小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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米「ニューズウィーク」の不運 ―「エコノミスト」好調の理由とは その3

 最後の回となった。今回は「ニューズウィーク」の動きを追ってみた。

 文中で参考にしたのは、Pew Research Center’s Project for Excellence in Journalism: The State of the New Media (An Annual Report on American Journalism) というレポートだ。米雑誌界の盛衰にご関心のある方は見ていただきたい。毎年出しているようである。http://stateofthemedia.org/2011/overview-2/

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―ネットサイトに吸収された米「ニューズウィーク

 好調の「エコノミスト」とは対照的に、米国では、「タイム」と並ぶニュース週刊誌の1つ「ニューズウィーク」の不調がひんぱんに報道された時期があった。

 米ピュー・リサーチ・センターが発表した、米ジャーナリズムに関する年次報告書「ニュース・メディアの状況 2011」によると、ニュース雑誌市場では、3大ニュース誌の「タイム」、「ニューズウィーク」、「USニューズ&ワールド・リポート」)が、2007年以降、急速に部数を落としたという。逆に比較的小規模(100万部前後から下)な「ニッチ(隙間)な雑誌」の「ニューヨーカー」、「エコノミスト」、「ウィーク」、「アトランティック」が部数を伸ばしていた。2008年の「リーマンショック」の負の影響が部数に明確に反映されたのは2010年で、「USニューズ&ワールド・リポート」は同年12月、ニュース週刊誌としての印刷を止めた。オンライン上で報道は続けているが、印刷物は業界ランキングを扱うのみとなった。

 「タイム」は2009年下半期の平均部数が335万部から1年後には331万部となり、マイナス1.1%の微減でおさまったが、「ニューズウィーク」は230万部から157万部に31・6%も激減した。「ニューズウィーク」の広告掲載頁は09年から10年の間に19・8%下落し、「タイム」は2.9%減。一方の「エコノミスト」は3.8%増で、明暗を分けた。

 米国のニュース週刊誌市場最大手「タイム」と、政治経済に強い「エコノミスト」の間に挟まれた格好の「ニューズウィーク」は、人員過剰もあってコストがかさみ、損失が大きく膨らんだ。起死回生を図るべく誌面刷新を試みたが、この時、目標としたのが「エコノミスト」だった。ネットで流れるニュースのスピードに週刊誌では勝てないことから、論説や解説を主軸にすることに決めたからだ。

 「ニューズウィーク」は広告収入に対する考え方も大きく変えた。広告に大幅に依存することで購読価格を低く設定するという米国型の収入体系を改めるため、まず、広告収入の元になる読者数を2008年までの310万人から、2010年年頭までに150万人に変更した。同時に購読料を年間20ドル(約1560円、昨年11月7日計算)から40ドルに倍増させた。読者数は減っても、より高い購読料を払える読者を対象にする雑誌に変えようというのである。(ちなみに、「エコノミスト」の購読料は年間120ポンド前後で、円に換算すると約1万2000円から1万5000円ほどになる。「ニューズウィーク」の購読料よりもかなり高額だーあるいは「ニューズウィーク」の価格はかなり低い。)

 しかし、現実は厳しかった。08年から09年にかけて広告収入は37%下落。刷新誌面も評価を高めることができず、2010年5月、「ニューズウィーク」を半世紀近く所有してきたワシントン・ポスト社はついに「ニューズウィーク」を売りに出した。同年8月、音響関連の企業を経営するシドニー・ハーマンが、負債を引き受ける条件で、「ニューズウィーク」をたったの1ドルで買収した。この年の12月、「ニューズウィーク」は、2008年に生まれたばかりのネット専門のニュースサイト「デイリー・ビースト」と合併。経営はニューズウィーク・デイリー・ビースト社が行うことになった。同社の株の50%は「デイリー・ビースト」を所有するIAC社が、残りをハーマンが手にする。

 先の年次報告書に寄せた論考(「Magazines: A Shake-Out for News Weeklies」)は、米国のニュース雑誌は、これまでのように、移り気な読者を大量に集めることで大きな広告収入を取得するやり方ではなく、「『エコノミスト』のように」、堅実で忠実な購読者を確保することに重点をおく必要がある、と指摘している。

 また、「エコノミスト」が過去10年間に北米で販売部数を130%増大させ、ビジネスとして成功させることができた理由として、①グローバルな経済情勢を理解するために必須の読み物だというマーケティング戦略に成功したこと、②知性を高めることを主眼とする編集方針の一貫性、③一部売りの値段及び年間購読料を米国の「タイム」などよりもはるかに高く設定していることを挙げている。

 米ニュース雑誌市場で「エコノミスト」よりも成功しているのが、月刊誌の「アトランティック」だ。部数は前年比1・3%増だが、広告頁数は24%増。デジタル広告の収入は70%増加、紙媒体からの収入も27%増となった。「アトランティック」関係者は成功の理由を①確固としたブランド化、②デジタル・ファースト戦略、③マーケティング・サービスの構築、④読者が参加するライブ・イベントの開催、⑤質の高い人材を採用する点を挙げた。

 もともと英国で始まった、その週のニュースを世界の様々なニュースメディアから選りすぐってまとめる、「ウィーク」も人気が高い。部数こそ微増(0.7%)だったが、広告頁数は前年比16・8%増となっている。(終)(月刊メディア誌「Journalism」12月号掲載分に若干、補足)(http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=13295)

「エコノミスト」http://www.economist.com/
「ウイーク」http://www.theweek.co.uk/
「タイム」http://www.time.com/time/
「ニューズウィーク」http://www.thedailybeast.com/newsweek.html
「アトランティック」http://www.theatlantic.com/
by polimediauk | 2012-01-19 19:47 | 新聞業界