小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英総選挙とメディア


「サン」が労働党支持を宣言

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(サンの煙 BBCオンラインより)

20日、3百数十万部近くの発行部数を誇る大衆紙の「サン」が、英総選挙で与党・労働党を支持することを宣言した。サン自身は、「読者数は1千万人」と公言している(どうやって計算したのかは不明)。総選挙の投票日は5月5日となっている。

支持宣言を出したやり方が凝っていた。

サンのロンドン本社ビルの屋根から出ている煙突から、赤い煙を出したのだ。丁度一日前の19日、ローマのシスティナ聖堂屋上の煙突から親法王決定の白い煙を出した光景のパロディーだった。

サンはタイムズ紙とともにメディア王ルパート・マードック氏が所有している。マードック氏はブレア政権支持だが、最近、サンは野党保守党が打ち出している政策を支持するような記事を出しており、どうなるのかと憶測が飛んでいた。

英国の全国紙はそれぞれ大まかな支持政党がある場合が多い。資金を特定の政党からもらっているのではなくて、編集上、その政党よりの記事を出してゆく。露骨な場合もあれば、時には支持政党の批判記事を織り交ぜたりなどし、一見どの政党を支持しているのかわからない場合もある。新聞各紙は中立であることを要求されないので、こうしたことができるようだ。読者も、どの新聞がどの政党を支持しているかを承知して、読む。

大衆紙(タブロイドとも呼ばれる)の中では、サンが保守党支持、ライバル紙デイリー・ミラー(発行部数約180万部)が労働党支持という流れが続いてきたが、1997年、マードック氏がブレア支持を決定。

その前の総選挙(1992年)で労働党は政権取得を狙い、かなり力を入れた選挙戦を展開。メディアの予測も労働党が勝つだろうとしていたが、現実には保守党が勝利。1997年の総選挙では、マードック氏がブレア支持を決め、サンは労働党支持宣言をした。サンの支持が効いたのかどうか、専門家の間で異論がないわけではないが、サンの支持があったからこそ勝てた、というのがサン自身の説明だった。

1997年からの労働党政権時代、及びそれ以前の保守党政権時代も入れると、サンは、長年、常に「選挙で勝つ側」に立っていることになる。サンが今回労働党支持を宣言したことで、総選挙後も労働党政権が続くだろうという予測に真実味が増している。また、どの政党も一議席でも数を伸ばしたいとしのぎを削っている中、300万部以上の発行部数を持つ新聞が支持をするという宣言は、労働党からすれば心強い。

サンの政治報道部長トレバー・カバナー氏がサン紙面上で語ったところによると、サンが労働党支持を決めたのは労働党の経済政策が機能しているためだという。 しかし、「全ての分野において満足しているわけではなく、移民政策などがめちゃくちゃで、院内感染に関しても何の手立てもされていない」と批判したが、「もしここで保守党支持をしていたら、読者の声を反映していないことになると思う」と続けた。

総選挙は主に労働党と保守党、第2野党の自由民主党との戦いとなっている。22日の時点では、世論調査では労働党が僅差でやや有利。しかし、最終的には労働党政権となることが予測されている。(続く)
by polimediauk | 2005-04-24 05:36 | 政治とメディア