欧州と宗教ー3
深まる世俗化
現在、ローマ法王の葬儀報道が続いているため、やや意外に思う向きもあるかもしれないが、欧州の中でキリスト教離れが進んでいる・・・という側面を見てみたい。
新聞通信調査会の4月号会報に掲載の、「欧州と宗教」の記事の結論の部分になる。
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二十五カ国に拡大した欧州連合(EU)に目を向けると、キリスト教を政治から切り離す、脱宗教化傾向が年々強まっている。
昨年十月、欧州委員会の司法・内務担当委員に就任予定だったロッコ・ブッティリオーネ氏の人事が撤回された。「同性愛は罪」「女性は子供を持ち、男性の保護を受ける権利がある」などと発言したことがきっかけとなり、「司法・内務担当には不適格」と欧州議会が人事承認を拒否したためだ。
イタリア出身の同氏はカトリック保守派で、ローマ法王とも親しい。同性愛に対する否定的な態度など、カトリック教徒としての価値観を表明したために反発を招いたと見る向きも多い。ブッティリオーネ氏自身も「私の信仰が人事の邪魔になったのだと思う」と、今年二月、BBCワールド・サービスの番組の中で語っている。
同番組の中で、ローマ法王庁のマルチノ枢機卿は、EUは「世俗主義の行き過ぎ」と批判する。その一例がEU憲法の文言だ。
六月に草案が決定した憲法策定の過程で、ドイツ、イタリア、ポーランドなどはキリスト教をEUの基本価値として明記するべきとしたが、フランスやスペインなど政教分離を推し進める国々はこれに反対した。最終的な文面は、EUは「欧州の文化的、宗教的、人類愛的遺産からインスピレーションを得る」となり、「キリスト教」は入らなかった。
EU内の政教分離志向は、キリスト教をベースとした道徳的、宗教上の価値観の維持が重要とされる米国とは対照的だ。再選を果たしたブッシュ米大統領は勝利演説の中で「家族と信仰の最も深遠な価値を維持することに力を尽くす」、と国民に宣言している。
ートルコ対欧州
昨年十二月中旬、EUは、全人口の九十九%がイスラム教徒であるトルコとの加盟交渉を今年秋から開始することを決めた。
トルコの加盟を巡り、宗教の観点からは現在の欧州のとらえ方に相反する二つの考え方あることが明瞭になった。一つは、トルコがイスラム教の国であることから、キリスト教をベースにする価値観を持つ欧州とは相容れないとする考え方だ。欧州憲法の草案作りの中心的存在だったジスカールデスタン元仏大統領がその代表格だ。
もう一つは宗教色を取り除こうとしてるEUに、信仰心の篤い国が入ることへの違和感だ。昨年九月、ウオールストリート・ジャーナルの欧州版の中で、ジャンピエール・ラフラン仏首相は、「世俗主義の川床にイスラムの川が入るのを、私たちは望むだろうか?」と疑問を投げかけた。
理由付けは違うが、どちらの場合もトルコを異質な存在として見ている点では一致している。
―共生の道は?
仏政治学者ジル・ケペル氏は、欧州の今後に関し、オランダの例など「キリスト教世界対イスラム・異教徒」といった対立する二つの世界の衝突事件が目につくが、本当の闘いは、「信仰の価値観と欧州社会の価値観との整合に悩む、欧州で生まれ育った移民二世、三世の心の中で起きている」と指摘する。
「価値観の違いを自分自身の中でどう折り合いつけていくのかー。移民たち自身の変化が欧州の将来の鍵を握る」。
(新聞通信調査会 http://www.chosakai.gr.jp/index2.html)