小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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拡大したロンドンの暴動 -抗議運動か、憂さ晴らしか? 「英国ニュース・ダイジェスト」より

 8月上旬、ロンドン東部トッテナムで発生した放火や略奪行為などの「暴動」は、その後の数日間でロンドン各地やイングランド地方中部バーミンガム、北部マンチェスターなどに飛び火した。小学生の児童から大人までが参加した暴動は、3000人近くが逮捕され、5人が命を落とすほどの事態に発展した。英国の邦人向け週刊誌「英国ニュースダイジェスト」(http://www.news-digest.co.uk/news/index.php)の9月1日付号に書いた、ニュース解説の記事を転載したい。

 その前にお断りだが、今までにブログでこの件については何度か書いてきたので、それを読まれた方にはあまり目新しいことはない。さらっと何があったかを知りたい人には良いかも、と思う。本文の最後のほうで、キャメロン首相の話が少し入っている。

 その代わりといってはなんだが、elmoiyさんにご紹介いただいた、コリン・ジョイスさんのコラム「イギリス暴動を読み解くヒント」をお勧めしたい。(大衆紙の取材方法に関するコラムも面白い。)
ttp://www.newsweekjapan.jp/joyce/2011/08/post-47.php

 それと、訳して紹介しようと思いながら日にちがたっているのだが、BBCのラジオ4というチャンネルで、「リポート」という30分番組がある。ここで、暴動の元々であった、ロンドン・トッテナムに記者が行き、黒人住民らに話を聞いた。これがなかなか面白い。英語だが、日本からでも聞けるはずである。トッテナム近辺に話を特化すれば、やはり、住民の中には警察に対する大きな不信感があった、というもの。
The Riots - How They Began
http://www.bbc.co.uk/programmes/b00jkr1q

―きっかけは?

 ロンドンやイングランド地方の各地で発生した暴動のきっかけは、8月4日、黒人コミュニティーでの銃犯罪を捜査していた警察が、ロンドン東部トッテナムで29歳のマーク・ダガン氏を射殺した事件であった。この日、タクシーに乗っていたダガン氏は、警察官が発した銃弾を胸に受け、翌日早朝、亡くなった。

 6日夕方、遺族や住民らがトッテナム警察の前に集まり、ダガン氏の死をめぐる状況について警察からの説明を求めた。地元住民の間には警察への強い不信感があり、ダガン氏が十分な理由なく殺害されたと感じた住民らが、「真実」を求めて、警察署近辺で抗議デモを行うようになった。夜が更けるにともない、群集の一部が過激化し、パトカー、バス、店舗などに放火や襲撃を行うようになった。ロンドン各地、そしてイングランド地方中部や北部に広がる暴動、放火、店舗の略奪行為の発端を作った。

 メディア報道によれば、放火・略奪行為は自然発生したというよりも、携帯電話ブラックベリーのテキスト・メッセージやその他のソーシャル・メディアを通じて、若者たちが情報を伝え合い、拡大していった。暴動の拡大に警察や消防隊が追いつかず、暴徒たちは誰にも止められずに、略奪行為を続けることができた。

 夏休みの休暇中だったキャメロン首相やジョンソン・ロンドン市長は、急きょ、英国に帰国し、事態の収拾に当たらざるを得なくなった。ロンドン警視庁は鎮圧にあたる警察官の数を大幅に増員し、暴動は10日までに、ひとまず、収束した。8月末までに約3000人が逮捕され、5人が暴徒に攻撃を受けて命を落とす事態となった。襲撃を受けた商店街の被害総額は2億ポンド(約252億円)に上るといわれる。

 逮捕者の中で起訴されたのは約1600人を数え(8月17日時点、BBC)、イングランド・ウェールズ地方の刑務所が処理できないほどの受刑者が出るのではないか、と懸念されている。

―「親のしつけが悪い」と考える人が多い

 低所得者や有色人種が多く住むロンドン東部では、1980年代にも何度か暴動が発生している。このため、当初、暴動は失業問題、所得格差、人種問題などを背景にした、社会から疎外された人々による一種の抗議運動であったと解釈されたが、逮捕された暴徒には白人住民、教師や大富豪の令嬢、11歳の少年少女たちがいた。

 調査会社YOUGOV(ユーガブ)が、8月10日と11日、2075人を対象に実行したアンケートによると、暴動の原因として、52%が「親のしつけの悪さ」を挙げた(複数回答)。

 これに続くのが「ギャング団の横行」(47%)、「犯罪行動のまん延」(46%)、「刑罰の軽さ」(45%)となる。この後、がくんと数字が下がる。「社会の不公平・貧富の格差」(16%)、「失業」(13%)、「教育程度の低さ」(13%)、「政府による公的費用の削減」(12%)、「メディアが扇動した」(10%)、「若者が参加できる活動が少ない」(8%)、「人種問題」(6%)、「警察の治安維持が不十分」(6%)であった。

 このアンケートの結果が、そのまま真実だ、というわけでもないだろうが、少なくとも、人々はそんな印象を持っている、ということだ。

 英エコノミスト誌(8月13日号)は、「国や自分の将来に対して、ほとんど関心を持たない若者の集団が、現在の英国に存在している」と書いた。「原因が何であれ、モラルの低下が英国の少数の若者たちを支配してしまっている」と。

 キャメロン首相はサンデー・エキスプレス紙(8月21日付)で、「責任感の低下、自分勝手の増加、個人の権利の最優先」という英社会の「深い問題」が、暴動時に見られた「強欲と暴行」の背景にあるとして、「私たちの通りを(暴動者の手から)取り戻そう」と呼びかけた。そのためには、警察が地元の治安維持にもっと責任を持つようにすること、家庭や学校で、善悪の価値判断を教えること、そして第2次大戦時の徴兵制(ナショナル・サービス)に似た、「ナショナル・シチズン・サービス」という仕組みを立ち上げ、若者たちが山登りやハイキングなどの活動を通じて、責任感や自制心をつちかうようにしたい、と述べた。(本当にそんなことで解決策になるのかなと、ちょっと?だけれど。)

 原因の究明や再発防止策の実行は、今後の大きな政治課題となるだろう。

 8月上旬の数日間、多くの英国民が、いとも簡単に社会の秩序が破壊される様子をテレビ報道を通じて目の当たりにした。地元コミュニティーを破壊する違法行為に簡単に手を染める若者や大人が相当数いることを示した一連の暴動は、英社会の闇を垣間見せた事件だったのだろうと思う。

―関連キーワード:HOOLIGAN。フーリガン。町のチンピラ、酒やドラッグを飲んで暴れる若者、そして、行儀が悪く、場合によっては暴徒と化すスポーツチームのファンなどの意味がある。1960年代、英国のサッカー・ファンの乱暴が問題視されるようになり、現在では、「暴徒と化すスポーツチーム、とくにサッカーのファン」の意味で使われることが多い。8月に発生したイングランド地方の暴動事件では、暴徒をフーリガンに例えるメディアがあった。語源については諸説あり、一説には、ロンドンに住んでいた、お酒好きの用心棒でアイルランド人のパトリック・フリーハンあるいはフーリガンに端を発するとされる。
by polimediauk | 2011-09-01 02:27 | 英国事情