小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英総選挙―政治インタビュー


「どうしてこのばか者が私に嘘をついているんだろう?」

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(BBCのニュース・プリゼンターのジェレミー・パックスマン氏、左、と、ブレア首相 BBCオンラインより)

 イギリスでは5月5日が総選挙の投票日となり、選挙戦たけなわ・・ということになっている。何故「・・ということになっている」という奥歯にもののはさまった言い方になるかというと、新聞各紙、テレビ局などは、特集面・番組を組んだり、レポーターを全国の選挙区に飛ばしたり、党首インタビューを放映したりと、一見ものすごく盛り上がっているように見えるのだが、それほど「生きるか死ぬか」の争点があるか?というと、そうでもないのである。

 今のところ経済は好調で、政権党の労働党も政策的には野党保守党に近いものになっている、というのが定説で、国民がある意味では安心していると言うか、「別に自分が投票に行かなくてもいいか」と思う人が増えている。いわゆる、浮動票、無党派の人々が増えていると見られている。

 また、イギリスの外の(アメリカあるいは欧州)論客からすると、各政党のマニフェストの内容はほとんど国内問題ばかりで、国際的な視野が入ったものがほとんどないので、物足りないと感じると言う。例えばイラク戦争、欧州連合、イギリスの国際的な位置をどうしたいのか?などが十分に表に出ていない。わざと出していない、あるいは避けている部分もあるのかもしれない。

 政治とメディアと言う観点から見ると、前から言われていたことだが、実は民主主義に関わる(少々大げさだが)大きな問題が起きている。

 それは、政治家をインタビューするときのスタイルだ。

 テレビやラジオのキャスターたちは政治家たちにかなり厳しく質問を浴びせる。相手の言うことを最後まで聞かず、どんどん質問を続けていく。(この傾向はアメリカの方が強いと聞いたが)。一瞬の隙も与えず矢継ぎ早に質問が飛ぶので、答える政治家はかなりタフでないといけない。これだけなら、1つのジャーナリズムのスタイルとして、権力のチェック機能を果たすことにもなり、良いことだろう。

 しかし、政治家たちが問題だと感じているのは、一部のキャスター、プリゼンターたちのシニカルな態度だ。政治家に限らず、たくさんお給料をもらったビジネス・エグゼキュティブなどにも、こういうシニカルな態度が適用される。

 シニカルな態度とは、ジャーナリストの方で、政治家あるいは権力のある人をインタビューするときに、「どうしてこのばか者(政治家などのこと)が私に嘘をついているんだろう?」という態度でのぞむことだ。

 つまり、最初から、相手・政治家が、「不誠実な人」「何かを隠している人」とみなし、最初から偏見を持った頭で相手と接するのである。

 こうしたやり方そのものは、イギリスでは1つのテクニックとして、ある程度認められていると思う。しかし、行き過ぎが問題となる。

 その例としてよく引き合いに出されるのが、BBCの朝のニュース番組「TODAY」のプリゼンター、ジョン・ハンフリーズ氏と、BBCの夜のニュース解説番組「ニューズナイト」のジェレミー・パックスマン氏だ。

 例えばこの2人が、最初から疑いの眼で政治家に接し、「疑い深い視聴者を代表して、聞きたいことを聞いている」という方針でインタビューを行うとき、時として、これが過度になり後味の悪いことがある。いや、後味が悪いばかりか、視聴者がこれにかなり影響を受けており、結果的に、「やっぱり、政治家は嘘ばっかりついてるんだよ」と思う人もかなりいるのである。

 これまでにも、様々な政治家あるいは政治家に近いジャーナリストたちは、こうしたインタビュー形式が、政治に対する国民の不信感、無関心を増大させていると指摘してきた。

 最近は、チャンネル4というテレビ局のプリゼンターの一人で、自分自身も丁々発止のインタビューをするジョン・スノー氏が、このインタビュー形式の批判を始め、新たに話題になってきた。 (続く)


 (BBCでは、こうした政治報道のスタイルの是非に関して、ネットを通じて意見を求めていた。若干の内容の紹介は次回。)

http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/vote_2005/have_your_say/4456971.stm
by polimediauk | 2005-04-20 08:20 | 政治とメディア