小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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「ワイヤード」から探る考え方のヒント① ―MITメディアラボ所長伊藤氏の話

 「ワイヤード」という雑誌をご存知の方は多いだろうと思う。

 私自身は最近、知人に勧められてネット上で「ワイヤード・ジャパン」の記事を読むようになった。テクノロジーのみならず、ものの考え方について教えられるような、多くのトピックに出会った。私が今住む英国では英国版「ワイヤード」があって、米国には本家「ワイヤード」が出ているのだけれど、日本語版は記事が厳選されているのか、あるいは編集がうまいのか、自分自身にとっては参考になる記事が多かった。

 そこで、思わず、いくつかをクリッピングしたのだが、どこに感動したかの記録を自分でも書きとめておこうと思い、ブログにつづることにした。(「ワイヤード・ジャパン」から宣伝料をもらっているとか、そういう関係では一切ないので、念のため。)

 まずは、MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボの第4代所長となった、伊藤穰一氏のインタビュー(2011年4月28日付)。少々前の記事であるのをご了承願いたい。

 伊藤氏は:

2010年に辞任したFrank Moss氏に代わってMITメディアラボの所長を務めることになる。メディアラボは、1985年にNicolas Negroponte氏によって創設された。Negroponte氏は、『Wired』誌の創刊当初に重要な役割を担った人物でもある。

「Joi」(ジョーイ)という愛称で知られる伊藤氏は、現在44歳。有名な思想家、執筆家、ベンチャー・キャピタリスト、起業家であり、さまざまな領域にわたる幅広い実績を持っている。

 という。

 そして、「伝統的な科学では、ひとつの専門を深く研究するように教育され」るが、専門と総合のバランスについてはどう考えるかを聞かれた伊藤氏は、こうこたえる。

 「望ましくないのは、全部の新聞の見出しを読み、他の人が消費するような内容を消費して、自分をジェネラリストと呼ぶような人です。それでは役にたちません。そういった人は、他の誰もがすでに知っていることを知っているだけであり、おそらくは同じ考えを思いつくだけでしょう」

 「なんであれ深く追究すれば、他の人の知らないニュアンスを発見し始めます。そういったニュアンスこそ、ブラックボックスをあけて、「ちょっと待てよ、この方法で考えていていいんだろうか」と問うための助けになる」―。


 シリコンバレーについての見方にもはっとさせられた。同氏によると、「現在のシリコンバレーは、あえて危険に挑戦することや機敏に行動を起こすことには本当に長けていますが、長期的視野にたって行動するのは苦手です。その原因は、ベンチャー・キャピタルの本質から来ます。公的な市場の圧力により、売上を第一に考え、早い段階で勝負を挑んで成果をあげ、さっさと退散せざるをえないのです。だから、素晴らしいことを思いついて成功をおさめたとしても、すぐに売上を上げることに意識を集中することになるのです」。

 アップル、フェイスブック、グーグル、あるいはツイッターでもいいが、米国のいまやとても大きくなったビジネスについて、日本での論調を見ていると、「xxxはすばらしいが、でも、まだ黒字化できていない」という落ちがよくつくのに気づく。もちろん、黒字化して、ビジネスが拡大するのはすばらしいのだが、「お金をもうけられたかどうか」で、最終的な判断をしてしまうのが、何ともつまらない思いがしていた。つまり、お金がもうかったかどうかの部分よりも前の、新しいサービスなり、プラットフォームなり、コミュニケーションの仕方なりを思いつき、これを誰もが簡単に利用できる形で世に出したことーーこれこそがすごいことなのにな、と。

 少し話を広げれば、10年前に日本に住んでいたとき、新聞やテレビのニュースで、いつもトップのほうにあったのが経済関係の話だった(ように思う)。たとえば、1面トップの大事件といっても、大企業が官庁に大きな賄賂を払っていたとか、何かしらお金にかかわる話が大きく扱われていた印象がある。いつしか、自分の中に、「経済=世の中でもっとも重要なこと」という意識が刷り込まれ(重要なことであるのには間違いがないとしても)、たとえば徹夜して働いたという会社の同僚や先輩の話が、尊敬の思いで社内で語られることを普通に思い、びしっとスーツで決めた、働く女性・男性が格好良く見えたりした。

 英国に来て、あれ?と思ったのは、経済以外にももっと面白いことや重要なことがある、ということ。たとえばそれは国際関係かもしれないし、文学かも、あるいは人権擁護かもしれない。移民問題かもしれない。あるいは有名人が何を着ていたか、かもしれない。いずれにしろ、「経済=国の、そして国民の最優先事項」ではない(すくなくとも、「ではないかもしれない」)・・・これがじわじわと分かってきた。

 話は飛ぶようだが、そこで伊藤さんのインタビュー記事を読んで、「ふむ」と思ったのだった。もっとも、伊藤さんは米国の読者を想定して話しているわけだけれども。「新聞の見出しの全部を読む」=「同じようなことを考える」ことにつながる、という話や、「素晴らしいことを思いついて成功をおさめたとしても、すぐに売上を上げることに意識を集中する」ことで、失うものもあるのだろうな、など。頭の体操として、含蓄がいっぱいと感じた。

MITメディアラボ新所長、伊藤穣一氏に聞く
http://wired.jp/wv/2011/04/28/mit%e3%83%a1%e3%83%87%e3%82%a3%e3%82%a2%e3%83%a9%e3%83%9c%e6%96%b0%e6%89%80%e9%95%b7%e3%80%81%e4%bc%8a%e8%97%a4%e7%a9%a3%e4%b8%80%e6%b0%8f%e3%81%ab%e8%81%9e%e3%81%8f/

 

 
by polimediauk | 2012-02-10 19:56 | ネット業界