英「エコノミスト」のドミニク・ジーグラー氏:日本の「静かな革命」とメディア批判
東日本大震災を試練に日本は自信を取り戻す――英メディアが見た大震災下の日本http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/7b78588dd49be0ae5802692dd4fe2e26/
今回は、英「エコノミスト」誌、アジア担当エディターのドミニク・ジーグラー氏のインタビューである。同氏はコラム「BANYAN」を毎週執筆。1994年から2000年、中国特派員、05年から09年、東京支局長を含め、過去18年間、アジア地域の報道を担当している。
取材時のこぼれ話だが、もっとも盛り上がった話題の1つはメディア批判。それと、日本に「静かな革命が起きている」という話も印象的だった。
ジーグラー氏は、ジーンズにセーターの楽な姿で受付に姿を表し、まず日本語であいさつ。非常に気さくな雰囲気を持つ人で、これだったらどこに行っても、その土地の情景の一つになるのだろうなあと思わせた。
私は前にもエコノミストの人に、「何故雑誌が売れているのか」「質の高い記事が出せる理由は何か」を聞いてきた。今回も、ジーグラー氏に聞いてみると、まず、「質の高いジャーナリストがいるから」という私が挙げた理由に同意しながらも、同氏は、もっと大きな理由として「取材する相手の質が高いから」を挙げた。内部事情をよく知る人、政府や組織の上部にいる人への取材に加え、経営職などにいない、普通の市民、さまざまな職業で働く人などと、広く「会話をしているから」だそうだ。
「取材相手の質が高いから、質の高い情報をとることができ、質の高い情報を発信できる」-これは、まさに、言われてみるとそうだなあと思った。ここでエコノミスト好調の秘密が、また1つ分かったように思えた。
そして、質の高さのほかの理由として、エコノミストが報道機関として独立している点を挙げた。「エコノミストの所有者が編集部にああしろ、こうしろということはない」。所有者からは独立している理事会が間に入ることによって、エコノミストには独立した編集権が与えられている。
「私たちは自分たちが信じる文脈を報道している。外部からの制約はない」
では、日本のメディアはどう見えるのだろう?
「日本での経験から言うと、大手報道機関のほとんどが、自分たちが知っていることあるいは考えていることを報道しない印象を持った。大手報道機関が制約を受けるのは、特に政治エスタブリッシュメントとの関係があるからだ。報道機関の所有者と権力者側との馴れ合い関係があるからだ。不健全な関係であり、時にはプロとしてのレベルに達しない報道になってしまう」。政治エスタブリッシュメントは政治家、政治界で働く人のみならず、政治家に近い学者なども入るだろう。
エコノミストのスタッフは、今、世界中で80人ほどだという。日本では政府の記者会見などに出席できているのかと聞くと、
「できるが、かつては難しかった。記者クラブ体制の問題の1つは、クラブに所属する記者と管轄省庁との関係が親密になってしまう点だ」「外部の人を入れない排他的なクラブのメンバーにはなりなくない。この非常に緊密なクラブ体制の外で仕事をしたい」。
この後で、日本で起きている「静かな革命」、つまりは、民主党政権の発足を国民が選択したこと、インターネットメディアの勃興・成長、若者層が様々な意見を出すようになってきたことなどの話になり、最後は、「メディアは変わっていると思うか」という質問になった。これは東洋経済のネットの記事にも出ているのだが、日本のメディアは「あまりにも政治エスタブリッシュメントに対して、慇懃・ていねい過ぎる」という話になる。
ジーグラー氏は、日本の大手報道機関が、政治エスタブリッシュメントに非常に丁寧すぎて、本当の問題を国民のために報道しないことを指摘する。「これは日本のメディアの大きな弱点だ」。
面白いのは、同氏は東京支局長だったころ、同じ質問を何度もされたという。日本のメディアを論評して欲しい、と。答えはいつも同じだったという。「テレビ局にも何度も同じ質問を受けた。しかし、私が今のように答えると、インタビューの後、私のコメントは一度として、放映されることはなかった」という。―取材をしているときのトピックにあわなかったので放映されなかったかもしれないが、お互いに、沈黙してしまった瞬間だった。