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小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


by polimediauk

マードックが完全子会社化を狙ったBスカイBとはどんな会社?

 英国の老舗日曜紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドは、盗聴疑惑が深刻化して廃刊となった。このとき、廃刊のもう一つの理由として、発行元の親会社ニューズ社による英衛星放送BスカイBの全株取得計画があったといわれる。その後、盗聴行為をするような会社がBスカイBを完全子会社化するのはいかがなものかと政界の批判が大きくなり、ニューズ社はこの計画を断念せざるを得なくなった。果たして、BスカイBとはどんな会社で、何故ニューズ社のトップ、ルパート・マードックはこの会社を欲しがったのだろう?

 「英国ニュースダイジェスト」の28日発売号に書いた、ニュース解説の記事に補足したものを以下に転載します。

―BスカイBの主要株主とは


株主           所持比率(%)
ニューズ・コーポレーション 39.14
ブラックロック・インク      4.63
キャピタル・グループ      4.27
フランクリン・リソーシズ      3.19
フランクリン・リソーシズ(別部門)  3.06
リーガル&ゼネラル      3.06

(資料:テレグラフ紙、他)


 「メディア王」ルパート・マードックが最高経営責任者(CEO)となる、米国の複合メディア企業ニューズ・コーポレーション(ニューズ社)は、1年ほど前から、英国の衛星放送BスカイBの完全子会社化(現在は39%の株を所有)を計画していた。

 ニューズ社は英国の現地法人であるニューズ・インターナショナル社を通して、日刊大衆紙サン、日曜大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド、高級紙タイムズとサンデー・タイムズを発行してきた。延べの発行部数は800万部にのぼり、この「マードック・プレス」は英国の新聞市場で大きな位置を占めてきた。

 BスカイBの完全子会社化に際し、これを了承する政府側から「メディアの多様性を阻害する」と言われないよう、BスカイBのニュース部門を別会社とする案を出し、着々と完全買収への歩を進めていた。

 6月末頃まで、子会社化の実現はほぼ確実視されていたが、事態が急変したのは7月上旬。2005年から発覚したニューズ・オブ・ザ・ワールドでの電話盗聴疑惑が、当初の推測よりも広範囲で、しかも政治家や有名人ばかりか、誘拐・殺害された少女の携帯電話にも及んでいることが分かり、国民の大きな怒りの矛先がマードック・プレスに注がれた。

 BスカイBの完全子会社化を承認する一歩手前だった政府側も態度を変化せざるを得なくなった。13日には下院で、ニューズ社によるBスカイBの完全買収を断念させることを促す議論が行われる予定となった。議論開始の前に、ニューズ社は「現状の環境では、買収計画の実現は困難になった」と発表した。

―BスカイBの設立とマードック

 現在、約1000万人のサービス加入者を誇るBスカイBは、英国最大の衛星放送局だ。その発足は1990年だが、誕生にはマードックが絡んでいる。1978年、ロンドン近辺の平日の放送権を持っていたテームズ・テレビの元職員ブライアン・ヘインズが、欧州全域向けに放送する衛星テレビ「SATV」の放送を始めた。英国内での放送免許を持っていなかったので、海賊放送であった。

 しかし、1980年代に入り、ヘインズは資金難に窮し、株の80%をマードックのニューズ・インターナショナル社にほんの1ポンドで売却した。マードックは、買収後、名称をスカイテレビに変更した。

 1980年代後半、放送業界の監督機関が「英国衛星放送」(ブリティッシュ・サテライト・ブロードキャスティング、BSB)に英国内に向けた衛星放送の免許を与えたが、技術上の問題の解決に時間がかかり、放送はなかなか開始できないでいた。

 1989年、マードックが、それまで欧州向けの放送だったスカイを、今度は英国向けの放送局に変更。一方のBSBが放送を開始したのは、1990年4月。BSBとスカイは競争状態となったが、両者も初期投資の巨大さに青息吐息の経営状態となった。同年11月、両社の合併により、BスカイBが成立した。

 ニューズ社によるBスカイBの買収案が断念されたことで、買収を見込んでいた投資家たちが2億ポンド(約25億円)相当の損をしたと伝えられている(テレグラフ、7月14日付)。ニューズ社の副執行最高経営責任者で、父ルパートの次男となるジェームズ・マードックの責任問題も浮上している。

 確実視されていた利益を手にできなかった機関投資家や、株主からの訴訟が起きる可能性もあると言われているが、完全子会社への買収提案は、今後も「ほとぼりが醒めたら」再開する、という見方が強い。今後の動きに注目だ。
 

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News Corporation:米国の複合メディア大手企業。オーストラリア生まれの実業家ルパート・マードックが主要株主で、会長兼最高経営責任者。英国の新聞タイムズ、米ニューヨーク・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルを含む新聞業、映画会社20世紀フォックス、米テレビのFOXテレビジョンなど、複数のメディア媒体を傘下におさめる。オーストラリアのアデレードで1979年に設立。2004年、米デラウェア州で再設立し、本拠地を米ニューヨークに移動。英国の現地法人がニューズ・インターナショナル。
by polimediauk | 2011-07-28 07:43