小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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トルコで、殺害された新聞編集長の犯人に20年余の禁固刑

 アルメニア系トルコ人で、新聞の編集長だったフラント・ディンクは、2007年1月、イスタンブールの新聞社事務所の前で、何者かに殺害された。

 「私たちはアルメニア人だ」というプラカードを持って、10万人ほどの住民がイスタンブールでディンクの葬儀に参加した様子をネットで見たとき、非常に胸が打たれる思いがしたのを覚えている。

 殺害事件後、まもなくして逮捕されたのが、17歳(当時)の少年で超国家主義者のオギュン・サマストであった。当時の地元紙の報道によると、少年は知人の民族主義組織のトップ、ヤシン・ハヤルに殺害を依頼されたという。ヒュリエト紙によると、ハヤル氏はディンク氏を敵視しており、「政府が何もできないのなら、我々が手を下す」などと語っていたという。サマスト容疑者自身は、後の警察への供述の中で、ディンクは「トルコ人を侮辱したために殺害した」と述べていると報じられた。

 時は進んで、今年である。去る7月25日、トルコの裁判所は、ディンクを殺害した青年に、22年と半年の禁固刑を下した(ただし、一部報道では21年と半年とある)。裁判官は当初、サマスト被告に終身刑を考えたが、犯行実行当時未成年だったため、長期禁固刑となった。

 ディンクはトルコ語とアルメニア語とを使う2ヶ国語の新聞の編集長だったが、トルコが否定する、第1次世界大戦中のオスマン帝国の「アルメニア人虐殺」に関する記事や発言で、刑法国家侮辱罪301条で起訴され、2005年に執行猶予付きの有罪となるなど、数度の訴追を受けていた。

 ディンクの弁護士フェティエ・ケティンがBBCに語ったところによれば、刑の長さには大きな意味があるという。現在、ディンク殺害に関連して、他数人が関与していたといわれており、「サマストやほかの容疑者たちはこれほど長い禁固刑になるとは予想していなかったと思う」。そして、「今回の刑の重さが、同様の犯罪を防止する役割を果たすと思う」。

 BBCなどによると、昨年、欧州人権裁判所は、トルコ当局がディンクを保護することに失敗したと述べ、ディンクの家族に17万ドルの賠償費用を支払うよう命じた。生前、超国家主義者によるディンク殺害計画があったからだ。

 今年6月、裁判所は、軍人2人を含む数人の容疑者に対し、諜報情報を元に行動を起こすことに失敗した罪で禁固刑を下している。

―本当の犯人を何故捕まえないのか?

 トルコの新聞「ヒュリエト」英語版(7月26日付)では、ディンクの友人というユスフ・カンリが、「引き金を引いた人を捕まえるだけでは不十分」「引き金を引かせた人を裁くべきだ」と書いている。

 殺人行為を行ったとき、サマストは「未成年であった」ことから、刑を軽くしたなどというのは茶番劇だったとカンリはいう。

 ディンクの死からもう何年も経っているのに、「ディンクを殺すようサマストに依頼した人はつかまっていない」「銃と弾を提供した人、殺すことをサマストに教えた人は、鳥のように自由の身だ」。

 「サマストが故郷で捕まったとき、トルコの国旗を前に一緒にポーズをとった警察官」や、サマストをまるで有名人のように扱った人々は、トルコ社会の忘れっぽさから恩恵を受けているだけなのだ、と述べる。

 一方、27日付のザマン紙英語版によると、サマストの父アーメットは、報道陣に対し、息子は殺人計画に使われているだけで、本当の実行者はほかにいる、と述べた。

 「息子をだまして、使ったんだ。この殺人事件は十分に捜査されるべきだ。誰か他の人が背後にいるなら、その人が裁判にかけられて、懲罰を受けるべきだ」。

 父は、自分の家族は犯罪行為に一切手を染めたことはない、という。

 「息子のことを当局に通報したのは自分だ。罰を受けるべきだと思ったからだが、息子は銃を撃ったときはほんの17歳だったんだ。この禁固刑は重過ぎる」-。

 近代トルコの建国の父アタチュルクが主導した「政教分離」「世俗主義」はトルコの国是となっており、「トルコらしさ」から逸脱する人物には疑いの目が向けられる雰囲気がある。

 果たして、この殺人の「黒幕」は誰なのだろう?

(トルコとディンクの殺害前後の話にご関心がある方は、ニューズマグに、関連アーカイブ記事を出しています。アーカイブ: トルコ、表現の自由の行方 -ジャーナリスト殺害で民族主義者が台頭か http://www.newsmag-jp.com/archives/9376)
by polimediauk | 2011-08-02 06:48 | 欧州表現の自由