小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

牙城を崩しつつあるBBC?

 一人勝ちといわれる状態を維持するのは無理とみたのかどうか、BBCが「これだけはゆずらない」としてきたいくつのかのことを、放棄しつつある。

 先日は国内の活動の主な運営資金となるテレビ・ライセンス料の値上げを凍結する(すでに前年比で2%増となっていたが、これをあきらめる)と自分から言い出した。今のところ、BBCのライセンス料の年間値上げ料は2012-2013年度までそれぞれ決まっているが、BBCトラスト(視聴者を代表して、BBCの活動内容をチェック)が「最後まであげない」、と最近宣言している。

 BBCのライセンス料の値上げ率は、政府との交渉で決まる。

 担当のメディア・文化・スポーツ大臣は、来年4月からの1年分の値上げ率放棄は事実上承認したようだが、その先の数年に関しては「今のところは決めない」ことにしたようだ。

 さらに、22日付の報道によれば、BBCのお金の使い道に関して、監査局(NAO、行政府から独立した機関。行政府の予算執行を監査し議会に報告する)が検証することになった。現状では、この仕事はBBCトラストが担当している。外部の団体がBBCのお金の使い道を原則すべて検証するのは初になる、という。これまでは、BBC側からのリクエストがあった場合にのみ、検証することができた(例えば、あるサービスがお金を効率的に使っているかどうかをチェックする)。

http://www.bbc.co.uk/news/uk-11386735

 問題は、これでBBCの編集の独立が保てるのかどうか、ということ。NAOは最終的に議会に報告する義務があるわけだから、政府とは独立していても、政治家・議員がいる場所(=議会)からの干渉があり得るーすくなくとも理論的には。

 そこで、編集の独立権を維持するために、NAOが数字をチェックした後、その結果はBBCトラストのほうに戻す、という仕組みになるようだ。議会に報告書を直接出すのではなく。そして、トラストが文化大臣を通じて、議会に結果を報告する、という。

 ・・・この部分は、理屈的には分かるが、すっと頭に入ってこない感じもする(間にワンクッション置いただけ、という感じが出る。)
 
 また、従来、BBC側が「商業的に(公開すれば)まずいことが起きる可能性がある」と判断した情報・数字にはNAOはアクセスできない仕組みになるようだ。すべてがNAOに公開されるわけではないのだ。例えば、BBCはトップタレントへの報酬の公開をこれまで拒んできた。この部分は外には出さない、ということだろう。

 それでも、なんとなく分かりにくい(特に第3者からは)話だが、最終的には、「外部(BBC以外の)手や目が、BBCの活動内容を検証する」ということ。これは今までになかったことだし、今後も外部の手が入ることへの布石かもしれない。

 つまるところ、BBCは先手を打とうとしているのだろうーライセンス料制度自体がつぶされないように(国民からライセンス料を徴収して、それを「全部」自分の懐に入れている――他の放送局にまわさずーという仕組みを維持したい)と考えているのだろう。

 8月末のエディンバラのテレビ祭でも、ハント文化・メディア大臣が、「BBCは普通の世界に降りてこないと」という発言をしている。削減は必須だと見て、先手を打ち始めているのだろう。
 

(**PS:MI6の初期の歴史の公式本が出ました。最初の50年ぐらいの話。まだ手にしていないのですがー。テレビや新聞で大きく扱われました。でも、「何故今、税金を使って作らせたんだろう?」という疑問がいつまでもありました。今は、国内外のテロに関する情報収集に大きく人材を割いているようですね。)
 
by polimediauk | 2010-09-23 08:16 | 放送業界