小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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英総選挙とメディア


サン:「労働党は必ず勝つ」「欧州憲法は絶対否決」

 大衆紙「サン」の政治報道部長トレバ・カバナー氏が、4月13日、ロンドンの外国プレス協会に来た。サンが総選挙で労働党支持を宣言する、丁度一週間前だった。

サンはメディア王ルパート・マードック氏が所有し、マードック氏は1997年からブレア首相寄り。従ってサンもブレア・労働党寄りだったが、20日、改めて労働党支持を明言した。

サンは三面に裸同然の女性の写真が掲載されたり、ゴシップ記事などが満載の大衆紙(タブロイド紙)。昨年5月の欧州連合(EU)拡大で、新規加盟国から移民が押し寄せる、英国はエイズ患者でいっぱいになる、などその時々に論争をかもしだすようなトピックに関する扇情的記事を掲載することでも有名。

一方では、確定していなかった総選挙の日を他紙に先駆けて報道したり、2004年にはイラク大量破壊兵器をめぐる政府の情報操作疑惑を調査したハットン調査委員会の内容をリークなど、第一級の特ダネ報道も多い。ブレア政権内部がわざとネタをサンに流したのではないか?と思われる報道だ。もちろん、サン側もブレア政権側も否定し、真相は分かっていないのだが。

以下は、外国プレス協会での一問一答からの抜粋。

―(次回も労働党政権になったとして)ブレア氏はどれくらい首相の座にいると思うか。

カバナー:今朝の会見では、ブレア氏は「選挙の結果による」と答えている。

―労働党が勝つと思うか?

カバナー:現在のところ、疑いなく労働党が勝つと思う。世論調査では保守党の人気が高くなっているというが。これほど選挙前から結果が分かっている選挙も珍しいのではないか。

しかし、過半数の差は激減するだろう。私は、労働党が70-80議席失うと思う。若い人の投票率が低そうだ。18歳から25歳では、絶対に投票すると言う人は、23パーセントと聞いている。高齢の投票者は保守党に投票する確率がある。従って、高齢者以外の投票者が実際に投票すること、つまり投票率が高いかどうかで労働党がどれだけ議席を伸ばせるかが決まる。

―労働党内はブレア支持で固まっていると思うか?

カバナー:イラク戦争に反対した議員がいるし、守旧派も多い。様々な声がある。中には保守党政権になってもそれでもいい、と言う人さえいる。保守党がもし勝ったとしても僅差だろうし、そうすると、政権党になってからの政権運営が苦しくなる。結果的に実行できた政策は少なくなるだろうし、また総選挙をしないといけなくなる。

保守党側では、労働党との議席数の差を縮めることが目標だ。

―欧州はどんな争点になっているか?

カバナー:ブレア氏は、EU憲法に関する国民投票を、例えフランスが否決しても起来年やる、と言っている(注:23日現在では、国民投票をしない可能性もでている)。これはおもしろいと思う。もし英国民が否決したら、ブレアは真の欧州人として退陣するだろう。名誉ある退陣のきっかけになる。

―ユーロに関しては?
カバナー:ユーロに関しての国民投票はないだろう。私はイギリスはユーロに永遠に入らないと思う。英国がユーロ圏に入るかどうかを話しているうちに、ユーロ経済圏の方が破綻するかもしれない。

―サンは総選挙線ではブレア支持になるのか?

カバナー:国際的には、イラク戦争ではブレア氏を支持してきた。総選挙で労働党か保守党か、どちらを支持するかに関しては決めていない状態だ。(注:この発言の1週間後にブレア支持を発表。)

―労働党政権をどのように評価しているか?

カバナー:ブラウン蔵相ととブレア首相は堅実な経済政策を実行してきたと思う。英中央銀行を政府から独立させたというのは、勇気ある決断だった。

しかし、国民健康保健サービスのNHSの改革はのろく、お金も無駄に使われたと思う。教育も、数年前にくらべて質の高い教育が提供されているだろうか?運輸や福祉政策などは、もっと大胆にもっとうまくできたと思う。評価は分かれている。

―サンは「小さな政府」(保守党のサッチャー元首相が提唱)を支持するのか?

カバナー:サンと所有者(マードック氏)は、小さな政府、低い税金を支持する。こうした点ににサンが関心を示していることを不思議に思うかもしれないが、サンの発行部数は350万。1000万人の読者がいる。この中で高額所得者から平均所得者までの割合が大きい。サンは、政治を真剣に考える人々が読者となっているし、政治に特に関心のない読者でも、例えば移民問題とか特定のトピックに関して高い関心を持っている。今回の選挙戦の行方に、サンの読者は大きな役割を果たすと思う。

実際、多くの政党のトップに属する人々が、サンに電話をし、自分たちを支持して欲しいという。


―どの政党を支持するかを、どうやって決定するのか?

カバナー:(サンの所有者)マードック氏が3,4-年前にこういった。「どの政党を支持するかに関して、タイムズとサンデータイムズは編集長が決める。サンの場合は、編集長と話し合う」。・・・これ以上言うのは止めたい。

―マードック氏とはどれくらいの間隔で話すのか?

カバナー:頻繁に話すが、毎日ではない。

―マーッドク氏はサンの編集に大きな関心を持っているようだが。

カバナー:非常に高い関心を持っている。

―サンが特定の政党に対する支持を打ち出すと、選挙戦ではどんな効果が?

カバナー: 様々な学問的研究があるが、定説はない。ある人は選挙民の支持率を2%上げることができるとするが、全く影響ないという人もいる。

 私に言えるのは、読者の嗜好と逆行するような支持はできないということだ。(1992年、メージャー党首率いる保守党が勝利したときに)「サンが勝った」という見出しをつけたのは、本当はサンが勝ったわけではなくて、人々の常識の判断の結果だったのだと思う。1997年、例えサンが保守党を支持していたとしても、それでも労働党は過半数で勝っていたと思う。

2001年の総選挙では、ブレア首相は大きな失敗をしておらず、過半数で勝つことが分かっていた。

―保守党はどこまで迫れるか?

カバナー:保守党の最大の問題は、政策が労働党の政策と明確に違うほどになっていない。それほど大きな差がない点だ。

選挙戦での戦いを見ると、ブレア政権は、かなり冷酷無比だ。ブレアの親しみやすい笑顔の背後にある。保守党はまだそこまでいっていない。かなり紳士的なキャンペーンを行っているようだ。攻撃されても文句を言わない。

―ブラウン蔵相が首相になる可能性をどう見るか?

カバナー:事態は非常に速いスピードで進んでいる。多くの労働党党員がブラウン側にいる。ブレア氏は、新政権が出来たらブラウン氏は蔵相になるだろう発言したが、これは今回の選挙でどれくらい議席がとれるかによると思う。

―ブレア氏とはどれくらい親しいのか?ガーディアン紙のアラン・ラスブリジャー編集長は、これまで5回直接会ったことがあるそうだが。

カバナー:ブレア首相は一度も私をチェッカーズ(首相の別邸)に招待したことはない。しかし、サンの編集スタッフと言うことで言えば、私たちはブレア氏、ブラウン氏、他の閣僚にしょっちゅう会っている。一度、サンのエグゼキュティブチームの14人をブレア氏や他の閣僚とのランチに招いたことがある。夜はシャドーキャビネットのメンバーらと出かけたりする。新聞業界の人間が政治家と会うのは特別なことではない。ブレア氏もガーディアン紙やインデペンデント紙に出かけている。双方向だ。

―何回会った事があるのか?

カバナー:どれくらいの期間で数を数えるかだが、一対一ではあまり多くあったことがない。通常は、選挙の後やイベントの後で、インタビューをする時が典型的ケースだ。他の時でアクセスがあるのは、ランチがあるとき。首相が海外出張をするときは、国内にいるときよりも会う機会が増える。同じ飛行機にのっているし、一対一か少人数で質問ができる。

 ブレア氏がそれほどアクセスしやすい政治家だとは思わない。特別な場合を除いては会うための努力をしていない、ブレア氏は首相であり多忙だという単純な理由からだ。また、政治家と親しくなると、最終的にはその政治家を好きになり、好意的な記事を書く。

 政治記者としては、ある種のデタッチメントが必要だと思う。ブレア氏や政治家はジャーナリストたちがいい事を書いてくれるように誘惑する。

―自分自身が支持する政党はどこか?

カバナー:特別にはない。

―退職の計画は?

カバナー:ない。

―読者層を説明して欲しい。

 カバナー:約1000万の読者がいるので、広範囲な層になる。勤勉で、英国の中心となっているような人々。週に48時間働き、家族の面倒を見て、責任感がある。若い層や女性も読む。読者は比較的若い。他の新聞は読者は高齢者が多い。職業はトラック運転手から学者まで様々だ。

ー英国民は欧州憲法を可決するだろうか?

カバナー:可能性は全く無いと思う。国民が既に心を決めてしまっているからだ。例えフランスでは可決されても、だ。

 英国がもしユーロに参加していたら、現在のような長期的好景気が達成できたかどうか?失業率は3-4%で、ドイツでは12%だ。これを、憲法でどっちにしようかと迷っている国民に提示すれば、ノーになると思う。

―ブラウン氏はよい首相になれると思うか?

カバナー:蔵相の仕事は、税金や予算に関して数ヶ月かけて決定することだった。そして一度決めたら、方針を変えない。しかし、首相となると、いろんなボールを一度にまわしていかないといけない。ブラウン氏はこういうことが不得手なようだ。リサーチをして、考えて、発表する・・ということがあっている。首相となると、複数のことを即座に決定していかないといけない。

 ブレア氏はこの点では群を抜いている。電話口であることを話していて、すぐに次の話ができる。
by polimediauk | 2005-04-25 00:27 | 政治とメディア