小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英・性犯罪者の情報公開-1


目立つ大衆紙の住民扇動


 本題に入る前に、今朝のタイムズの社説面が、日本のメディアで紹介されていることに気づいた。例えば:

 「反日の陰に中国政府」 英紙が指摘
【ロンドン11日共同】11日付の英紙タイムズは社説で、中国の過激な反日行動について「明らかに中国政府の暗黙の奨励に基づいて行われている」と指摘した。
 その上で「日本の世論はもはや中国に対して、それほど卑屈ではない」と強調。反日行動の過激化を許せば日中の経済関係が脅かされるなどとして「最終的には中国が敗者になるということを中国政府の指導者は理解しなければならない」と主張した。
 一方で小泉純一郎首相に対しては、教科書検定をめぐる日中両国の緊張関係を終わらせることや、靖国神社参拝以外による戦没者の追悼方法を見いだすことで、「真の改革者」であることを証明するよう求めた。
(共同通信) - 4月11日10時29分更新

 外国のメディアが日本に対して何かを進言するとき、そのまま受け取らず、若干注意してみる必要があるが、時には、「傍観者」の方が状況が良く見えることもあるだろう。私の読後感では、喧嘩両成敗のような、どちらにもそれぞれの行動を改めるよう呼びかけているようだ。何故タイムズが今これを書いたのか?疑問は残るが、他の新聞の関連社説も見て、後で報告したい。

 さて、イギリスの性犯罪者情報に関してだが、日本語のブログや他のウエブで、「情報公開が行われている国」として、アメリカや韓国と並べて書かれている例を見つけた。あれ?と思ったのだが、イギリスでは性犯罪者、特に児童性愛主義者に対する嫌悪感が社会の中で非常に強く、一種のタブーとなっている。こうした犯罪者たちの情報が、広く公開されているとは思えなかったからだ。

 調べてみると、「公開」といっても、警察など関連団体に公開・共有されている、ということで、一般市民が必要に応じて情報をリクエストし、取得するといった形にはなっていなかった。

 メディアの影響とをかねて、日本新聞協会が出している週間新聞「新聞協会報」(3月29日号)に書いてみた。

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英・性犯罪者の情報公開状況
加害者報道禁止令も
目立つ大衆紙の住民扇動

 性犯罪者の居住地情報の公開の是非が、日本で大きな問題になっている。

 米国では性犯罪の前歴を持つ男性に殺害された女児の名前をとった「ミーガン法」の下、地域住民は近隣に住む性犯罪者の居住地情報をネットなどで簡単に入手できるが、英国ではそこまでの徹底した情報公開は進んでいない。

 英国の特色として、情報を得た住民らが大衆紙を中心とするメディア報道に扇動される形で犯罪者たちの追放キャンペーンや直接の攻撃を行ってきた歴史がある。ミーガン法のような措置がないのはこのような治安上の懸念があるのと、攻撃を恐れる犯罪者たちが服役後に義務とされる警察への居住情報の届出を避けて地下へもぐる可能性があるためだ。

 性犯罪者が地域社会に戻ったときの処遇と、性犯罪者報道をたどってみる。

―地域ぐるみで監視

 服役を終えた性犯罪者は、刑務所を出た直後、居住地その他の個人情報を警察へ届ける義務がある。毎年これを繰り返し、住所が変わった場合は三日以内に届け出る。これを怠ると、場合によっては禁固五年の刑が下る。

 情報は、警察だけでなく、社会保障、教育、保護観察などの地域機関の中で共有され、地域ぐるみで再犯防止のために犯罪者を監視する。再犯率が高いと見なされた場合は、子供が集まる場所への出入りが禁止されたり、足首に電子所在発信装置がつけられ監視される場合もある。

 また、児童に関連する犯罪を犯した人は子供に関わる仕事をしたり、単独で子供と接触したりすることが禁じられている。雇用側も罪に問われる。性犯罪に限らず全ての犯罪者の前歴情報は警察、文部省、保健省が保管しており、学校やその他子供を扱う機関で働きたい場合、本人が「犯罪記録局」にコンタクトをとり、問題になるような犯罪の前歴がないことを雇用者側に証明する。被疑者も含む犯罪者のDNAデータベースも拡充しており、現在、約二五〇万人分のDNA情報が保存されている。

 しかし、こうした情報ネットワークにも落とし穴があった。管轄する複数の警察や関連機関内での連携の不足、人的エラー(誤って、必要な情報を破棄)が起き、女児らが犠牲になっている。英版ミーガン法の不在も一因とされた。

―サラちゃん殺害事件

 二〇〇〇年、八歳の少女サラ・ペインちゃんが遺体で発見された。犯人は性犯罪の前歴のある男性だった。サラちゃんの両親は、児童性愛主義者が近隣に住んでいた場合地元住民は情報を与えられるべきだとし、英版ミーガン法として「サラ法」の制定を訴え続けているが、現在まで実現していない。

 この事件を受けて、日曜版大衆紙のニューズ・オブ・ザ・ワールドが児童に対する性犯罪の前歴がある人物の実名と顔写真、居住住所などを掲載した。「近所にモンスターはいるか」「犯罪者は出て行け」などの見出しを連発した報道は、人権侵害擁護?の見地から異議を唱える市民団体と、「保安の面から、一定の理解ができる」とした一部の政治家や市民との間で評価が分かれた。

 報道後、各地で性犯罪者追放デモが起き、情報が掲載されたある男性の家を住民らが取り囲み、窓を割ったり、車に火をつけたりという事件も起きた。名前が似ているというだけで襲われたり、児童性愛主義者、英語では「ピーダファイル」が、小児科医(ピーダトリシャン)と、つづりが似ているということで誤って市民が医者を攻撃した、というケースもあった。報道への批判が高まり、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙は同様の記事の掲載を中止した。

―ソーハム事件

 二〇〇二年、英南部ケンブリッジ州ソーハムで十歳の小学生女児二人が殺害された。逮捕されたのは、少女たちが通っていた学校の管理人だった。強盗容疑の他、十代の少女たちと強制的に性行為を行ったとして数度告訴されていたが(犠牲者らが後で告訴を取り下げるなどして有罪には至らず)、担当した複数の地元警察や関連団体の間の連絡が不備で、必要な情報が破棄されるなどの人的エラーもあり、こうした情報が雇用した学校側に伝わっていなかった。

 大衆紙を中心としたメディアは、管理人とその交際相手で同じ小学校で教員補助をしていた女性(管理人のアリバイの偽証で有罪)に関してのゴシップ、中傷、事実の裏打ちのない記事を連日報道した。この女性は殺害行為に全く関与していなかったが、過熱報道が人々の憎悪心を誘発し、裁判所から拘留所に戻る護送車の通り道に多くの人が集まり、「死ね」などと叫ぶ声があがった。報道が陪審員の判断を曇らせ、裁判の行方に及ぼすことを懸念した法務長官は、報道自粛を要請する声明を発表した。

 男性は二〇〇三年末、殺人罪で終身刑となった。教員補助の女性は二年近くの服役後、今年二月釈放された。高等法院は、この女性に新しい名前、身元を与え、一生涯、個人情報の報道を禁止する命令を出した。姿格好が似ている女性たちが市民に襲われる事件が数件起きており、教員補助の女性の身の安全を守るための措置だった。

 同様の措置は、一九六八年当時十一歳で二人の子供を殺害した女性と一九九三年幼児を誘拐・殺害した当時十歳の二人の男児らにも取られている。事件発生時に成人でこうした措置になったのは今回が初めてだった。

―メディアの責任

 禁止令の翌日、大衆紙デイリー・エクスプレスは、女性が「ひどく不愉快な罪を犯した」にも関わらず、「あまりにも軽い刑で済んだので」、自分が犯した行為の「過酷で厳しい結果とともに生きるのが当然だ」、とした。生涯の身辺保護には五千万ポンド(約九十九億六千万円)の税金がかかるが、こうした保護の必要はなく攻撃を受けても自業自得だ、とする趣旨の主張だった。

 メディア評論家ロイ・グリーンスレード氏は、高級紙ガーディアンの二月二十八日付けコラムの中で、「この記事は無神経で無責任だ」と批判した。高額の税金が使われるという事態は、メディアの過熱中傷記事の結果だった点を指摘し、「どのメディアもこの点について言及していない」と嘆く。

 今回の個人情報の報道禁止令を、「報道の自由の侵害だ」とした英紙もあった。グリーンスレード氏はこれに同意しない。「メディアが『報道の自由の侵害』を声高に叫ぶ時、実は、書きたいことを好きなように書く権利の侵害だと言っていることに注意するべきだ」。

 一方、ニューズ・オブ・ザ・ワールドのスチュアート・カットナー編集長は、報道禁止令が出た直後のBBCオンラインの取材の中で、高等法院の決定は「現実的ではない」とし、いずれ禁止令を破るメディアが出てくることをほのめかせた。

 三月上旬、テロ防止法に関してBBCの取材を受けたチャールズ・クラーク内相は、ミーガン法のような地域住民への情報公開の可能性を、「治安上の理由」から改めて否定している。
by polimediauk | 2005-04-11 19:15 | 英国事情