小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英国の格安高級紙「アイ」(i)創刊 ―その評価は?

 英高級紙「アイ」(i)。創刊から、ほぼ2週間。インディペンデントとアイの両紙を買って、読み比べる日々が続いている。アイの創刊と専門家らの評価について、新聞協会報(11月9日付)に書いた。以下はそれに若干補足したものである。

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 英国の左派高級紙インディペンデントを発行するインディペンデント・プリント社が10月26日に創刊した高級日刊紙「i(アイ)」。「多忙で新聞をじっくり読む時間がない人」や「以前は高級紙を読んでいたが、現在は購読を止めた人」を対象に、インディペンデントの良質のジャーナリズムを通常の高級紙の価格の5分の1(一部20ペンス=約27円)で気軽に読んでもらうことを狙う。新たな高級紙の誕生は、1986年のインディペンデント創刊以来24年ぶりだ。

 アイは本紙となるインディペンデントと同じく小型タブロイド判で、平日発行(ただし、日曜日には、インディペンデント・オン・サンデーに4頁が折込で入っている。本紙というよりも販促っぽい)。全面カラーで、1面左端に紙名「i」の赤い大きなロゴを置く。トップ記事の写真も大きい。2~3面は見開きにし、新聞全体の見取り図(「ニュース・マトリックス」と呼ぶ)を載せた。ここを見るだけで、その日の新聞全体の内容が一瞬にして概観できる。経済面、論説面にも「マトリックス」方式が使われている。

 アイは一部56ページ構成で、80ページを超えるインディペンデントと比較すると薄めだが、内容は本紙のオリジナル記事で、通信社電が多い無料紙と差をつける。本紙と同じ記事でもデザインを変え、独自性を出している。

 記事の中には時折、記号「{i}」を使って補足情報が入る。読者の感想を複数の面で紹介し、編集長が直接読者に語りかける欄もあり、双方向性を重視している。

 アイ創刊と同時にインディペンデントも紙面を刷新した。字体を変え、カラーの使用を極力抑えて原則白黒紙面にした。抑えた色調が「真剣な新聞」であることを強調している。

 創刊日には無料配布も含め40万部を発行したアイは、「朝刊無料紙メトロを高級化した新聞」、「(廃刊となった)夕刊無料紙ロンドンペーパーに、読みやすさや明るい色使いの点で似ている」と複数のメディア評論家が指摘した。

 業界誌プレスガゼットのドミニク・ポスフォード編集長は、大衆紙並みの価格設定とじっくり読める内容との組み合わせはこれまでの新聞市場にはなく、「隙間を探し当てた」と好評価(10月26日付ブログ)。しかし、「一ポンドで販売するインディペンデントの部数がさらに下落する」(メディア学教授ロイ・グリーンスレード氏、同月25日付ブログ)という懸念も指摘された。同氏は、部数下落を続ける有料紙が無料紙に転換して成功した例から、将来両紙が無料化すると見込んでいる。

 両紙の統括編集長サイモン・ケルナー氏は、ガーディアンのインタビュー(10月25日付)の中で、無料化は「十分な利益を上げるほどの広告が集まらない」という経営判断から可能性を否定。アイの創刊で、高級紙を読む層の拡大を目指す道を進むことにしたという。

 アイは、インディペンデントの発行部数約18万部をしのぐ、25万部の発行部数達成を目指す。ガーディアンは11月8日付で、アイの現在の部数は「大体12万5000ではないか」とする推察を出している。

 経営難に陥っていたインディペンデントは、今年3月末、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元スパイで、ロシアの富豪アレクサンドル・レベジェフ氏に買収された。新経営陣の下で新規投資が可能となり、アイの創刊が実現した。

ー英紙「インディペンデント」のこれまで

1986年10月:元デイリー・テレグラフ紙の記者3人が、新しい高級紙インディペンデントを創刊。発行元はニューズペーパー・パブリシング社。
1989年:凝った写真と調査報道で人気を博し、発行部数が40万部を超える。
1990年:日曜版インディペンデント・オン・サンデーを創刊。経営悪化の時期に入る。
1995年3月:ニューズペーパー・パブリッシング社の株がインディペンデント・ニューズ&メディア社(43%)、ミラー・グループ・ニューズペーパーズ社(43%)、プリスラ社(12%)ほかに分割所有される。
1998年3月:インディペンデント・ニューズ&メディア社が残りの株を買いあげる。アンドリュー・マーがインディペンデントの編集長に。
同年5月:マーが編集長職を辞職し、BBCの政治記者に。サイモン・ケルナーがインディペンデントの編集長に。部数が20万部前後に。
2003年9月:それまでの大判に加え、小型タブロイド判を平行して発行開始。
2004年5月:平日の新聞はタブロイド判のみとなる。
2005年4月:フランスのリベラシオン紙をヒントにレイアウトを刷新。小冊子「エキストラ」を平日版に織り込む。
同年10月:日曜版も小型タブロイド判のみとなる。
2008年1月:ブログや動画を使いやすく配置し、ウェブサイトを刷新。
同年9月:全頁カラー化。エキストラを「インディペンデント・ライフ・サプルメント」に変え、毎日別テーマを特集。
同年11月28日:アソシエーテッド・ニューズペーパーズ社の本部に引っ越す。
2010年3月25日:インディペンデント・ニューズ&メディア社がインディペンデントと日曜版をロシア人の富豪アレクサンドル・レベジェフとその息子の会社に売却する。
同年4月:見出しを小さくし、論説や特集記事を入れた「ビューズペーパー」の頁を作る。
10月26日:インディペンデントの廉価版となる、新高級紙「i(アイ)」創刊。
by polimediauk | 2010-11-09 21:45 | 新聞業界