小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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債務問題で揺れるギリシャ ―英国は関与するべきか?

 財政危機に見舞われているギリシャが債務不履行状態に陥らないよう、世界各国が躍起となっている。事態は急速に進展しているが、6月末、ギリシャが加盟する欧州連合(EU)の首脳陣が昨年に引き続いて第2弾目の支援策を実施することに同意した。この時点でまとめた話を「英国ニュースダイジェスト」(本日発行)号に書いた。以下はそれに若干付け足したものである。最新の情報というよりも、概要をつかむ上で参考にしていただければ幸いである。

 また、このギリシャ危機のために首都アテネを中心として大規模デモが発生した。政府の金融引き締め策に反発する国民のデモである。かなり過激な闘いになったのをニュースでご覧になった方もいらっしゃるかもしれない。こういう光景を見ているからこそ、海外のメディアなどが、震災後の日本で「国民が落ち着いている」と言った表現でほめたたえた。日本に住む(多くの人)にとってみれば、こうした評価は信じられないものだったかもしれないが、外の世界ではかなり暴力的なことが日々、起きているのである。

―ギリシャ共和国の基礎知識

公用語:ギリシャ語
首都:アテネ
人口:約1100万人
ミニ歴史:古代ギリシャのポリス(都市国家群)の発生は紀元前800年頃。全市民参加の直接民主制が採用され、これが民主主義政治の原点とされる。幾多の戦争を経て、紀元15世紀以降はイスラム王朝のオスマン帝国の支配下に。1829年、帝国からの独立が承認され、ギリシャ王国に。第1次大戦でトルコからクレタ島を奪回。1946-49年の内戦後、1967年から軍事政権。1974年に君主制を廃止し、共和制へ。1981年、欧州連合(EU)加盟。
政治:カロロス・パブーリアス大統領、首相ヨルゴス・パパンドレウ。議会は一院制で300議席、任期4年
主要産業:海運、観光、農業、軽工業、製鉄、造船
GDP:3,575億ドル(2008年、IMF)
主な貿易相手国:輸出はドイツ、イタリア、英国、ブルガリア、米国、輸入はドイツ、イタリア、フランス、ロシア、英国。日本からは恒常的に輸入超過状態。
(資料:外務省、ウィキペディア、BBC)


 ギリシャの債務問題解決のため、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)の首脳陣は6月24日、ギリシャに対し第2次金融支援(総額1200億ユーロ前後、約13兆円)を実施することで合意した。政府がまとめた緊縮財政策を実施するのが条件だ。ギリシャには、昨年5月、第1次金融支援(約1100億ユーロ)が確約されている。

 ギリシャは現在、債務不履行となる一歩手前まで来ているといわれる。もしそうなった場合、ユーロ圏ばかりか欧州経済、ひいては世界経済への影響が懸念されている。英国はユーロを導入していないが、EUやIMF加盟国であるため、様々な形でギリシャへの金融支援に参加することになり、財政削減策を実行中の英国の国民の中に「何故ギリシャを助けなければならないのか」と不満感を漏らす人が増えている。

 ギリシャでは、近年、債務が雪だるま式に増えており、経済の重荷になってきた。政府は巨額の借り入れを行い、公的部門の歳出が膨れ上がった。公務員の給料は過去10年間でほぼ2倍になっていた。国内では脱税が多いといわれ、政府は十分な税収を得られない状態が続いた。

 2008年秋のリーマン・ショックをきっかけとした世界金融危機の勃発や、翌年10月の総選挙後、新政権が旧政権が行ってきた財政赤字の隠ぺいを暴露したことがギリシャ経済を大きく傾かせる要因となった。

 「隠ぺい」とは、ギリシャ政府は財政赤字が国内総生産(GDP)の4%程度と発表してきたが、実は13%近くに膨らみ、債務残高も国内総生産の113%にのぼっていたことを隠してきた。財政状況の悪化が表面化したことで、格付け会社がギリシャ国債の格付けを引き下げだした。債務不履行の不安からギリシャ国債が暴落した。ギリシャはとうとう、昨年、第1次支援策を受ける事態となった。

―状況は悪化

 今回、第2回目の支援策を受けることになったのは、ギリシャが債務を削減するために資金を調達しようにも、金融市場を通じて十分な借り入れをすることができなくなったため。それほどギリシャ経済の信頼感が世界中で下落していた。

 第1次支援を申請時点で年8%だったギリシャ国債の流通利回りは、最近は年17%台にまで上昇している。6月中旬、米格付け会社スタンダード&プアーズはギリシャの長期国債の格付けを「B」から「CCC」に3段階引き下げた。別の格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスも先月、「債務不履行に陥る可能性は50%」と発表した。第1次支援策による借り入れ分も満足に返済できない状態に陥った。

 ギリシャがユーロ圏におらず、独自の通貨を持っていれば、債務不履行となった場合、一義的にはギリシャの問題であった。ところが、ユーロ圏にあるため、この圏内にある各国の経済に多大な影響が及ぶ。

 財政危機はすでにユーロ圏の各国で発生中だ。アイルランドはギリシャに続いて昨年11月に支援申請し、今年4月にはポルトガルが続いた。支援後も両国の国債流通利回りは上昇し続けており、もしギリシャが不履行になれば、アイルランド、ポルトガルも不履行になる確立が高くなる。こうした国々にお金を貸している政府や銀行にとって、負債が膨らむことになる。果たして、EUは財政危機に苦しむ加盟国に、いつまでも資金を提供続けることができるだろうか?

 経済成長の度合いやその他の様々な経済上の要因が異なる欧州各国が、ユーロという単一通貨を導入し、ECBがユーロ圏全体の金利を決めるという仕組み自体に無理があった、あるいはギリシャはユーロから離脱するという噂が絶えない。

―英国への影響

 国際決済銀行によれば、ギリシャの国家債務の中で、英国の銀行が負担しているのは34億ドル(約2733億円)だ。これはドイツの226億ドル、フランスの150億ドルと比較すれば、やや小さい額かもしれない。しかし、ギリシャの民間銀行への債務分を入れると、英国の貸し出しリスクは146億ドル、ドイツは340億ドル、フランスは567億ドルにものぼるのだ。

 もしギリシャが債務履行になれば、EU諸国を貿易の大きなパートナーとする英国への影響は避けられない。キャメロン英首相も含め、欧州各国の首脳陣がギリシャ支援に力を入れるのは無理もない状況が続く。

―関連キーワード

Euro:欧州単一通貨のユーロ。欧州23ヶ国が法定通貨として使用している。23カ国の中で17カ国は欧州連合(EU)加盟国。1999年1月、決済用仮想通貨として導入され、2002年1月から現金通貨が発足。一時はドルに継ぐ第2の基軸通貨と言われたが、近年の通貨危機により、存続自体を危ぶむ声も出ている。独フランクフルトに本拠地におく欧州中央銀(ECB)が、役員会とユーロ圏各国の中央銀行総裁で構成される理事会を通じて、ユーロにかかわる政策を決める。ECBの総裁は仏人のジャン=クロード・トリシェ。
by polimediauk | 2011-07-07 20:41 | 英国事情