小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英総選挙 まだ終わっていない

 英国の総選挙は昨日(6日)が投票日だった。現在(7日午後1時18分)、最後の11議席(全650議席)の集計中なのだが、実のところ勝利者が確定していない。結果が定まらないので、まだ終わっていないのである。

http://news.bbc.co.uk/

 今のところ、与党労働党が253議席、第一野党保守党が298議席、第2野党自由民主党が53議席である。過半数をどの政党も獲得していないので、「ハングパーラメント」(宙ぶらりんの議会)となり、どの党が政権を担当するのか確定していない。ハングパーラメントの場合、現首相(ブラウン氏)がまず、どのような政権を作るのかを決める決定権を持つのだそうだ。

 ブラウン首相は「議席数では負けたので、自分は辞職する」と言ってもよい。保守党はこれを望んでいるようだ。

 そこでいろいろな選択肢ができる。労働党側は①自民党や他の党と一緒に連立政権を作りたいようだ。保守党は、②少数政権になるが、保守党の単独政権を作るか、③自民党や他党と連立政権を作る、あるいは④(②に含めてもいいのだが)単独政権を作って、自民党や他党と閣外協力を作るかー。

 53議席と小さいながらも、第2野党自民党の身の振り方が注目の的になっている。自民党は①労働党と組んで連立政権に参加する、あるいは②保守党と連立政権を作る、③政権作りには参加しないが、保守党政権に閣外協力する、④独立独歩でどちらにも協力しない、という道がある(④はほぼないが)。既に、ニック・クレッグ自民党党首は「最大議席を獲得した政党が政権を担当するべき」と発言している。これが一体どうなることやら?

 私は朝5時ぐらいまでBBCを中心にテレビで選挙報道を追い、少し寝て、8時頃結果を見たら、まだこう着状態であったので、本当にがっかりした。

 一体何が起きて(何故こうなって)、これからどうするべきなのか?何せ英国ではここまで接戦でハングパーラメント状態になったことがないようで、いろいろな人がラジオやテレビで話していても、「こうなるのが筋だ!」という点では一致してないようだ。それぞれがそれぞれの立場で勝手に主張している。

―ハングパーラメント

 ちょっと歴史を振り返ってみれば、英国の2大政党の始まりは17世紀が発祥と言われている。当時はイングランド王国である。イングランドは英国教会(プロテスタント系)の国で、国王がプロテスタントかカトリック(「敵」)かは非常に大きな意味を持っていた。

 1660年から王政復古で即位したチャールズ2世には後継ぎの子供がおらず、弟でヨーク公のジェームズを次の国王にすることを望んだ。ジェームズ(後のジャームズ2世)はカトリックだった。議会の中でジャームズの即位を除外しようとする議員たちはホイッグと呼ばれ、即位支持派はトーリーと言われたらしい。その後、18世紀にはホイッグ党(後の自由党、現在の自由民主党の前身)、トーリー党(現在の保守党の前身)となって成長した。次第にトーリー党とホイッグ・自由党が交代で政権を担当する体制ができていった。

 2大政党は1920年代までは保守党、自由党だったが、それ以降はほぼ保守党、労働党だった。

 英議会がハングパーラメントになるのは珍しく、前回は1974年で、その前は1929年。補欠選挙や所属政党の変更で与党が過半数を失ったこともあるが(1976年のキャラハン政権、1996年のメージャー政権など)、常に2つの大きな政党が過半数の議席を取ることで政権を作ってきた。

 英下院の議場を見ても、与党の席と第1野党の席が向かい合うように座り、互いに議論を戦わせる。もし将来的に連立政権が普通になっていけば、議場の作りも変えないといけないかもなあと思ったりする。(ツイッターで、ある人から、「2大政党制は終わりになったのかどうか?」「日本では2大政党制が始まったばかりなのに」と聞かれた。日本と比較はできないと思うがー日本は2大政党うんぬんよりも、そもそも野党が十分に機能していなかったのではないかー、2大政党制という仕組み自体が限界に来たのかどうかは??である。政治学者の人はそれなりに見方があるのかもしれないが。)

 連立政権自体は欧州では決して珍しくなく、選挙後に政権ができるまで、複数の政党の党首同士が交渉する期間が長く続く場合(オランダ、ベルギー)も珍しくはない。英国内でも、スコットランドでは過半数の議席数を獲得できなかったスコットランド国民党が政権を担当してきたのだ。

 しかし、ウェストミンスター議会ではまともに続いたことがなく、政界関係者は右往左往状態になっている。多くの国民にとって、せっかく投票したのにすっきりしないのが現状だ。

 他に問題となったのが、投票所での失態だ。予想を超えた人数の有権者がやってきた数か所の投票所では、時間までに(夜10時が最後)中に入りきれなかった人が結構出た。何時間か並んだ結果入れなかったり、投票用紙を持たずやってきて、これを何とかして準備しようとしたが間に合わなかったとか。その様子をテレビで見て、「これが民主主義(選挙)の長い伝統を持つ国の出来事なのか?」と思った人は多いと思う。英国に住んでいる人であれば、「ようこそ、英国へ」(皮肉である)と言うかもしれないがー。
 
 保守党が政権を作った場合、短期政権になるという見方が出ている。今年、もう一度総選挙があるのでは、と。

 労働党は遅かれ早かれ、党首を変えるしかないだろう。ただ、誰になるのかは全く分からない。保守党党首キャメロン氏(43歳)、自民党党首クレッグ氏(43歳)に釣り合うような若い人でないと、有権者の支持を得られないだろう。となると、ブレア元首相が推していたデービッド・ミリバンド外相か、その弟のエド・ミリバンドか。あるいはアラン・ジョンソン保険相か、副首相のハリエット・ハーマン氏か。

 ブラウン首相は早い時期に自ら退陣を選ぶのが道義的には筋だと思うが、果たしてその決断ができるかどうかー?まさに決断力が問われている。
by polimediauk | 2010-05-07 21:19 | 政治とメディア