日本のメディア・出版界に聞く① ネットのニュース・論壇サイトBLOGOS、ここにあり
日本に一時帰国している間に、メディア、出版関係の人にいろいろな話を聞いた。
「オフレコにして欲しい」という方も結構いらして、全部は紹介できないが、この業界の将来に至極当然だが不安を持っている人、規模が縮小しているのに「親方、日の丸」的考え方でまったく心配していない人、メディアにいてもジャーナリズムに全然興味がない人、スマートフォンで自在に情報を収集し、世界中の動きを自分なりにそしゃくしている経営幹部、休職してしっかり勉強していた人、メディアに見切りをつけて、着々と次を考えている人、ドンドン面白い企画を立案して、周囲を巻き込みながら熱い連載を続けている人、東日本大震災の取材で「人生が変わった」と思わず目に涙をためた人など、本当に人それぞれであった。やはり最後には、その人の感性や立ち居地が問われるのだろう。
オンレコで話してくれて、インタビューを記事化してもよいと言ってくれた3人の方の声を順に紹介したい。
まずは、2009年からサービスを開始した、ネットのニュースサイトで、既に確固としたネット論壇を作り上げた感のあるBLOGOS(ブロゴス)である。私自身も参加しているものの、このサイトは、平たく言えば、あまたあるブログの中から、編集部がこれは面白いかもというものを中心に(しかし自薦もありとして)一つの論壇を作っている。「ブログを集めたもの」というと、米国のハフィントン・ポストを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれない。
ブログは様々な人が思い思いのことを書いたものだから、そんなものを集めて、果たして、1つのまとまり=知的論壇ができてゆくのだろうか?その答えの1つがブロゴスである。
ブロゴスは09年10月にスタート時、閲覧数(ページビュー)が300万。それが、国内外の政治・経済問題がクローズアップされる度に規模が拡大。東日本大震災や原発事故が発生すると、専門家の意見が続々と載って、話題になり、口コミで読者がドンドン増えた。今年秋には、閲読数は約4000万に成長。読者数で行くと、月間で300万人。週刊文春やAERAなどと並ぶ。
少しブロゴスのサイトを見るとすぐに分かるが、トップ面に、これ!という記事を大きな写真付きでどーんとやっている。http://blogos.com/ これが、私からすれば英BBCのニュースサイトを思わせる。その他、海外のネタも早く拾っており、結構目利きが多い感じがする。そして、これが一番、「違う」と感じるところなのだが、紙の新聞やテレビ局とはニュースの順列付けが異なり、独自の視点がある。
この「独自の視点」というのは、後で聞いて分かるのだけれども、「若い人が作っている」ことから来るようなのだ。例えば全国紙でも、記者は若くても決定権を持っているデスクや編集幹部は結構年齢が上になる。それはそれなのだけれど、例えば30代より若い読者になると、「自分とは関係ないトピックばかりが載っている」と感じることにもつながるのではなかろうか?
ブロゴスはまた、動画(生放送)もやっている。これがまた面白いのである。
いずれにしろ、どこか新鮮な感じがするニュースサイト、ブロゴスの感触は自分でいろいろサイト上で遊んでみると一番良く分かる(ついつい、コメントしたくなるようなブログが見つかるはずである)。
ブロゴスの編集長大谷広太さん(写真上)に、オフィスがある新宿の高層ビルの一室でお話をうかがった。大谷さんは2005年12月、ブロゴスを運営するライブドアに入社している。
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―どのような経緯でブロゴスの編集長に?
大谷さん:入社後、livedoor ニュースに携わってきたのですが、当時からポータルサイト間の競争では、Yahoo! Japanが最大で、それに追随する形でlivedoor、Infoseekなどがしのぎを削ってました。その中でどうするか、と。と言っても、ヤフーさんとわれわれ第2集団はものすごくトラフィックに差があります。すぐに追いつくのは難しいという認識があって、じゃあ、たとえばYahoo!JapanさんがNHKだとしたら、僕らは民放としてどんな番組を作るか、というような課題をずっと考え続けてきたんです。
もう1つ、(日本で)ブログと言うと、どうしてもそこで書くものが欧米での認識と違う。タレントさんがPRするために書くという感があるのかなと思います。livedoor blogはそうではなくて、奨学金制度やブログメディア新人賞といった施策により、書き手が一般人であっても、価値のある内容であればそこから有名になるとか、生計が立てられるようなモデルができたらな、と。加えて、弊社の堀江(貴文)が若々しいイメージで登場して、既得権に対して立ち向かおうという姿勢があった。
そういった問題意識を総合していったときに、どういうことができるかと思ったら、やっぱり、ブロゴスみたいな、ウェブ上にあるいろいろなオピニオンを編集して、ニュースサイト風に見せてあげたらなあ、と。当時から既にハフィントンはありましたけど、我々はそんなに海外のことを研究して作ったわけではないのですが、わりと国内を見まして、「ああ、こんなのってないなー」とか、「こういうのをやると価値があるんじゃないか」とというところで出発したんです。
―しかし、ブログを集めるだけでニュースサイトになるかどうかの心配は?ちゃんとしたコンテンツになるかどうかについてはどんな対処を?
(集めるだけでコンテンツになるかどうかの懸念は)は今でもあります。ブログを書かれる方は、ネットリテラシーもそれなりにあるのでしょうし、それだけでTPPにしろ何にしろ、一定のバイアスがかかっていると見ます。そこで例えばTPPでも、賛成、反対の意見を出してから、ブロゴス上ではどうきちっとフラット(な論壇)にしていくかー。両方、賛否両論あるんだよ、というところをどう見せていくか。ここがこれからの課題です。
―でも、規制権力と闘う姿勢が常にありますね。
それは、ありますね。軸としています。
インターネットの会社なので、若いスタッフが多いですので、そういう意味では、何の問題にしても、われわれの身近なものとして考えられるような、そういうサイトにしていきたいなと思っています。少子化の問題にしても、われわれの親の世代とは違った考え方をしていると思います。そこでアジェンダ設定みたいなことをしよう、と。まあ、これもバイアスといえばバイアスなんだけども。若い世代の疑問に答える、なんとなくもやもやしているものを解き明かしたい、というのがあります。
―ここに入られた同じ年代の方には、既存メディアに対する不満みたいなものはあったのですか?
いや、それはないですね。みんな、紙媒体でやっていたり、ラジオ局出身者もいますし。既存メディアに対する恨みがあるとか、そういうのはあまりなくて。それぞれ強みと弱みがありますし。我々には全国津々浦々まで取材することはできない。だからネットとそれ以外のメディアが、特徴を活かして相互補完できればいいのではないかと思います。ただ、都市部で働く世代としては、問題意識が違うのです。なんとなくみんな将来に対する不安がある。消費税の増税もそうですし、どうなんだ、と。
―そこが違いますね。新聞だと意思決定は40-50代。ポイントがずれている場合もあるかもしれません。
テレビのワイドショーは家で見ている主婦に向けていますよね。我々はいま、40―50代のユーザーが実は多い。本当は、若いユーザー(20-30代)を増やしたいと思っています。学生は就活として社会に関わっているわけですし、日本を担っていかなければならない人たちですし。
いまの学生さんですと、就活をはじめたら、日経新聞をとらなきゃ、と考えるわけです。そういうときの選択肢の1つとして、ブロゴスを選んでいただいて、知識の取得とか問題意識を共有していただいて、投票に行く前に見ていただいたりとか。若者の投票率があがるといいなあ、と思っています。
―参考にしているサイトはありますか?ずいぶんといろいろなことに目が行き届いているし、ニュースセンスが良い感じがしますが。
一般的に、新聞・テレビ対ネットという考え方がありますが、われわれは新聞もかなり眼を通していますし、テレビも見ています。常に。その上で、テレビや新聞はこういう風に取り上げていた、じゃあ、僕らは何ができるだろうか?という発想なんですね。
―1面に、トップ記事をどーんと出しますよね。
あれは海外のニュースサイトを参考にしています。そこは意図的にビジュアルで一押しで出すので。僕らは、新聞、テレビに対抗しようと思っているわけではない。新聞やテレビには、われわれはやっぱり適わない。全国通津うらうらに記者がいるわけではない。野田首相にはりつきでやっているわけでもない。そういう情報は皆さんもう新聞なりテレビなりで掴んでいる。それに対して、どうやっていくのか、ブロゴスはそこで、1面にキービジュアルでバーンと出すわけです。
―ニュースの情報はどこから取っていますか?
livedoorニュースから入ってきますし、Twitterにも目を光らせています。海外のニュースもフィードをとっています。写真に関してはAP通信さんと契約しています。海外はすべてをとりあげず、意図的に、「これは取り上げたい」というものを選択しています。中東でデモが起きて政権が崩壊している、一方で日本はどうか?ということで関心をもちました。
バランスを取ることが大切ですね。みんな興味ないけど、これだ!というものをだしゆく。トラフィックがあまり伸びなかったするので、どれを出すかはせめぎあいです。宿命ですね。
―オリジナル記事もありますね。
これは「ブロゴス編集部」というベンダー名でやっているんです。いろいろな方にインタビューさせていただいたり、シンポジウムの取材とか。結構、若者向けのシンポがあるんですよね。学生さんが主催されていて、結構いろいろやっているんですけれども、普通は取り上げられない。でも、そういうのをこそ取り上げたい。「こういう問題が、いま、あるんだよ」というのを掘り起こしてゆく。そこの観点は、編集部のセンスや問題意識によります。
―いま、何人ぐらいで働いていますか?
アルバイトもいれて、10人いないぐらい。
―この2年で、どれぐらい伸びたのでしょう?
一番大きく伸びたのは今年の大震災のときです。海外だと「政権を倒すぞ」みたいな議論になるんでしょうけど、今回の震災とか原発事故に関して言うと、もっと情報が知りたい、という人が多い。政府も出すし、テレビや新聞も情報を出しているんですけれども、結構、みんなもっと知りたい、と。
やってて思うのは、みなさん、やっぱり、海外のことは物理的に距離があるせいか、あまり関心を持たない。日本のことで、なおかつ自分の身に直接、密接することに関心があるんですね。いままであまり関心を持ってくれなかった人もかなり見にきてくれました。特に原発の件。専門家の方もいらっしゃいますし、政治家の先生も。みなさん、それぞれの立場で結構、特に主婦の方とか、小さなお子さんをお持ちの方とか。
―そこで広がりましたね。
広がったと思いますね。特に、TwitterやFacebook経由で見に来てくださる方が、がーっと増えました。
―日本で有名になりましたか?
どうですかね。数は大きいですけど、ビジネス的には「億」いかないと。いまは4000万いくかいかないか。Yahoo! ニュースは月間数十億と言われていますから。ハフィントンも最新のデータだと月間10億だそうです。広告は、規模が大きくないと入ってこないので、今は規模を大きくすることに力を入れている。投資の段階です。
―これほど大きくなると、やりがいもあるのでは?
ありますね。今、TwitterやFacebookも増えているので、それにうまくのっていきたいなと思っています。
―著名人へのアポがとりやすくなっている?
それはとてもあります。サービスを始めた時、ブロガーさんに転載させてくださいとお願いする場合、一から説明しました。ここ一年ぐらいは、「ああ、見てます」とか「是非」という方が多い。政治家の先生や政党とお話する機会がありますが、「いいよね」と言ってくださることが増えています。実際に書いている方とか、意識の高い方の間で認知度は広がっている。
―ブロゴスは日本のハフィントンポストのようですね。しかし、有名人だけでなくもっと広い人が書いているし、トレンドを作っているから、超えている部分もあるのかもしれません。
そうですね。(様々なブログ上の意見)をどうコントロールして、きちんとした場にしていくか。床屋談義、世間話だったら、誰にでも言えることだと思うんですけど、ほかの人に対しても、「一理あるよな」とか、「確かにそういう発想は、視点はなかった」と思わせられるような書き手じゃないと、というのはありますよね。
―そうすると、やっていらっしゃることは、いわゆるキュレーションですね。
そうですね、それほど深く考えたわけではないですが、結果としてはキュレーションのようなことも。
―ネット論壇を作っているという自負は?
すごく著名なブロガーさんで、ここに入らないで独自にやっていくという方もいらっしゃるので、ここに全てがあるというわけではないんですけれども、ほかのサイトさんは同じようなことはやられてないですし、特に政治分野に限って言うと、ヤフーさんは「みんなの政治」、楽天も「楽天献金」がありますが、そことはまた違うところでやっています。
―金銭的なプレッシャーは?広告やアクセス数で?
われわれも今後どうするか、と。広告収入ですけど、ここに丸ごと課金したらどうか、という意見もあるのですが、いや、まず、ここでたくさん読んでもらって、政治家さんだったら、もしかしたらファンがついて、得票率があがったり、あるいは献金ということで支援者が増えるかもしれないし、ブロガーさんであればそこで出版のきっかけになったり、買ってくれる方が増えれば、われわれも書き手もうれしい。ユーザーにとってもうれしい。いきなり課金をしてしまえば、われわれは儲かるかどうかも分かりませんし、ユーザーとか書き手にとっては長い目で見てどうかな、と思います。
―将来は?
アクセスを増やし、議論ページを活性化させたい(注:ブロゴスは11月末、サイトを刷新)。ユーザーのTwitterなどでログインすると、記事の評価が分かるようにしたい。ブロゴスに参加するメリットがあるようにしたいですね。
ハフィントンなどのやり方をそのままコピーしてしまうと、日本は匿名の文化がまだ強いので、Facebookも、実名に抵抗あるからやっていない人もかなりいると聞きます。そこで、今回、コメントにもどこまでプロフィールを出すかを選べるようにします。完全に匿名にはしないが、かといって、全部Facebookのように実名も出すのではなく、バッファをとって活動できるようにしています。
―大学では何を専攻されたのですか?
教育でした。教員養成課程だったので、クラスメートは先生になっています。だから(自分は)アウトローです。ニュースではかなり異端です。
―新しいネットメディアを作ったという感覚はありますか?
ありますよね。もし就職で、新聞社とかに勤めていたら、私はいま30ですけど、田原総一郎さんにインタビューさせていただくなんてできなかっただろうな、と思います。
新聞記者の方はブログを書けといわれても書けないという方がいらっしゃるという話を聞きました。新聞記事だと書けるが、ブログで何でもいいから書いてといわれると書けない、と。主語が「私は」になると、筆が止まる。そこは面白いなと。逆に新聞記者さんからすると、何これ、ネットで気軽に始めて、と(思っていることでしょう)。
―でも、読む方も素人だから。読む方が面白いといえば、いいのでは。
そうですね。でも、責任は感じています。転載したり、お勧めしたりするのはわれわれなので。おかしいものは出せないな、と。
ーキュレーションはしていらっしゃいますものね。
でもそれが行過ぎてがちがちになると、結局何も載せられない。みなさん、会社員とかそれぞれの立場で書いているので、全部裏を取れとか、いいだすと無理になる。
―編集部の意見じゃないけど、というのも載せないとダメですものね。
はい。そこはみなさんが判断とする、と。Aという意見とBという意見を載せて、ユーザーが判断してくれればと思います。