小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


by polimediauk

英国で新聞界の慣習、倫理などについての公聴会が続いている

 英国のメディア界の出来事にまったく関心がない人でも、「ハリー・ポッター」なら知っているという人は、きっといらっしゃるのではないかと思う。

 この「ハリー・ポッター」シリーズの作者JKローリングさんが、24日、ロンドンの高等法院で、有名人の写真を撮るパパラッチたちや新聞記者のしつような取材でいかにひどい損害を受けたかを証言したーと聞いたら、「!!」と思われるだろう。

CNNの記事
http://www.cnn.co.jp/showbiz/30004692.html

 ロンドンでは、今月中旬から、英新聞界の慣習や倫理に関する独立調査委員会の聞き取りが行われている。今週はプライバシー侵害などの被害にあった著名人を中心に公聴会を行った。

 もともとは、廃刊となった大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドの電話盗聴問題がきっかけだ。この件に関しては、何度も、これまでに書いてきたけれども、この新聞の記者や私立探偵が、著名人の携帯電話の留守電を「盗聴」することでネタを探し、これを紙面に出していたことが、発覚したのが2005年から2006年ごろ。当初は王室関係者への盗聴であったと理解されており、同紙の王室報道担当記者と私立探偵が逮捕・実刑判決を受けた(2007年)。

 その後、もろもろのことがあって、実際は、盗聴の範囲がかなり広かったことが判明し、今月までに、約5800人がこうした一連の盗聴の対象になっていた可能性が出てきた。

 この独立調査委員会(委員長レベソン判事の名前を取って、レベソン委員会と呼ばれている)は、キャメロン首相が設置したもの。委員会は、公聴会で証言をする人に対して、宣誓をさせる(もし委員長がそうしようといえばだが)権利を持つという。つまり、嘘をついてはいけない、ということだ。

 ローリングさんの記事はBBCにも出ている。また、BBCニュースのサイトで探すと、いろいろな動画も出てくる。

http://www.bbc.co.uk/news/uk-15876194

 ローリングさんは、あまりにもパパラッチの攻勢がすごいので、家を引越したそうだ。前の家は道路の近くにあったので、パパラッチに攻撃を受けやすかったからだ。また、小さな娘の水着姿をある大衆紙に掲載された。さらに、当時小学校1年生の子供が学校と家の行き来の際に使っていたバッグの中に、新聞記者が入れたらしい、ローリングさん宛ての手紙が入っていた。これを知ったとき、ローリングさんは相当のショックを受けたようだ。

 また、郵便局の局員や税務署の人間であるふりをした記者が、ローリングさんの個人情報を取ろうとしたという経験もあるという。

 レベソン委員会は、今後も、新聞報道によってプライバシーなどを侵害された人を呼んで事情を聞く予定。委員会の調査はこれから数ヶ月は続く見込みで、聞き取り終了後、委員長はまとめの報告書を出す予定。報告書発表の正確な時期は未定だ。報告書の作成は「一年以内」とレベソン委員長は言っているものの、来年一杯はかかるのかもしれない。

 委員会のウェブサイトは以下。証言が行われているときは、その模様がストリーミングで視聴できる。また、後で、内容を書き取ったものが読めるようになっている。

http://www.levesoninquiry.org.uk/
by polimediauk | 2011-11-25 10:41