兄ミリバンドが影の内閣に入らないことに -結構スピード決断!
英最大野党・労働党の新党首として、エド・ミリバンドが選出されたのは、数日前だった。そして今日、兄のデービッド・ミリバンドが、影の内閣には入らないという宣言を行った。
一体これがどんな意味をもつの?と疑問を持つ方も多いかもしれないが、こちらでは、なんだかすごく大騒ぎになっている。
兄デービッドは、労働党の党首候補の一人だった。でも、最有力で、ほぼ勝つんじゃないかと言われていた。元の首相のトニー・ブレア氏が影ながら応援していたし、弟のエドが支持を大きくしていたけれども、まあ、勝つんじゃないか、と本人もたぶん思っていたはずである。
それが、ものすごい僅差で、弟が勝ってしまった。ちなみに、前政権では弟が気候変動相で、兄は外相だった。格が違うはずだったー。
党首選の間に、よく兄デービッドは「弟が選ばれたら、影の内閣に入って、弟の下で働けますか?」と聞かれ、「もちろん」と答えていた。
しかし、やはり現実になってみると、違うのである。チャンネル4というテレビでこの点を聞かれていた。「理論と実際は違う」といっていたが、まあ、無理はないであろう。
兄弟のドラマという意味でおもしろいと思っている人もいるはずだが、デービッドが影の内閣に入らないという宣言には深い意味がある。
それは、デービッドが政治の表舞台から消えることで、いわゆる、ブレア派というかニューブレアの重鎮が消えることになる。本当に、世代交代である。
兄デービッドは官邸の政策ユニットの一人だったので、いわばニューレイバーの頭脳でもあった。しかし、ブレアとブラウンの二人の巨頭にはさまれてしまったかな、という感じがする。一人の政治家として勝負する機会がなかったような。
党首候補といわれてずいぶん長かった。ブラウン前首相が危機状態になった時、いつも、「次はデービッドだ!」という声がいつもあがったのである。
ただ、こうしたときに、ブラウンを立てるためか、自分は立ち上がらなかった。今から思うと、これが失点だったかもしれない。いつか、どこかで、思い切ってジャンプ!するところがないと、政治家としてはだめかもしれない。
というのも、昔々、労働党のジョン・スミスという党首が突然死したとき、ブレアが候補として立つか、ブラウンが立つかのドラマが生じた。結局のところ、ブラウンは立たず、ブレアが立ち、首相になったーー当時、誰しもがブラウンが次!と思っていたらしいのだが。
ウオッチャーの一人としては、デービッドがいなくなって、良かったなと思う。というのも、労働党が負けた理由というか、重荷になっていたことがあって、デービッドは自分が政権の中枢部にいたために、今になって「間違えました」とはいえない。
その重荷とは、例えばイラク戦争であるし、拷問疑惑もあった。イラク戦争の開戦までの動きをいつまでも正当化していては、やはり、広い支持が得られない。イスラム系英国人への拷問疑惑も、さまざまな情報からすると、やっぱり英政府関係者(MI6、MI5など)がはからずも(かどうかは分からないが)関わっていたのは否定できないだろうし、この点をひとまずは置いておくとしても、イラク戦争開戦理由や拷問疑惑に関して、事情を説明するデービッド(当時外相)の話しぶりは、何度聞いても、つじつまがあわない感じであった。
つじつまの合わない話、というのはどんなにきれいに説明しても、納得がいかないものである。頭がいい人だったら(デービッドみたいな)、つじつまがあってないな、ということが自分でも分かっているはずー。見ていてつらい、というか、言っていることに真実味がなかった。
弟が党首になって、まもなく、「影の内閣の一員にはならない」と結構すばやく決断したのは、デービッドにしては、ものすごくスピーディーなよい決断だったと思う。
それにしても、弟エドの評判があまりよくないー新聞を主に見ると。昨日、党大会での党首としてのスピーチがあったのだが、厳しい意見が相次いだ。だめだったというわけではないのだが、「まだまだ未熟」という感じー。メディアの評価がそれほどでないので、誰かが後ろで糸を引いているのかなと思ってしまうほどだ(デービッドを応援していた、ピーター・マンデルソンとかー。マンデルソンは元ビジネス相だが、ブレアと非常に親しく、ニューレイバーを生んだ重要人物の一人。)
エドの政策で(といっても、政策らしい政策はまだである)、自分では「左によっていない」というが、話を聞けば聞くほど(増税をすると言っているようであるし)、やっぱり、これまでのニューレイバーよりも左だなあと感じている・・・。
2015年に総選挙の予定だが、労働党が政権を取るかどうかはもちろん分からない。エドのスピーチの後でも、「あれでは5年後に政権は取れない」とばっさり言った、労働党のアドバイザーがテレビに出ていた。さて、どうなるか。