小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

ウィキリークスと日本のメディア ―デービッド・マックニール氏が調査

 ウィキリークス報道が、ひとまず落ち着いた今日この頃(ガーディアンとの共闘作業は年末で一通り終わったようである)。

 米英、あるいは世界各国で物議をかもしたウィキリークスによる一連の「メガリーク」だが、どことなく、びくともしなかったような感のある日本である。

 そんな日本をあっと驚かせる大ニュースはメガリークの中にはなかったのだろうか?そしてまた、実際に、読売や朝日などの大手新聞がウィキリークスから生情報をもらう可能性はあるのか、ないのか。ウィキリークス側からの答えが今ないとしても、少なくとも、大手新聞側は一体どう考えているのだろう?

 そんな疑問に答える形で、ジャパンタイムズ(25日付)に出たのが、ジャーナリストのデービッド・マックニール氏による「ウィキリークのダムが決壊するのを待って」(Waiting for the WikiLeak dam to break)である。

http://search.japantimes.co.jp/print/fl20110125zg.html

 その中の情報の抜粋なのだが、まず読売新聞によると、2006年から2010年、東京の米国大使館と米国務省との間の外交公電は5,697あったそうである。米―アンカラ(トルコ)、米―バグダット(イラク)に次いで多い数だ。中身は、沖縄、北朝鮮や中国に関する機密書類などが含まれる。この内容が公開されたら、「重大な結果となる」と、防衛省の高官が読売に語ったそうである。

 大量の外交公電情報を得た報道機関の1つがガーディアン。その副編集長によれば、読者の国際問題に関する関心は思ったより高くなく、報道したのは公電情報の「ほんの一部」であった。また、情報源の保護やその他の理由から、公電全部をそっくりそのままサイト上に出す、ということをどの報道機関もしていないとのことであった。

 マックニール氏によると、ウィキリークスの弁護士(複数)が、日本にいる「著名な外国人のジャーナリスト」に、直接ウィキリークスから生情報をもらう件に関してコンタクトをとったそうである(このジャーナリストが誰なのかは、ぼやけた表現になっている)。また、同氏によると、朝日新聞とジャパンタイムズは少なくとも表向きにはコンタクトがなかったと言っている。

 「噂によれば」、読売にアプローチがあったそうだ。そこで「ライバル紙」〔朝日?〕のジャーナリストが、読売は自民党に近かったので、もし掲載することになれば、苦しい立場に追い込まれる、と推測をのべている。ーーここら辺は、推測や噂の話である。

 日本のメディアがウィキリークスと直接関与してこなかったのは、「無関心」が理由ではないか、と東海大学で教える山口勉氏がいう。山口氏は元読売記者(実は、筆者の昔の上司の一人―短い期間ではあったが)。「残念だが、日本のプレスは怠惰なのです」。

 また別の読売の退職者〔筆者注:おそらく記者であった人〕は、匿名とすることを条件に、別の見方を教えてくれたという。「大手新聞社の上級編集者たちは、ウィキリークスに近づかないよう言われていた」「(ウィキリークス創始者の)アサンジがやったことを認めていないからだ」。マックニール氏は、それでは、公電情報へのアクセスを提供された「ワシントンポストやウオールストリートジャーナル、そのほかの米国の報道機関の態度と変わらないではないか」と書く。

 一方、ウィキリークスから生情報をもらおうと奔走するジャーナリストも日本には複数いるようだ。「もし沖縄など、でかいトピックに関する公電が報道されたら、1面扱いの記事になる」とそのうちの一人が、マックニール氏に話す。

 一体どんな、日本関連の情報があるのか?マックニール氏は「世界」2月号の「メディア批評」の記事(神保太郎氏が書いたもの=この名前自体はペンネーム)に注目する。紹介されているエピソードを「世界」から抜粋するとー。

 「日本だってWLのおかげを蒙っていることを、忘れてはならない。09年9月17日付でミサイル防衛関係各国の米大使館に発信された米国務省公電は、海上配備型迎撃ミサイル「SM3」の将来におけるNATO,東欧・ロシアへの配備に関する計画が主題だったが、それは対象ミサイルの開発・製造に日本が全面的に協力しており、その力をフルに生かすには日本に戦略的な決断をしてもらう必要がある、とする記述部分も含んでいた」。
 
 「これが12月1日、WLで暴露されたおかげで、同年10月の北沢防衛相・ゲーツ米国防長官会談の中身はその件であることが分かり、そのころから防衛省で武器輸出三原則の見直し論が活発化したわけも、はっきりした。日本が製造に関わったミサイルを第3国に売るには、3原則を変えなければならない。米国はその決断を日本に迫ったのだ。しかし、早くそうした事情が判明したために、新防衛大綱に3原則の見直しを書き込むことに対する世論の反対が生じ、管内閣はこれを見送ることにした。際どいところだった」。


  さらにマックニール氏は神保氏の分析の紹介を続けるのだが、最後の部分(神保氏の)を紹介すると:

 「WLの衝撃が教えることは、現在の不正を暴くことが未来の責任をはたすことになるというジャーナリズムの基本だ」――「隠す側に立つのか、暴く側に立つのか、これは遠い国の話ではないし、国の内側の話でもない。」

 マックニール氏の最後の締めは、「さて、ダムが決壊するまで、後どれくらいかかるだろう?」である。
by polimediauk | 2011-01-26 20:53 | ウィキリークス