小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英編集者団体年次会議(下)将来は無料サイト、有料アイパッド?

 スコットランド最大の都市グラスゴーで開催された英編集者団体「ソサエティー・オブ・エディターズ」の年次会議(11月14~16日)で、繰り返し話題に上ったのがウェブサイトの無料あるいは有料化、アイパッドの可能性、ネット時代のジャーナリズムの位置づけであった。(「新聞協会報」11月30日号掲載分です。)

 「メール・オンライン」(デイリー・メール紙とメール・オンサンデー紙のウェブ版)は英国の新聞社サイトとしては最大のユーザー数を持つ。メール・オンラインの調査では、10月の固定ユーザー数は全世界で5千万人。

 会議2日目「オンラインとプリントで勝つ」と題されたセッションで、メール・オンラインの発行人マーティン・クラーク氏は、ユーザー数の増加のために特別なことをやっているわけではないが、「目を引く見出し、簡潔な表現、優れた写真の組み合わせ」で、読者の生活にかかわる記事を出している、と説明した。メールは、サイトに課金制を導入したタイムズとは一線を画し、今後もサイト閲読は無料にする予定だ。

 しかし、一方でクラーク氏は来年早々、アイパッド用の有料アプリを販売するという。同氏はアイパッドを紙の新聞と同じ媒体としてとらえており、英メディア界ではこの考えが浸透してきた。同日の最初のセッションでコンサルタントのジム・チゾム氏が指摘したように、読者は「新聞のサイトを4~5分かけて読むが、紙の新聞には30分ほどかける」。チゾム氏によれば、「アイパッド上の新聞を、読者は紙の新聞同様に30分かけて読む」。アイパッドが新聞に取って代わる可能性を暗示する会議となった。

 内部告発サイト「ウィキリークス」が今年注目を集めたが、同サイトが入手したイラクやアフガン戦争の情報は、兵士の戦場記録など生データだった。こうしたデータとジャーナリズムの関係が会議2日目「メディアと民主主義」及び最終日の「将来のビジョン」のセッションで話題に上った。

 地方紙を発行するKMグループの政治エディター、ポール・フランシス氏は、「メディアと民主主義」で、情報公開が進み、地方自治体の経費使いにかかわるデータが大量に出るようになったが、記者がこれを検証する時間が足りないことが悩みの種だという。

 「データは情報ではない。そのままでは記事化はできない。記者にはデータの分析を行うスキルや時間が必要だ」。「市民ブロガーと差をつけるために、記者には専門的な技量が必要であるのだがー」と嘆く。

 「将来のビジョン」に出たロイター通信の英国及びアイルランド局長のジョディー・ギンスバーグ氏は、「通信社といえども、事実をそのまま報道するだけでは十分ではない」。データや事実の「背景、文脈、過去の事項との関連を入れないと記事にならない」。また、あるトピックに関して読者と意見を交換する場を持ち、ネット上の「チャット(おしゃべり)」から真実に近づく方法も、現代の記者にとっては必須になったという。「一方的に情報を受け手に出すという方式は通用しない」とする同氏は、「受け手との双方向の情報交換行為が果たして『ジャーナリズム』なのかは疑問が残る」、とした。(終)

会議の記事(上)
http://ukmedia.exblog.jp/15499709/
by polimediauk | 2010-12-01 01:58 | 新聞業界