小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

「インターネット=良いこと」の幻想を捨てろ+チュニジアの革命

 ベラルーシ生まれで米国に住むブロガー、ユーゲニー・モロゾフという人が、ネット革命に懐疑的な本(The Net Delusion: The Dark Side of Internet Freedom)を出したという。
http://www.amazon.com/Net-Delusion-Dark-Internet-Freedom/dp/1586488740/
http://www.evgenymorozov.com/about.html

 この本をまだ読んでいないが、チュニジアの革命でフェースブックやツイッターなど、SNSが大きな役割を果たしたといえるのかどうか、つまり、「SNSで革命が起きた」といえるのかを、17日夜のBBCテレビ「ニューズナイト」が議論したときに、モロゾフ氏がゲストコメンテーターの一人として出ていた。

 自分は「ネットの普及=良いこと」という論調でこれまでいろいろ書いてきたので、はっとすることがいろいろあった番組クリップであった。

 以下はその中の抜粋である。

 まず、ワイヤードUKのデービッド・ローワンが、「ツイッターやフェースブックで暴動が起きたりはしないが、ある地域で、政府や企業に説明責任を果たさせる一つの方法になる」「また、傍流にいる人々に発言の場を与えるのがSNSであり、インターネット」という。

 「チュニス革命=SNSの勝利」とする一部の報道に水を差す発言をしたのが、オックスフォード・インターネット・インスティテュートのビクター・メイヤー=ションバーガー(Viktor Mayer-Shonberger)教授だ。「革命が起きるには様々な要素が複雑に絡み合う。ツイッターやフェースブックは1つのツールだったかもしれないが、どんな役目を果たしたのかはまだはっきりしていない」

 「イランの場合は、SNSを使って、野党勢力がすでに抗議をしたがっているような人々を対象に、デモをするようにと呼びかけていた。だから、ツイッターはすでにある意志を持っている人に、行動を起こす動機を与えるにはいいが、大きな運動を開始できるわけではない」。

 マイヤー=ションバーガー教授は、インターネットで革命が起きたという「ユートピア幻想を信じたがる気持ちが、社会の中にある」と指摘する。

 しかし、インターネットを使うのは市民ばかりでなく、政府側も使う。とすると、SNSなどを使うことで、当局にマークされ、拘束される事態もある。
 
 ネット革命に懐疑的な本を書いたユーゲニー・モロゾフ(Evgeny Morozov)と、ネットコラムニストのローリー・ペニー(Laurie Penny)がコメンテーターとして出演した。以下は司会者と二人のコメンテーターの会話である。
 
 -「ネットのユートピア幻想」とは何か?
 モロゾフ:1990年代から、インターネットでイランや中国などの抑圧的政府が崩壊するのではないかという見方があった。この見方はまだある。

―しかし、SNSがなかったら、イランやチュニジアでの市民の抗議デモは起きなかったのではないか?
 モロゾフ:国によって事情が異なるが、イランの場合は、いずれにしても、デモが起きていたと思う。デモの後に何が起きたかに注目するべきだ。 イランでは政府はSNSを使って、デモに参加した人を捕まえた。

―SNSがなかったら、チュニスで起きたような規模のデモは起きなかったのではないか?
 ペニー:ここ一年半ぐらいの間、世界中でSNSは重要な役目を果たしてきたと思う。しかし、興味深いのは、大きな技術革新が起きているので、その結果はまだ分からない。常に新しいことが起きているし、24時間サイクルのメディアがあるので、今起きていることをすぐにみんなが知りたがる。結果はどうなる、これからどうなるか、と。実際には、誰も分からない。だから、この段階で、(政府がインターネットを使ってデモに参加した市民を拘束しているからといって)インターネットが抑圧的だ、いや抑圧的ではないとは結論は出せない。事態はもっと複雑だろうと思う。

―しかし、事態を発酵させたのはネットではないか。古いメディア、例えばテレビは何もできなかった。ツイッターなどの情報を出すだけだ。
ペニー:それは違う。テレビは人々に力を与えるようなメディアではないからだ。今、このテレビ番組を見ている人は、私たちに声をかけることができない。「まてよ、私はこう思うんだよ」、とこちらに話しかけることができない。
 インターネットだったら、共同作業ができる。そこで、一人ひとりが、自分たちが関わっていると思える。「会話」に貢献できるし、抗議デモに参加しようと思える。

 モロゾフ:SNSの会話がテレビで放映されたりしたのだから、SNSとテレビの媒体がともに働きかけた部分も考慮しないと。SNSが何かを変えたのかどうかを判断するとき、デモだけを見てもだめだと思う。デモの結果、何が起きたかまで見ないと。

―政府がネットを使って世論を操作するようになった。中国政府が異分子を捕まえるために使うかもしれない。リスクがあるが。
ペニー:どの媒体にせよ、良いことのためだけに使えるなんて(ことはない)。インターネットほど大きな媒体が、ユニバーサルな良いことであるはずがない。インターネットはいつも変わっている。使う人はどんどん学んでいる。

―テレビと違って、ネット上の発言はネット空間に残るから、政府が捕まえて、人を投獄しやすい。こうしたリスクをどう思う?
ペニー:もちろんそんなリスクがある。そして、若い人の多くがネット上の機密保持に関してやや無防備となる傾向もある。しかし、だからといって、ネットを使ってデモを組織化するのが悪いこととは思わない。ツイッターに出した情報が、例えば非営利のウェブサイトにつながって、これを見て1万人がフォローするようになって、一体何が起きているのかと情報を交換するー。これは(SNS以前の世界と比較すれば)非常に重要な変化だと思う。
 
by polimediauk | 2011-01-19 08:10 | ネット業界