小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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出版社対著者+エージェントのバトル(+印税報告)

 電子書籍(イーブック)とこれまでの紙での書籍の出版の権利をどうするかで、米英出版社と著者側(及び著者のエージェントたち)がもめている。

 「ブックセラー」というサイトによると(8月2日付)、英出版社ブルームズベリー(ハリーポッターシリーズなどで著名)の幹部が、社内メールの中で、紙での書籍の出版権利と電子書籍としての出版権利(デジタル・ライツ)は切り離すべきではない、と書いていた。(ここでは、「フロントリスト」と呼ばれる新刊ではなく、「バックリスト」、つまりすでに出版済みの本を対象としている。)

 ペンギンブックスのトップも、紙での出版権と同様にデジタル・ライツをもてない本は「拒絶する」と述べており、経営陣がこれに賛同したという。

 先に、米国人のエージェント、アンドリュー・ワイリー氏が出版業に乗り出し、アマゾン・キンドルで20タイトルの本を電子出版する出版社「オデッセー・エディションズ」を立ち上げた、という話があった。ワイリー氏は、既存の出版社側が電子書籍の販売で著者側に与える印税が「低すぎる」として、今後、印税が低いままだと、20タイトルどころか、もっと手がける書籍を増やす、としている。

 印税=ロイヤリティーの計算は個々の作家、契約、販売部数など複数の要素によって変化し、かつ、英国には再販制度がないなど販売・流通のしくみも異なる。したがって、私が先日このブログで書いたような「定価の50%あるいは25%=著者の取り分」「日本では著者取り分が10%と聞いているので、日英との比較では英国のほうが著者にとって有利」という単純な話ではまったくないことが分かった(!!)。(どっちがいいのか?という疑問はいまだ解けていないので、後日、さらに情報が分かったら、追加したい。―実売をベースにする英国は弱肉強食度が高いような気がするけれども。)

 しかし、今英米圏で問題にされている「印税が低い・高い」という件で、対象となっているのは、ある本の小売価格(書店によって異なるが)から書店への支払いなどもろもろのコストを引いた、利益のネット額(net proceedings)だ。これまでは(紙の場合は)これを出版社側と著者側が半々(50%ずつ)にしていた、という。それが、電子書籍の場合は、著者側が25%になっているのだとう。このため、著者のエージェントとして働くワイリー氏が「低すぎる」と不満を表明した、ということだ。

 ブックセラーの先の記事によると、「作家のエージェント協会」に属するアンソニー・ゴフ氏も、電子書籍となると取り分が半分の25%になる状況を「不公平だ」と言っている。

 電子書籍版でも50%になるかどうか、まだまだ分からない。ただ、現行の25%を大きく増加させる方向への圧力が、出版社に働いていることは確かだ。鍵を握るのは、出版社なのか、それともコンテンツを生み出した著者側なのか?大きなバトルだ。

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―ロイヤリティー・印税の話

 コメントをいただいた方から、たくさんの有益な情報をいただいた。

 私がいくつかのサイトから調べたところでは、 
 
 「ロイヤリティー」の計算にはさまざまな形がある(参考サイトのアドレスを下に)。例えば、小売をベースにしたロイヤリティー。本を売った後のネットの収入を元に計算する方式だが、以下に紹介するサイトによれば、「出版社側がありとあらゆる経費を売上額から引く傾向がある」そうだ。ベースにする最初の数字が小さければ、パーセント数が高くても著者が受け取る金額は少なくなる。

 また、一定の部数を売った後で、ロイヤリティーのパーセントを上昇させるやり方もある。

 たいていは国内での販売を対象にするが、海外で販売された場合のロイヤリティーの数字にも著者は注意するべきで、また、英国では非常に大きな値引きで本が売られていることがあるが、この場合、小売価格が低いからといって、著者のロイヤリティーをこれにあわせて低くする必要はない、というアドバイスがサイトに載っている。

 日英の市場の仕組みの違いなどから、あまり、パーセントの数字にこだわっても意味がないというご指摘をコメントでいただいた。確かにそう考えるのが正しいのであろう。―しかし、前回と今回、著者の取り分はどれぐらいか?ということに頭をめぐらせてしまったので、とりあえず、「単純比較は意味がない」ということを考慮しつつも、以下のサイトの中に見つけた、「ほとんどが、5-15%」という数字をひとまず挙げておきたい。(他にも数字が分かったら、随時紹介したい。)

*「ブックセラー」のブルームズベリーの記事
http://www.thebookseller.com/news/124711-battle-lines-drawn-over-digital-royalties.html
*「ブックセラー」:ワイリー氏がキンドル向け専用の出版社を作る
http://www.thebookseller.com/news/124047-agent-andrew-wylie-launches-e-book-list-on-kindle.html


*本を書こうと思っている人へのアドバイスのサイト(ロイヤリティーの種類、「5-15%」表記)
http://www.startawritingbusiness.co.uk/negotiate-royalties-stipends-advances.html
*ロイヤリティーの計算の仕方―具体例の1つ(ドル)
http://www.schieldenver.com/faq/discounts-a-royalties/18-discounts-a-royalties/135-how-does-schiel-a-denver-calculate-my-royalty-payments-.html
*上の会社の英国版
http://www.schieldenver.co.uk/


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話がこんがらがるかもしれませんが、アマゾンで売った場合(紙と電子書籍)の小売価格がどんな風に誰に支払われるかの数字が入った記事もご参考でご覧ください(ハフィントンポスト)。
http://www.huffingtonpost.com/shane-snow/e-books-vs-traditional-bo_b_673356.html
by polimediauk | 2010-08-07 21:45 | 英国事情