民党は無視できない存在、かつ本気のライバルとなってしまった。英国では自民党はどちらかというと、馬鹿にされている感じがある。本気にされていないというか、「どうせ政権を担当してないし、その見込みも薄いから、そんな無責任なことが言えるんでしょ?」という感じである。今でも、まさか自民党が第1党になるなんてことは実際あり得ないから、その意味ではあくまでも「第3の党」なのだが、2大政党制が長く続く英国では、この「第3」という考えそのものが新鮮なのだ。

 テレビ討論のおかげで自民党は支持率を一気に伸ばし、この1週間というもの、党首ニック・クレッグ氏の一挙一動が大きな注目を浴びた。「チャーチル程、人気がある」とサンデータイムズはクレッグ氏を持ち上げた。「クレッグマニア」が始まった。

 しかし、途中から、クレッグたたきも段々出てきた。糸を引いているのは保守系・保守党系メディアだ。サン、デーリーメール、それにデイリー・テレグラフ。クレッグをナチと同一視したり、「あやしい献金疑惑」(テレグラフ)などを報道。そのバッシングぶりがあまりにも度を越しているので、知識人の一部からも「これはまずいのではないか」という声が出た。ちなみに、今日付けのインディペンデント紙やガーディアン紙はこうした報道の真偽を検証する記事を出している。

 クラス(階級)の違いも攻撃の対象になった。ブラウン首相ははかつて、保守党キャメロン氏が裕福な家庭の出身で、階級が上であることを何度か指摘し、「だから普通の人の気持ちは分からない」と暗に示唆してきた。テレグラフはクレッグ氏もキャメロン氏同様裕福な家庭で育ち、エリートコースを歩んできたと指摘していた。

 テレグラフの不正献金疑惑の記事はテレビ討論2回目が行われた昨日、1面にでかく出た。これはいくらなんでも「あざとい」と見る人は多かったようだ。昨日テレビを見ていたら、こんなことをしていては「逆に保守党が票を失う」と指摘する論客がいた。

―3人とも、よくやったが

 昨晩の第2回目の討論では、前回、カメラ目線がほとんどなかったキャメロン氏、ブラウン氏ともにしっかりカメラを見ていた。これはクレッグ氏が最初の討論でやった方法だ。また、質問をされたら、その人の名前を繰り返す、という手法もキャメロン氏が模倣。前回の良いところを学ぶのはいいことだった。

 おそらく、「自分らしさを出すように」というアドバイスがあったのかどうか、ブラウン氏もキャメロン氏も、第1回目に比べて、リラックスして、かつ自分が言いたいことを上手に言っていたように見えた。キャメロン氏は「もし私が首相になったら」という文句を何度か繰り返していた。クレッグ氏は前と同じように、視聴者に語りかけるスタイルで相手の心をつかんでいたとは思うが、何か新しいものがあったかというと、そんな感じはしなかった。ブラウン氏とキャメロン氏が本気でクレッグ氏にぶつかってきた・・そんなバトルだったと思う。

 番組終了直後の「誰が勝ったか」という調査では、キャメロン氏が36%、クレッグ氏及びブラウン氏が30%ぐらい。他の調査では、クレッグ氏が33%(あるいは32%)で、キャメロン、ブラウン氏が30%など、3人はほぼ支持を分け合った。第1回目は圧倒的に(40%以上)クレッグ氏だったので、自民党から見れば、やや後退したとも言えるが、第3党としてはあっぱれというべきであろう。

 今日の新聞を見ると、新聞によって、誰が勝ったかの評価が違う。ガーディアンやインディペンデントはクレッグ氏の勝利で、テレグラフやタイムズはキャメロン氏。ただ、僅差であるのは一致している。

 自民党はいずれの場合にせよ、討論が始まる前には支持率が20%かそれを切る位だったので、ここまで上昇したら、それだけでもありがたいはず。失うものはないのである。よっぽど人気が急落しなければ。

 気になったのはキャメロン氏である。第2回の討論では確かによくやったとは思うが、もっともっとよくないと選挙には勝てないはずだ。どうも戦略を見失っているようだ。ジレンマだ。というのも、「変革を」と言えば、同い年(43歳)だが大きな変化をもたらす自民党のクレッグ氏に負けてしまう。「信頼感」「重厚感」「中身が問題」と言えば、現役の首相に負けてしまう。ウリが非常に見つけにくい。

 唯一のウリが英国民の中に根強い右派・保守感情、つまりは反移民、結婚制度の重要性、欧州連合への不信など。しかし、これをそのまま出すと嫌われてしまう。昔の、嫌われていた保守党に逆戻りしてしまうのだ。ここが難しい。「このままだと、過半数を持つ政党がいない『ハングパーラメント』(宙ぶらりんの議会)になるぞ、そうなったら恐ろしいことが起きるぞ」というメッセージを出して、保守党に投票するよう呼びかけるのだが、この戦略は今のところあまり成功してない。

 私自身はこの右派的なもののイヤーな感じがキャメロン党首からにおい立ってくるのを、テレビ討論第2回目から感じていた。ただの「感じ」だが。

 例えば、労働党が保守党を攻撃する政治パンフレットを作ったことを批判した時だ。保守党の政策に関する嘘が入っているそうで「パンフレットを引き上げてほしい」とキャメロン氏はブラウン氏に言っていた。この時、マジで怒っているのがよくわかった。「こんな汚いことをするな!」という抗議と、「こんな汚いことを労働党はやっているんだぞ」と示したかったのだろう。正当な抗議であるが、何故この場を使ったのかなと思ったのだ。マジで相手を引き摺り下ろす場ではないのになと。抗議や批判はいいのだが、スマートにやらないと。

 逆に、スカイで討論の司会だったアダム・ボルトン氏が、クレッグ氏にテレグラフでの灰色献金疑惑を聞いた時のこと。本当は司会者だから質問してはいけないのだけど、「今朝の記事で・・」と言い出すと、クレッグ氏は釈明をしたり、嫌悪感を出すのでなく、「ああ、あれは全く見当違いのことなんですよ」と言って、すぐに次の話題に移り、2度と言及しなかった。保守党プレスがやっていることで、もしそうしようと思えば「フェアでないカバレッジがあった」とか言ってもよいのに、である。また、何故テレグラフの記事が正当ではないのかをくどくどと説明することもできただろうが、それもしなかった。「論外」という感じで、あっという間にスルーしてしまったのである。

 またほめることになってしまうのだけれど、タイミングよくスルーできるセンスーこれはやはり1つの才能である。また、BBCのジェレミー・パックスマンによるインタビューの時も(前回書いたけれど)そうだが、やっかいな相手と接するときに、「相手のゲームプランに乗らない」ことが重要だ。ボルトン氏はクレッグ氏が何らかの感情的なあるいは論理的な反応をすることを求めた。しかし、クレッグ氏はこれに乗らなかった。頭がいいなと思う。

 最終的には、やはり政策が決め手となろう。ずいぶん3党の考えは違うのだ。保守党は小さな政府で、政府の役割を減らす・自由度が広がるというのはいいが、福利厚生はどうなるのか心配である。労働党は大きな政府でいろいろと面倒を見てもらえるのはいいが、何でもかんでも政府がやって、負債が雪だるまに増えたり、自由度が少なくなるのはいやだ。自民党は外国人にもオープンで自由度が高い感じがするが、どうも純粋できれいな政策だけで、国際社会の荒波を超えるような英国になれるのかなとやや心配でもある。(もし選挙権があったらー?自民党に投票して、これが政権に反映されないという、私のいつものパターンになりそうだ・・・。)

参考:プレスガゼットより
400万人がテレビ討論の2回目を視聴
http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?sectioncode=1&storycode=45348&c=1
ニック・クレッグ、メディアの否定的な報道に反撃
http://www.pressgazette.co.uk/story.asp?storycode=45342

by polimediauk | 2010-04-24 00:21 | 政治とメディア