小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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政府に盾つくBBC-大丈夫か?

 毎週、木曜夜に放送されるBBCのニュース番組(視聴者参加型)「クエスチョンタイム」。パネリストが数人並び、会場内の参加者から質問をもらって、これに答える形を取る。

 最近は、私は後でBBCアイプレイヤーで見ることが多く、今晩も別のことをやっていた。しかし、ラジオでニュースを聞いて驚いた。なんでも、デービッド・ローズ(自由民主党議員、自民党と保守党は連立政権を作っている:追記「ローズ」でしたね。直しました。)という大臣が出席するはずだったが、その代り、野党労働党の元官邸戦略局長アラステア・キャンベル氏を出さないようにしてほしい、とお願いしていた(実際、同氏は出演)。

 そして、ラジオで聞いただけなのだが、番組の冒頭で、司会のデービッド・ディンブルビー氏が、「誰が番組に出席するのはこちらが決める。官邸ではない」と言ったようだ。

 番組のプロデューサーもかなり頭にきている様子。「政府の干渉だ」と。なんでも、3年間この番組を担当してきて、官邸がこんな形で言ってきたのは初めてだという。

ニュース記事
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/8709930.stm
プロデューサーのブログ
http://www.bbc.co.uk/blogs/theeditors/2010/05/question_time.html

 すごいことになったな、と思う。明日、アイプレイヤーで早速見てみようと思う。

 気になるのは、BBCがこんなに威勢がいいことを言って大丈夫なのかな?と。保守党は政権を取ったらBBCの受信料カットやBBCトラストという経営委員会に相当する組織をなくすると言っていた。実際は、それほど急にカットにはならない感じ(通信庁オフコムも、前はなくするといっていたが、政権を取ってからはそうではなくなったようであるし)だ。しかし、「先は分からない」のである。

 司会者のディンブルビー氏の、「官邸が決めるのではない・・・」という、どことなくリキが入った声の調子がどうにも気になるのだ。前に官邸(労働党政権時代)と対決した時(2003-2004年、イラク戦争を巡り)、経営陣二人が辞めるところまで行ったのである。勇み足というか、あまり理想論でいきりたって、対決姿勢にしていいのかな、と。

 ある意味、大したことではないのではないかと思うーつまり、「プライドを傷つけられた」(BBCの制作者側の)だけかもしれない。(BBCのプライドはかなりデカイのである。)

 おそらく、似たようなことは水面下でいつも起きているだろうし、このような形で大きくなったことこそが、「裏に何かあるな」という感じもする。一体どうしてこんなにこじれたのだろう。

 出席したキャンベル氏は「メディアのスピン」が得意ということで有名な人だったけれども、キャンベル+労働党側に利用されたということはないのかな、と思う。つまり、ディンブルビー氏は「BBCは独立・中立」としながらも、ラジオでちらっと聞いた、鬼の首でも取ったかのような物言いが気になる。BBCは左寄りとよく言われるのだけれど、何だかそんな感じもした。

 保守党にはタブロイド紙「ニューズオブザワールド」の元編集長アンドリュー・コールソン氏がついているし、労働党も野党になって黙って引き下がるわけはないだろう。常にさまざまな局面で本気のメディア合戦があるし、昔のトーリーとホイッグじゃないけれど(話が古い!!!)、マジの戦いがある。今晩の時点では、労働党が勝ったといことだろう。


追記:
この日出席予定だった大蔵副大臣(財務省のナンバー2)デービッド・ローズという人は、この後急展開があって、大臣職を辞職しました。聞き及びの方もあるかもしれませんが。直接関係あるとは思いませんが、テレグラフのスクープで、男性の恋人とシェアしていた(?)アパートの賃貸料の支払いを議員経費として請求していたのですが、これに不適切な部分があったということで、謝罪。同性愛者であったことがばれてしまいました。当人は家族(両親とかそういう意味でしょうか、独身者なので)にも秘密にしていたそうです。結局、こういうごたごたでは仕事に専念できないだろうということで、内閣から離脱。あっという間でした。ゲイであることがばれることを非常に恐れていたそうです。

by polimediauk | 2010-05-28 08:46 | 政治とメディア