小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)には面白エピソードが一杯です。本のフェイスブック・ページは:https://www.facebook.com/eikokukobunsho/ 


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「ワイヤード」から探る考え方のヒント② ―電子書籍の未来と「ストーリー」(物語)

 いよいよ、アマゾンが日本で電子書籍端末(キンドル)の販売を開始する見込みだ。4月からというのが、いかにももうすぐだ。

米アマゾン、日本で電子書籍端末 ドコモから回線
http://www.nikkei.com/tech/news/article/g=96958A9C93819696E3E2E2909E8DE3E2E2E0E0E2E3E09F9FEAE2E2E2;da=96958A88889DE2E0E2E5EAE5E5E2E3E7E3E0E0E2E2EBE2E2E2E2E2E2

インターネット通販で世界最大手の米アマゾン・ドット・コムは4月にも電子書籍端末「キンドル」を日本で発売する。NTTドコモから回線を調達し、携帯回線でネット上の電子書籍を入手できるようにする。価格を1万数千円に抑え、電子書籍サービスの顧客獲得につなげる。
 ドコモ回線のほか、一般の無線LANも選べる。ドコモ回線の使用料は電子書籍の購入代金に含まれ消費者に通信料金はかからない。


 すでに電子書籍を出している佐々木俊尚さんが、日本の出版社もすでに電子書籍を出版しており、アマゾンがキンドルで出す書籍はたぶんラインアップ的にはそれほど変わらないかもしれないが、違いがあるという。それは、アマゾンがやるということで「安心感」を与えることではないか、と書いていた(フェイスブック・フィード)。

 キンドルは、使ってみないとその便利さがいまいちピンと来ないだろうと思う。これを機会に電子書籍市場がどっと拡大すればいいなと遠くから思っている。

***

 「ワイヤード・ジャパン」で年末紹介されていた、「読むが変わる」シリーズ(1から6)やその関連シリーズの記事が、電子書籍の将来や「読む」ことの意味について考えるために、非常に示唆に富む内容になっていた。一歩先を進んでいる米国の話で、日本の動きと重なるものもあれば、「なんだかはるか遠い話」に見えるところもあるかもしれないが、ご一読をお勧めしたい。文章はKei Wakabayashiさん、写真はYasuyuki Takagiさんである。

 http://wired.jp/2011/12/19/new_medium_new_forms_new_stories_1/
http://wired.jp/2011/12/20/new_medium_new_forms_new_stories_2/
http://wired.jp/2011/12/21/new_medium_new_forms_new_stories_3/
http://wired.jp/2011/12/22/new_medium_new_forms_new_stories_4/
http://wired.jp/2011/12/23/new_medium_new_forms_new_stories_5/
http://wired.jp/2011/12/24/new_medium_new_forms_new_stories_6/

 私が目に留めた部分の抜粋をすると、まず、最初の問いかけが、端末が「いくら進化したところで、面白いコンテンツがなければ、なんの意味もない。じゃあ面白いコンテンツってなんだ? 電子ならではのコンテンツってなんだ? ぼくらはいったい何を読みたいのか? 書き手はそこでいったい何ができるのか?」であった。

 そこで筆者とカメラマンは米国に飛ぶ。思い出したのが、米ワイヤード編集長クリス・アンダーソンが言った、電子版の登場で「新しいストーリーの語り方が可能になる」という話だったという。ストーリーの語り方=ストーリーテリング、である。そこで筆者は、雑誌は「物語りを語るもの」であったと気づく。欧米の雑誌には「ストーリー」としか呼びようがないような、「長文の記事が掲載されている」。

 一方、日本ではこの意味でのストーリーにはなかなかあたらず、それは、筆者によれば、「雑誌も本も『物語』ではなく『情報』を扱うメディアになってしまった」から。雑誌のみばかりか、あらゆるメディアが「ひたすらカタログ化の一歩をたどった」。
 
 ・・・なるほどなあとしばし、考え込んだ一節である。

 筆者は電子端末がいったいどんな「ストーリー」を提供してくれるのかを探るため、米国で様々な人に会う。

 実際に米国で電子書籍で本を読んだ人に話を聞くと、実は最後まで読みきった人が意外と少ないことに筆者は気づいた。しかし、最後まで読めた本として挙げられたのが、犯罪もののノンフィクションで、これを出版していたのがTHE ATAVIST(ジ・アタヴィスト)であった。

 電子本出版社アタヴィストが新しいのは、普通の雑誌記事としては長いが、一冊の本にするには短い、「シングル」というサイズのストーリーの出版に目をつけた点だ。「雑誌には載せられないような長いノンフィクション記事を、単体で安価に販売する」というアイデアである。当初はうまくいかなかったが、アマゾンが「キンドル・シングル」というセクションを設けたことで、ビジネスが軌道に乗り始める。

 出版社側は「雑誌のストーリーがウェブに引っ張られる形でどんどん断片化していく状況に不満を感じている書き手・読者のためにロングフォーム・ジャーナリズムを提供する場を作りたかった」という。

 この記事の中でも紹介されているが、英ガーディアン紙も、「ショーツ」というジャンルで、キンドル・シングル向けの電子本をどんどん出している。

http://www.guardian.co.uk/info/series/guardian-shorts

 新聞社にはコンテンツがあるから、こういうこともありだろうなと思う。(ちなみに、朝日新聞でもウェブ新書というのを出している。)

 次に、「ワイヤード」のWakabayashiさんが出かけたのは、BYLINERバイライナーという電子書籍専門の出版社。現在、3500人のノンフィクションの作家6万件の記事を販売。一つの作品は大体1万から3万5000ワード。それぞれの作品は「雑誌記事でも本でもない、その中間にあるフォーマット」だという。

 「ただ本を出して、お客さんが集まってくるのを漠然と待っているやり方はしない」と心に決めていたのだと出版社の人は言う。「わたしたちが扱っているノンフィクションに興味のある読者を、こっちに集める」。ある作家に興味のある読者が集まってくることで、コミュニティーが成立する。そこに向けて、出版社は直接、商品を投下する、と。「読者と書き手をここで結びつけることで、ひとつのエコシステム」ができるようにしたかった、と。
 
 このシリーズで最後に訪問したのは、TED BOOKSのジェームズ・デイリー。デイリーはもと「ワイヤード」の編集長だったそうだ。TEDはご存知の方も多いだろうが、「1984年に始まった非営利組織」で、広める価値のあるアイデアを広く知らしめることを趣旨に、世界中で会議を開催してきた。これまで、その活動は主に「講演会」だったが、昨年から、読み物を制作しだした。

 TEDの趣旨は「新しくてエキサイティングなアイデアをスピーディーに広める」ところにあるが、「通常の出版の形態の中でやるのは難しい」。講演だけでは物足らないが、「専門書をちゃんと読む時間もない」読者に、「シングルのサイズ感はぴったり」。
 
 この箇所、本当に、個人的にもうなずける。自分が読み手、書き手、買い手、情報の収集者であるとき、「簡単な解説書はないかな」、「編集者の手を通って、正統性があり、かつ本ほどは長くないもの」がほしいと何度も思う。また、書き手ということに限れば、「この件に関しては、詳しいんだけれど、一冊の本として出すには時間と手間がかかりすぎる」、「世の中にすぐに出したいのに(=情報が広がる、かつ生活の糧になる)」と思うこともしばしばである。

 記事に戻れば、電子書籍だからといって、「書き手が書いた原稿がそのまま商品になるわけではない」「制作のプロセス、クオリティーは『本作り』のプロが管理する」という。これもいいなあ、と思う。

 何人かの作家の方が、最近ネット上で書いていたけれど、書き手が見出しも含めてほぼすべてを書いて、ほぼそのまま本になっているように見える場合でも、やはり、いったん、編集者というか、他者の視線が入っているのは大切だし、より質が向上するのは真実だと思うからだ。

 ご関心のある方は、上記のアドレスからじっくり記事を読んでいただきたいが、この「シングル」、あるいは「ショーツ」がーーーかつ、短いだけではなく、ある程度長く、しっかりと内容のあるものがーーアマゾン・キンドルの日本語版開始で、花開くといいな、と思う。



 



 
by polimediauk | 2012-02-11 21:20 | ネット業界