小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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マードックのニューズ・インターナショナル社が電話盗聴で謝罪

 急ぎのメモ書きだが、米メディア大手ニューズ社傘下のニューズ・インターナショナル社が、8日、大衆日曜紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドでの著名人に対する電話盗聴事件について謝罪した。また、賠償金を支払うための基金を設置する、と述べた。ニューズ社はメディア王といわれるルパート・マードックが経営する。

 賠償金支払いのための基金の金額は少なくとも2000万ポンドと見られており、当面は、元文化・スポーツ・メディア大臣テッサ・ジョウェル氏、女優のシオナ・ミラーを含め、8人が対象となる。

 BBCのビジネス記者、ロバート・ペストン氏のブログ参考:http://www.bbc.co.uk/blogs/thereporters/robertpeston/2011/04/news_international_says_sorry.html

 ニューズ・インターナショナル社は、発表された声明文の中で、「過去にニューズオブザワールド紙で行われた留守番電話のメッセージの傍受は、非常に遺憾なことである」、「わが社の調査は重要な証拠を探し出すことに失敗し、十分ではなかったことを認める」などと述べた。以前にこの件で逮捕・実刑となった記者だけが従事していたと説明していたが、これを翻し、実は知っている人がたくさんいたことを示唆するとも受け取れる、ペストン記者は書く。

 もし今回の謝罪が芝居のクライマックスとすれば、ここに来るまでいくつかの布石があった。まず、一連の違法行為が行われていたときにニューズオブザワールド紙の編集長だった、アンディー・コールソン氏の件である。コールソン氏は、同紙を引責辞任後、野党(当時)保守党の広報担当者になっており、保守党が昨年5月から政権を担当すると、今度は官邸の広報責任者となった。しかし、昨年夏ごろから、ガーディアン紙が「メッセージ傍受は、たった一人の記者が行っていたのではない」「組織ぐるみだった」「犠牲者ははるかに多い」と報道しだした。

 「自分も犠牲者だったかもしれない」と考えた著名人が警視庁に連絡を取り、複数の人は裁判を起こしていた。裁判の内容が分かってくると、次第にコールソン氏への風当たりが強くなり、とうとう、今年1月末、官邸の広報責任者の職を辞任してしまったのだ。

 その後も、次第に少しずつ、複数の著名人の携帯電話の留守番メッセージを傍受した事実が裁判などによって明らかになる中、ニューズオブザワールド紙の記者イアン・エドモンズソン氏が、今度は停職とされ、解雇されてしまった。同氏がメッセージ傍受に関与していたことが裁判で分かってしまった。

 そして、今月5日、今度は同紙のネビル・サールベック記者と元記者のエドモンズソン氏が、この事件のからみで逮捕された(後、保釈)。事件はいよいよ大詰めを迎えていた。

 もう1つ、見逃せない動きがある。マードック氏の次男で、ニューズ社の欧州アジア部門の会長兼経営責任者ジェームズ・マードック氏が、3月末、なんだか突然のように、それまで住んでいたロンドンから、米国に赴任することになったのだ。新しく作られた役職、副最高執行責任者(deputy chief operating officer)に就くという。この時、「息子のマードックを電話盗聴疑惑から、切り離そうとしている」という声も出た。やっぱり、そうだったんだな、と思ってしまう。

 ここまできたら、経営陣の誰かが辞任する(べき)だろうけど、果たして、マードックがかわいがっているといわれている、ニューズ・インターナショナル社最高経営責任者のレベッカ・ブルックス氏の辞任まで行くかどうかー?

 さらに考えると、マードックは、BスカイBの株を全部取得して(今は39%のみ)、子会社化したいと望んでいるが、いつまでも電話盗聴事件でぐずぐずしているわけにはいかない、と思っているのかもしれない。

 とすると、今日のニューズ・インターナショナル側の謝罪は、「やっとこうなったか、よしよし」「正義が勝った」などと思っているべきではなく、「これで、あっという間に、BスカイBはマードックのニューズ社の手に入るんだな」と思うべきなのだろう。

 ニューズインターナショナル社には、ニューズオブザワールド紙のほかに、サン、タイムズ、サンデータイムズがある。これで衛星放送BスカイB(スカイニュースを含む)をすべてマードックが手中にするとしたら、とてもまずい感じがする。たった一人の人が一国のメディアをここまで掌握するなんて。

過去記事
マードック傘下の英大衆紙 -消えぬ巨大電話盗聴事件③ (最後)
http://ukmedia.exblog.jp/15767512
by polimediauk | 2011-04-09 02:54 | 新聞業界