新・新聞王レベジェフ氏がグラスゴーにやってきた日

レベジェフ氏は(今日は「レベデフ」と呼ばれていた)元KGB。今年春、イブニングスタンダードの経営権を取得したとき、メディア界の中で「本当に、元スパイに買わせていいの?」と言う声があがった。
それが、今年秋の会議で、新聞社や放送局の編集幹部の前で基調講演をするまでになったのだから、たいしたものだ。また、新聞界の動きは実にめまぐるしい。
息子とともに会議場にやってきたレベジェフ氏。黒のジャケットに白いシャツ、黒の細身ジーンズに黒のスニーカー。ラフだけどクールな装いである。スニーカーをはくのが好きなのだそうだ。
どんな話になるのだろうー?期待を大にして始まったスピーチ。ほそぼそと話し出すレベジェフ氏。どうも声がやや小さい人である。静かに、穏やかに、そして時々はユーモアを混ぜて話す。
スパイと聞いて、ジェームズ・ボンドのイメージ(世界中を飛び回り、アクションシーンの連続)があるかもしれないが、レベジェフ氏の仕事は英国でたくさんの新聞を読むことだった。新聞を読むことで英国社会がどうやって回っているのか、ジャーナリズムの力を学んだという。
話の中心は、「世界の腐敗をなくし、自由な社会を作るには、報道の自由が必須」。そして、これを実現するのは「ジャーナリズムだ」。ある意味では青臭い、または理想主義的。こういう高邁な論法は、普段はあまり英メディア界では聞かない(聞くとしたら、ガーディアンの編集長のスピーチとか)。したがって、レベジェフ氏のスピーチは、どことなく、やはり違う文化から来た人が話しているなあ・・・という思いを持った。当たり前かもしれないが、違うものを見て、考えて、育ってきているわけであるから、視点が違ってくるし、表現も違う。そして、この「違う視点」はかなり新鮮に会場では響いたのである。
レベジェフ氏は英国のメディア(ジャーナリズム)をべた褒めした。また、どうやって英国メディアを手なづけるかのやり方を学ぶために、ルパート・マードックに関する本を(マイケル・ウルフ著)を読んだが、「やり方はかかれていなかった」とやや落胆した様子。マードックが先日ロンドンに来て、サッチャー元首相記念講演を行った。この時の長いスピーチも、レベジェフ氏はしっかり読んだという。自分自身が英国のメディア王になりつつあるので、先輩マードックの足跡に興味があるのだろう。
しばらくは新たな新聞を買う予定はないそうだ。2年ぐらい前まで、新聞大会は暗い雰囲気だったが、今年はすっかり明るい感じであった。その明るさを具現していたのが、レベジェフ氏だった。会議は16日まで続く。