小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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FTプレンダー氏の取材こぼれ話 「金融は人間ドラマが面白い」

 フィナンシャル・タイムズのコラムニスト、ジョン・プレンダー氏に取材をする機会があった。週刊「東洋経済」(21日発売)の震災特集の中にあるロンドン・リポート用取材の一環だったが、インタビューの一問一答は、今オンラインに掲載されている。

日本再生の資金は米国債売却で捻出できる――英メディアが見た大震災下の日本 http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/870fb968e55638d3c19f7ef827d80475/

 プレンダー氏自身のコラムのサイト
http://www.ft.com/comment/columnists/johnplender

 同氏の論評の評価については、日本でも詳しい金融・経済関係者がたくさんいらっしゃるだろうと思う。

 私自身は、1980年代から90年代にかけて金融業界(米英系投資銀行、投資顧問)で働いてたこともあって(といっても、本当に下っ端。気概のある人はMBAを取り、どんどん上に上る)、お金の動きに関心を持っていた時期があった。

 金融業界を離れてからも、フィナンシャル・タイムズの記事を読むうちに、プレンダー氏のコラムに出会い、本も数冊、手に取った。

 金融業界での勤務経験から、どうも金融というのは「濡れ手に粟」的な部分があるなあ、と感じてきた。外資投資銀行で過ごした1980年代半ばは、バブルの最高潮の時代である。「自分の上司たちは、何故これほど巨額のお金を稼げるんだろう?」大きな疑問であり、驚きであり、うらやましいぐらいでもあった。「インサイダー取引」という言葉は知らなかったが、後で思い起こすと、それに近いことを目撃したり、他の人から話を聞いたような気もした。といって、証拠があるわけではなく、前の会社などに訴えられては困るのだけれど(!)、次第に分かってきたのが、白黒で割り切れないことが起きている、ということ。

 つまり、すべてがグレーなのである。違法行為を働いたかどうかの証明は非常に難しい。法律でルールを作れば必ずこれをかいくぐる人が出る。結局、最後は、その人の良心とか正直さとかになるのかもしれない。

 最近の金融危機の後では、何人もの論者、作家たちが、結局のところ、「グリード(欲)」にかられていた金融業界の失敗を指摘した。行き過ぎであった、と。いつしか、特に英国では銀行に対する大きな不信感ができてしまった。国民の税金でいくつかの大手銀行がつぶれないようにしたせいもあるだろう。今、英国全体が緊縮財政で大変なのに、税金を投入した銀行が大きなボーナスを出しているのは、どういうわけだ!と。

 私は今はメディアの話を書くようになって、FTはたまにしか読まないようになったのだけれど、プレンダー氏の著書の中で見えてくるのは、同氏も金融業界の「欲」の部分を認識しているようで、読むと頭がすっきり、胸が晴れる思いをしていた。

 そこで、プレンダー氏と会ったときに、私が個人的に聞きたいと思っていたのは、金融に対する同氏の率直な見方であった。

 まず同氏の経歴とそれからこぼれ話を紹介したい。

 プレンダー氏はオックスフォード大学。1967年から、デロイット、プレンダー、グリフィス社に勤務した。1970年には公認会計士になる。その後、ジャーナリズムに転じ、1974年、英エコノミスト誌の金融エディターとなる。1980年には、外務省の政策スタッフの一人に。その後、フィナンシャル・タイムズのシニア・エディトリアル・ライター(論説委員)及びコラムニストに。同時に、BBCや民放チャンネル4などで時事番組を作る。株主活動の組織「Pensions and Investment Research Consultants」の一時、会長であったこともあり、ロンドン証券取引所のマーケットアドバイザリー委員会の委員の一人でもあった。著書には「The Square Mile」(1984), 「A Stake In The Future 」( 1997) 「Going Off The Rails - Global Capital And The Crisis Of Legitimacy 」( 2003)など。

***

―銀行業というのは、どこかに人をだますような要素があると私は感じる。どう思うか?

プレンダー氏:銀行には、国民に対する若干のペテンという部分が、ある意味、あるかもしれない。というのも、銀行は、預金者がいつでも預金を引き出せるという概念を基礎に置くことで、機能している。しかし、ある日、もしすべての預金者が預金の全額を銀行から引き出そうとした場合、実際には、銀行はこれを実行できない。預金者から預かったお金を他の資産に投資しているからだ。そういう意味では、銀行は、銀行に対する預金者の信頼感を利用している、と言っても良い。
 
 実際には、預金全額の支払いに銀行が応じられないと知っているからこそ、政府は預金保護手段を講じ、最後の貸し手という役目を持っている。

―投資銀行についてはどうか?インサイダー取引との関連では?

 過去、インサイダー取引が行われたのは事実だし、ギャンブルといってよいような取引が行われていたことも事実だ。たくさんの間違った行為が横行する、奇妙なビジネスともいえる。

―誘惑が大きすぎるのかもしれない。情報の行き来で、巨額が得られてしまう。あまりにも簡単すぎるのかも。

 確かに。

―でも、そんな金融に関して、これまであなたはずっと記事を書いてきた。金融業に魅せられているということか?

 そうだ。金融業は実に面白い。人間のドラマがあるからだ。金融業ばかりか、ビジネス全体にもいえると思うけれども。例えば、経営陣同士のドラマだ。たった一つの企業の取締役会の中を見るだけでも、人間の営みの全てが見える。通常の議会での政治の駆け引きとは少々違うが、もちろん、政治もドラマの要素だ。

―日本の新聞社では、一般的に、記者は一定の年齢になると管理職として記事を書かなくなる。プレンダー氏はこれからもFTで書き続けるのか?

 そのつもりだ。



by polimediauk | 2011-03-22 20:29 | 新聞業界