英総選挙 ブラウン首相、「偏屈な女」と言っただけだったら問題にならない
日経のサイトでビデオ(テレビ東京のニュース)を見ていたら、あれ?と思った点があったので、テレビ討論が始まる前にとりあえずここに記しておきたい。
http://www.nikkei.com/video/?bclid=72823327001&bctid=81902540001
これを見ると、ブラウン首相が初老の女性に会った後、車に乗りこみ、まだマイクがスーツについていたのを忘れて、思わず本音をもらしてしまったと。その女性を「偏屈な女」と呼んでしまった、という・・・。
この動画だけを見ると、何故これが「大失態」になるのか、日本でテレビを見てて分かった人はいるのだろうかー?(にこやかに話した後、「偏屈な女」とか言ったから、マズイ???でも大失態とは言えないだろう。)
おかしいなあと思い、他のニュースも見ると、いくつかが大失態となったのは「偏屈な女」と言ったから・・・という展開になっている。
しかし、ポイントは移民問題に絡んだからだ。その点をはっきりと書いていた読売記事を読んですっきりした。
英首相が市民を「頑迷な女め」…録音される
【ロンドン=大内佐紀】英総選挙のため中部マンチェスター近郊を遊説中のゴードン・ブラウン首相が28日、与党の移民政策を問いつめた女性(65)について「頑迷な女め」とコメントした上、「なんでこんなバカな会合を設定したんだ」などと側近を叱責しているのが録音され、BBC放送などが繰り返し放映している。
昨日から今日にかけてBBCや他のメディアが大騒ぎをしたのは、「首相には裏の顔があるという噂がまるで本当のように思えたこと」、という面もあるが、まず第一に、これが移民問題に関連していたから。「頑固な」「偏屈な女」と言ったことで、この女性が移民に対する否定的な感情を持つ人=人種差別主義者(レーシスト)」というニュアンスが出た。つまり、首相はこの女性を反移民の頭の固い人物で、レーシスト呼ばわりに近いことを言ってしまったのである。これは相当な大失態である。
英国では人種差別は法律で禁止されているが、これが本当に厳しい。相手を人種差別主義者ではないかと示唆しただけで、あなたも人種差別主義者だと言われてしまう可能性がある位。政治家も著名人も、人種差別主義者、または反移民であると人から言われないように非常に気を使っている。(また、反同性愛主義者であってもいけないーこれもタブー。)
英国は2004年、東欧諸国がEUに加盟した時、他の欧州の多くの国のように「モラトリアム期間」や条件をつけず、移民の流入を認めた。結果的に、予想よりもかなり多くの移民がポーランド、リトアニアなどからやってきた。そして、有能なポーランド人達は着々と仕事を見つけ、税金を払い、子供を育てているわけだが、例えば一部の地域では学校に急に生徒が増えたとか、自治体で人口が急に増えたとか、対応にあわてている現状がある。「来るな」とは言えないのである、EUの仲間だから。
移民問題は本当にセンシティブな問題で、反感を持っている人もたくさんいるのだが、これを口に出すと「差別主義者」と言われてしまう。本音が言いにくい雰囲気があるし、政治家もできればあまり議論をしたがらない。「もう移民はいやだ。元々の英国民のために政府はもっと何かをしてほしい」という、無視できない数の国民の本音を救い上げる主要な政党はないようなのだ。だから極右政党BNPが一部地域では人気がある。
そんなこんなで、タブーの移民問題。これをこの女性が指摘したものだから(「東欧からたくさん人が来てる、一体どうするの?」的な発言で)、「頭の固い女だな」とブラウン首相が思わずため息・本音をもらすのも無理はない。「頭が固い」のは移民に関して、この女性の心が狭い・頑迷だという印象をブラウン氏は持ったわけで、それを思わず口にした。それを察知した英メディアはこの話題にことさら飛びついたのであるーもちろん、選挙やテレビ討論への影響ということで問題視されたわけだが、核にあるのは移民問題だった。
BBC関連記事
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/election_2010/8650546.stm