小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

英総選挙 英コラムニスト、「国民は変化を願っていない」

 いよいよ、総選挙の投票日まで数日となった。来週の今頃は、どんな判定が下っているのだろうー?

 そんなことを考えながら新聞のページをめくっていたら、タイムズに面白いコラムを見つけた。元保守党の下院議員で、今はジャーナリスト・コラムニストのマシュー・パリス氏が書いたもの。パリス氏は確か、昨年か今年かの新聞コラム大賞のようなものを受賞したはずだ。(以下の英文ウイキぺディアは、自分で手を入れたという噂もある。)

http://en.wikipedia.org/wiki/Matthew_Parris

同氏のコラムhttp://www.timesonline.co.uk/tol/comment/columnists/matthew_parris/article7113374.ece

 パリス氏のコラムが優れているのは、いつも何かしら他にはない視点があり、それが物事の本質をよく突いているからである。

 今回パリス氏が指摘したのは、総選挙での発見だ。同氏は様々なメディアに触れ、いろいろな人と話をして、いったい何が起きていて、今後どうなるのかを彼なりに探ろうとした。

 そうすると、どの政治家もメディアも「変化」をキーワードにしているにも関わらず、「では、一体何をどんな風に変化させたいの?」と聞くと、次の言葉がないようであることに気付いた。

 しかし、急に支持を伸ばした第2野党の自民党党首ニック・クレッグ氏が与党・労働党や第1野党保守党の2大政党を古い政党呼ばわりし、「変化」を口にし、それを多くの人が好んでいるようであったので、変化の中身がないじゃないかと思ってもなかなかそれを口に出せないでいたという。どうも、政党もプレスも、有権者が欲しがっているのは「変化」という点では一致しているように見えたのだと。

 しかし、国民が実は恐れているのは変化なのだ、とパリス氏は指摘する。

 「英国民が最後に欲しいものは変化だ。物事が今のままで進めばよいなと思っている」、政治家の手では現状を維持できないだろうと思っている。「だから怒りを感じているのだ」「変化が起きることこそを、国民は恐れている」。

 国民は政治家に本当のことを言ってくれと言うが、本当のことー大きな削減があることーを言ったら、選挙に勝てないし、「醜い真実」は、「削減、削減、削減」の嵐になる。「だから国民は政治家たちにこんなに怒りを抱いているのだ」(副見出し)。

 いやー、なんか本当だなーとしみじみ思った。負債がでかすぎて、きっと公的サービスが大幅削減されて、自分や友人が職を失ったりするかもなー、なんて、半ば予期していても、はっきりと言われたら暗くなる。政治家に真実を言ってくれと迫る国民だが、真実から背を向けているのは国民かもしれない。多くの国民が、景気のいい時に、借りに借りて、「身の丈で生きる」ことをしなかった面もあるしー自己資金全くゼロで家を建てるとか。

 本当は、「変化」なんて欲しくないのかもしれない、国民は。このままぬくぬくと(?)生活を続けられるような、自分の生活をドラスチックに変えなくてよい策を考えてくれる政権ができるようにーそして、それができるんだったら、労働党でも保守党でもなんでもいいって思っているのかもしれない。

 国民全員がこうだとは思わないが、何だか一理の真実もありそうだ。

 ところで、英国の新聞は支持政党を明確にするところが多い。マードック系(サン、ニューズオブザワールド、タイムズ、サンデータイムズ)は、現在、ほぼ保守党支持。インディペンデントは?だが、今日の時点で、ガーディアン紙が自由民主党支持を、タイムズが本格的に保守党支持を表明した。ガーディアン、タイムズ共に社説で「自民党に(あるいは保守党に)投票しよう」と呼びかけている。
 
 労働党を支持している大きなところがなさそうなのがさびしいところ。主要全国紙の中では、大衆紙デイリー・ミラー位だろうか?

 新聞の支持がどれだけ投票率に影響するかは疑問だが、ムード作りには貢献しそうだ。ガーディアンが自民党というのはちょっと驚いたが、「左派」プレスとしては労働党を今更後押しするわけにはいかず、冒険に踏み切ったということか?
by polimediauk | 2010-05-02 03:43 | 政治とメディア