小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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中国での反日抗議運動、英メディアの反応


中国人ジャーナリスト:「謝罪していないのに、国際的に認めてもらいたいなんて、無理だ」

 今日(4・12)までに耳に入った、目にした中国での反日抗議関連のオピニオン、報道を紹介したい。網羅でなく、現地情報のスケッチと思っていただきたい。

 英チャンネル4(テレビ)の夜7時のニュースでは、日本が中国の日本大使館攻撃に損害賠償を求めている件を、小泉首相やその他数名の日本政府関係者のインタビュー(日本のテレビ局が放映したもの)に英語の音声をかぶせる形で紹介し、これに中国や韓国での反日抗議デモを入れて流した。

 暴力を使うのはいけない、というトーンがあり、「中国がこんなことをしたのだから、損害賠償を求める流れになったのだ」という説明だ。教科書問題にも触れたり、韓国が竹島問題で怒っていることも紹介。

 最後の数十秒では、「日本が南京大虐殺に関して、いまだにあいまいな態度をとっている」ことにも、中国での反日抗議が起きる背景がある、としている。

 この、「日本にも非がある」というトーンは、英メディアでは共通で、戦争に関して「他のアジア諸国に十分に謝罪していない、と中国側は言っている」というのでなくて、「・・と中国側は言っている」という部分は省き、「他のアジア諸国に十分に謝罪していない」とみる見方が共通の歴史認識になっていることに注意したい。英国で(あるいは他の欧州の国で)この問題について話をするとき、相手側がこうした認識をしていることを、この点に賛同するかどうかは別としても、理解しておきたい。

 昨日、ロンドン市内で、BBCワールドに勤める鳳灯さんという中国人のジャーナリストに会った。今回の出来事について意見を聞いてみた。彼の見解はBBCの見解でなく、あくまでも彼自身の見解という条件付きだった。

 まず、暴力を使って抗議をすることには、「個人的には反対だ。もし抗議するなら、落ち着いて、政治的方法を通じてやるべきだ」。「日本人に対しての抗議でなく、日本政府に対しての抗議だ」。

 「日本が戦争中の残虐行為に関して正しく謝罪していないことが原因だ」。「日本の国連常任理事国化にも、現時点では反対だ。正しく謝罪していないのに、国際的に認めてもらいたいなんて、2つを同時に欲しがっても、無理だ」。

 「反日抗議をしている人たちは、国民全体から見ると、限られたグループ。しかし、こうした人々が声を発することができるように、というのも政府の政策の1つ。政府としては、こうした反日抗議が起きて欲しくない。暴力事件も起きて欲しくない。しかし、もしこうした声を抑え付けると、反政府の声になることを恐れている」。

 チャンネル4のニュースの話に戻ると、外交アナリストの女性(ゲスト・コメンテーター)が、「政治的には大変だが、日中のビジネスはすごく伸びている。こちらに期待したい。長い目で見るべきだ」と語っていたのが印象的だった。

 夜10時からのBBCのメイン・ニュースでも中国での抗議行動が放映された。改めて画面で見ると、やはり日本人としては怖いというか、圧倒される。日本の旗を焼いたり、中国にある日本企業の建物や車が攻撃されたりしている。

 BBCの特派員が、こうした抗議行動は「日本の新しい教科書採択がきっかけ」だが、「日本の常任理事国化も背景にある」と分析。

 ネットで、日本の常任理事国化への反対署名を集めた北京の男性のインタビューがある。すでに1000万人の署名を集めたという。

 「国連は日本のような武力攻撃をする国を止めることができる機関だ。そんな機関の常任理事国に日本がなるなんて、反対だ」と男性は応える。

 中国のトップのコメントで、「日本は戦時の残虐行為を認めていない」とする映像が、英語の音声がかぶさって、出る。

 最後は特派員に戻り、「日本は長い間アジアのパワーとなってきた。中国も新たなパワーになってきており、二つの国の覇権争いの要素がある」と述べて、締めた。

 BBCもチャンネル4も、「暴力を含む抗議行動は過剰だ。しかし、日本もやるべきことをやってこなかった」という論調を基本としている。どちらの側にも味方しているわけではないが、少なくとも英国では、「日本にも非がある」という考えが普通に存在していることに、繰り返しになるが、注意したい。

 さらに、英国における、戦争をめぐる日本観について付け加えると、まず、様々な理由から(1つには英国が戦勝国であるせいもあり)、戦争もののドキュメンタリーが日常茶飯事で放映されている。ヒロシマ・ナガサキの原爆の被害に関するドキュメンタリー、実写を多く使った戦争ドキュメンタリーなど。米映画「戦場にかける橋」では、日本軍によるイギリス人などをはじめとする戦争捕虜に対する「残虐行為」が描かれているが、この映画も人気があり、何度もテレビで放映されている。

 結果的に、「日本軍は大戦中に、アジアの他の国の人々や戦争捕虜たちに残虐行為をした」というメッセージ・認識が、1つの常識として人々の心の中に残るような環境がある。

 そして、こうした「過去」は決して「60年前の遠い過去」でなく、今現在人々がリアルに想像できるトピックの1つとなっている。
by polimediauk | 2005-04-13 04:50 | 日本関連