小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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好調「エコノミスト」の秘密:「週刊東洋経済」より

 英週刊誌「エコノミスト」の好調の秘密を探し出すべく、ロンドンの編集部でデジタル部門の編集長トム・スタンデージ氏に聞いた。以下は週刊東洋経済(7月3日特大号「激烈!メディア覇権戦争」)の筆者執筆分。

 実際のインタビューはかなり長いものだったので、そのやりとりなど詳しい流れを知りたい方(&時間がある方、エコノミストが好きな方)は、「ニューズ・マグ」掲載分に飛んでいただけると幸いであるーー英「エコノミスト」デジタル・エディターのインタビュー① 「パッケージで売る」やり方で、飛ぶ鳥落とす勢い http://www.newsmag-jp.com/archives/4141

 スタンデージ氏との話との中で(これまでに取材した人の中でもトップ5本指の中に入るぐらい、しゃべりの早い人でした)、今までピンと来なくて、途中から、頭の中の電球に灯りがともったように感じた瞬間があった。それは、エコノミストは「パッケージで売っている」ということ。紙媒体の雑誌の販売部数と、電子版購読者とがほぼ一致するーつまり、読者は紙のエコノミストがほしいのだそうだ。どこにでも、気軽に持って行ける媒体=一冊の中に世界のありとあらゆることが載っている=これを読めば、「とりあえず、世界情勢はフォローしたな」と思える媒体・・・だから好きなのだそうだ。今までこんな風に考えたことが実はなかった。

 そして、この考えから行くと、ウェブサイトは(例えどんなにかっこよく作ろうと)、「貧弱な代用品」なのである。手に持って行けるわけじゃないし、ぱらぱらとめくることもできない、なんだか見にくいな、と。24時間変わっているから、「ここまで読んだら、ひとまずカバーしたな」という感覚がもてないし、と。

 なんだか、ウェブサイトの拡充に血道をあげている新聞の努力が、急に(少し)ばかばかしく思えてきたのだった。
 
 ・・・ということを考えながらのインタビューをまとめた記事は以下です。


ネットですべて見せているのに部数拡大
好調「エコノミスト」の秘密


英「エコノミスト」デジタル・エディター:トム・スタンデージのインタビュー

スタンデージ氏とは:ウェブサイト、携帯サイト、タブレット、e-reader 版を監修する。ビジネス、金融、経済、科学、技術面担当編集長から現職へ。雑誌・新聞でネットに関わるコラムを書くほか、「The Victorian Internet」など5冊の本の著者でもある。


 世界の政治・経済状況を分析・解説する週刊誌「エコノミスト」の快進撃が続く。発行部数は右肩上がり一辺倒で、現在約160万部に達している。09年3月決算の収入は3億1300万ポンド(前年比17%増)、営業利益は5600万ポンド(前年比26%増)だ。ウェブサイトの広告収入は前期比29%増、ページビューは53%増となった。

――好調の理由は?

 エコノミストのビジネスモデルの特徴として最初に挙げられるのが、収入の65%が購読料、35%が広告で、購読料収入に依存している点だ。市場の変化で広告収入が減った場合にも比較的影響を受けにくい。また、伝統的に景気低迷時期にむしろ売れる傾向があるのも幸いした。

 最大の強みは、ほかでは得られない独自の製品を提供している点だ。つまり、世界で起きているすべての事象を見て分析し、これを手に持てるような1つのパッケージ=雑誌としてまとめている。一種の幻想かもしれないが、エコノミストを読めば「世界の情勢をフォローしている」という印象を読者に与えている。

ニュースサイト、ブログ、新聞、雑誌など情報がたくさんあればあるほど、本当に必要な情報をフィルタリングする媒体の重要性が増す。

――雑誌の記事とウェブサイトに載せる情報の兼ね合いは?

 エコノミストは長年、雑誌の内容をすべてウェブサイトに掲載してきた。雑誌の売り上げにはマイナス面での影響はまったくなく、むしろ雑誌販売のショーウインドウとして役立ってきた。現在は、雑誌の掲載記事のリストはサイトのトップには出ず、有料購読者向けサービスとした。ただし、週を通じて雑誌記事を少しずつサイト上に出しており、次の号が出るころには購読者でなくても、ほほ全部の雑誌記事が読めるようになる。購読者は雑誌発行日の金曜日、一度にすべてが読める。

――どうしてサイトに記事を無料公開しても、雑誌の売り上げが落ちないのか?

 ウェブサイトを抱えて飛行機には乗れないからだろう。雑誌であれば、読後「これで今週はニュースに追いついた」と思える。ところがウェブサイトには常に新しい情報が入り、終わりがない。サイトは雑誌体験の貧弱な代用品だ。2~3年前までは、「雑誌を売るためにウェブサイトを作る」という考えがあったが、今は補完するウェブサイトがある雑誌を作っているという意識だ。

――ほかのニュース週刊誌がエコノミスト・モデルを模倣できるか。

 非常に難しい。世界の隅々の現状を俯瞰する、米国の外からの視点を持ったニュース週刊誌はなかなかない。読者の半分は米国人だが、米国以外の視点を知りたがっている。本誌独自の分析、意見、ウイットを構築するには何年もかかるだろう。


東洋経済・7月3日特大号「激烈!メディア覇権戦争」
http://www.toyokeizai.net/shop/magazine/toyo/detail/BI/04096f9c9cd2790d9accb3ea894dcbba/

エコノミスト
http://www.economist.com/
by polimediauk | 2010-07-01 17:58 | 新聞業界