小林恭子の英国メディア・ウオッチ ukmedia.exblog.jp

英国や欧州のメディア事情、政治・経済・社会の記事を書いています。新刊「なぜBBCだけが伝えられるのか」(光文社新書)、既刊「英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱」(中公新書ラクレ)など。


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BBC職員がストを予定


大規模削減の理由

 3000人-4000人の職員の削減計画に抗議するため、BBC職員が5月23日に24時間スト、5月31日からは48時間ストを計画している。どの番組がどの程度の影響を受けるのかはまだ明らかになっていない(12日時点)が、例年5月末に開催され、人気があるチェルシー・フラワーショーの放映、朝のニュース番組、ランチタイムのビジネス番組などに大きな影響がある、と見られているという。(BBCオンラインによる。)

 こうしたストが起きるきっかけとなった削減計画は、BBCの新社長マーク・トンプソン氏が昨年の12月、発表した。今後3年間で全職員の1割に当たる約3000人の職員を削減する、というもの。(BBCの職員は現在約2万7000人。)

 BBCは、2003年、イラク戦争を巡る政府情報操作疑惑(実は、「疑惑」ではなく、イラクの大量破壊兵器の脅威を誇張していた、という部分は事実だったのだが)を発端に、厳しい時期が続いた。「政府はイラクの脅威を誇張していた」としたBBCの報道の匿名の情報源となった元国防省顧問が自殺し、この自殺の原因を解明するために発足されたハットン独立調査委員会が、2004年2月、「BBCの報道には根拠なし」「誇張はなかった」としたため、責任を取って、当時の社長、会長、及び報道をした記者が一斉に辞任したのだ。

 ニュース報道にプライドを持ってきたBBCの威信は傷つき、トップ二人の辞任に、職員の心も揺らいだ。

 2004年6月には、「ニール・レポート」という報告書を出して、「何故正確ではない報道がなされたのか?」を自己検証。「取材時に、必ずメモをとること」など、取材の基本中の基本が書かれていた。

 新しく着任したトンプソン社長、マイケル・グレード会長は、「どんどん改革を推し進める」と確約。数ヵ月後に出たのが、今後のBBCの活動方針をしたためた「公的価値を作る」という報告書だった。同時に、人員削減策も発表。

 しかし、この削減策は、「やりすぎ」という声が当初から出ていた。

 多チャンネル・デジタル放送がさらに進んでいけば、BBCにチャンネルを合わせる視聴者も減るかもしれない、この時、BBCの以外の他者(例えばBBCの予算案の承認に大きな力を持つ、政府など)がBBCにコスト削減を言うようではダメで、自らがコストダウン策を提示しなければ・・・というニュアンスを持たせながら、トンプソン社長は削減計画を発表した。

 しかし、本当に、BBCはこれほどの削減を今する必要があるのだろうか?

 「政府が指一本切れ、といったのに、腕一本を切ってしまった」と評したのは、ジャーナリストの労働組合NUJの幹部の一人だった。

 昨年12月当時、BBCは2007年から実行となるBBCの活動などを定める「設立許可状」の政府案が出るのを、若干こわごわと待っている状態だった。情報操作疑惑の後、BBCの最大の収入源であるテレビ・ライセンス料の廃止論や、BBCの分割論などが新聞各紙でとりざたされ、シンクタンクなどもこうした提唱をしていたからだ。
 
 3月、政府はライセンス料制度は「少なくとも今後10年間は継続する」とする提案を発表。BBC側にとっては、ひとまず胸をなでおろした展開となった。

 今回の削減案は「批判される前に、自分たちで削減してしまえ」という感が、私もどうしても強いように思う。つまり、一種の政治的動きなのだ。

 時の政府からの編集上の介入をさせないように、その時々で闘ってきたBBC。自分自身のサバイバルのためには、時には自分で自分を痛めつける姿を見せることも必要、と考えたのだろうか。

 本当に、これほどの規模の削減が必要なのか、どうか?「組織を守るための削減策」には違いないが、「質の向上のため」というよりも、政府あるいはBBCの批判者に対する一種のポーズという意味合い「も」、多かれ少なかれあって、犠牲になったのは削減されるBBCスタッフ・・・という部分という構図が見えてしまうのだが・・・。

 一時的にスタッフ削減で「涙を飲んでもらった」としても、ゆくゆく、「より強いBBC]になるためには、仕方ない・・と考えているのだろう。

 



 
 
by polimediauk | 2005-05-13 08:54 | 放送業界